普通

《特集 5篇のデビュー小説》

『息切れ』久保田智子・・・面白くないコメディ。とくに感想書くまでもなく。 『朝がある』柴幸男・・・工夫して書いているけどただ分かりにくいだけ。ふつうのもの書いてそこそこ読ませられるものを書ける(と感じさせる)人がする工夫なら許せるんだけど。…

『おはなしして子ちゃん』藤野可織

この人らしい、というかひとつのポリシーのような非リアリズムな現象をメインにしつつ、今回は、父母と没交渉気味な女の子が、みんなしてイジメていた子にある日復讐され、それを期に自らの傷を見出すという、昨今イジメ問題が騒ぎとなったが、そういう現代…

『骨』井上荒野

男子中学生もの。上記ほど予想内ではないが、幼馴染の関係が年齢と共にあっけなく変質したり、理不尽な暴力をふるったほうがあとで心理的に守勢にたたされてしまうというのは、物語としてありがちで、ではありがちではない所はというと、コンビニ解雇された…

『枝豆』橋本治

「草食系男子」についてモニターされる学生のはなしなのだが、その「草食系男子」というコトバがなぜに言われるようになったか、色々考えさせるという意味では少し面白かったな。たしかに、体毛濃くていつも汗かいていて近眼でデブな男性がいくら女性に消極…

『星砂物語』ロジャー・パルバース

うむ良質なエンターテインメントですな。 とったどー、の濱口を見てても分かるとおり、ヤスを使ってさえ何時間もかかるのに、16歳のこないだまで看護婦をやっていた少女が竹槍でタイやエイを捕らえてしまったりするのはどうなの?とか、いくら衣服が女性モ…

『帰る』長嶋有

SNSで知り合った人が集まって飲むはなし。あーもう私にとっちゃどうでもいい世界だなあ、というのが前半から中盤まで。あだ名というか、登場人物のハンドルネームのセンスとか、「」の切り取り方のセンスが、もう受け付けない。デジャビュな感じというか…

『ばあば神(連作完結)』村田喜代子

あの日(3/11)とその日から数日のあいだに、ひとりの子持ちのシングルマザーに降りかかった出来事を描写するもので、ど真ん中な震災(体験)小説である。なるほど生き生きした描写はあるので評価はそれほど下げなかったが、体験としては、最大公約数的な多…

『ちょうどいい木切れ』西加奈子

経験的にいって、背の高いひとには気の弱い大人しい人が多く、背の低いひとはその逆だったりする。それがよく出ていて、また背の低い人のマイペースぶりが面白い。ただ、ユーモア小説としてみてちょっと中庸な感じかな。行儀がいいというか。

『四本のラケット』佐川光晴

今回は掲載誌はすばるでも「おれのおばさん」と関係のない世界で、しかし、たんに直接関係がないだけだ、というような内容。この作家はこのまま、善意の人々だけが出てくる希望の小説みたいなのしか書かない人になってしまうんだろうか。 いま実際に起きてい…

『日本文学盛衰史 戦後文学篇 最終回』高橋源一郎

またここでアルバートアイラーかよ、とウンザリする。なんで小説家はこういうときアルバートアイラーなんだろう。たしかに何であんなものが持ち上げられていたんだろうという意味で、アイラーというのは格好の素材なのかもしれないが、他殺説も出ているとか…

『/Y』長野まゆみ

どういうつながりで連作となっているのか2作目でもまだ分かってないが、ようするにあまり記憶に残らないんだなあ。この人の作品は読んでいるあいだは、きっちり整った上手い語りだなあ、きっと切れる人なんだろうなあとか思ったりするものの、自らに引き付…

『泡をたたき割る人魚は』片瀬チヲル

島だとか泉だとかビタニィという飲み物だとか、そこそこ魅力ある世界を現出させていて、また他の掲載作との比較でこういう評価となったが、われながら甘いと思う。なぜって、複数の男のあいだで揺れ動く若い女性が主人公なんだが、制度とか、あるいは「たっ…

『デッキブラシを持つ人』堀江敏幸

これまでにも幾度か読んだ記憶があるが、フランスの詩人の足跡を尋ねるもの。

『いつも彼らはどこかに』小川洋子

立川のほうにもモノレールはあるが府中の側は通らないので、この小説に出てくるのは浜松町からでてるモノレールのことだとは思うが、それはたしかに大井の、馬糞の匂いが漂ってくるくらいのところを通るものの、ディープインパクトが一度も走ったことのない…

『アイビー・ハウス』原田ひ香

最近の若者のクルマとか海外旅行に関心を示さないような低空飛行な生きかたに合致しているのかしらんが、あるいは格安に都会に住めるということだけなんかも分からないけど、シェアハウスというのが流行とまではいかなくてもそこここで言われだしているよう…

『笑う母』森内俊雄

母と母。実の母と、妻の母の過去を振り返る話で、かなり自伝的要素が強そう。私小説という分量もなく、総括的に振り返ろうとしたせいか、断片の記述ばかりであまり残念ながら記憶に残ってくれそうにない。読んでいるあいだ面白いだけでも充分といえばそうな…

『原子海岸』村田喜代子

以前おなじ「文學界」に掲載された、ガンの最先端の放射線治療にまつわるあれこれを描いた小説の続き。というか、登場人物に、この治療が原子力発電所となんの関係もないと思わせ安心させちゃってるような展開は、はっきりいってこれじゃ後退だ。そりゃ直接…

『鼻の虫』多和田葉子

人間の鼻のなかに寄生する極めて極めて小さい虫の話から入る。健康なひとでもその皮膚には様々な寄生虫がいてというのを耳にしたことがあり、「鼻の虫」というものがいてもおかしくはないが、途中から話は多和田らしい非リアリズムに傾く。生の実感を喪失し…

『新年特別随筆』

車谷長吉は相変わらず面白いなあと読んでいて、米谷ふみ子のページで、「原発を持ち込んだ責任は?」「女性ではないとは言える」で、以降を読むのをきっぱり止める。ハイハイ、女性と子供はいつでも正義なわけですねえ・・・・・・。 たとえば、王室だとか皇室だと…

『太陽光発言書』モブ・ノリオ

新年号というのにこの号の「すばる」ではこれしか言及する作品がない。ま私が、同時掲載の青来有一というひとの作品をまったく読む気がないからなのだが、この作品だってこれほど短くなかったら読むことはまず無かっただろう。 で内容なのだがこれ小説なんだ…

『イサの氾濫』木村友祐

田舎の干渉的な生活を疎ましく感じ都会に出てみたもののやはり馴染めず、現実社会に居場所感をなくしかかっている中年男性の話。で、同様に家族の間に居場所のなかった変わり者の叔父の足跡をたどることで自分を見つめなおそうとする。と、ざっくりまとめて…

『泡の中の男』佐川光晴

「おれのおばさん」が集英社内で好評なのかどうか分からないが、まだ続編が続いていて、いよいよ問題の発端となった、女こしらえて横領で捕まった「おれ」の父親のはなし。 この小説がそれほどひどいわけではないが、今から思えばあくまで当初の予定通り「お…

新連載『めぐり糸』青山七恵

現代の話しか読んだことがなかったが、なんと今度は、終戦後暫くした頃、花街の料亭で芸者さんたちに囲まれて育った少女の話だった。少し驚いた。引き出しからものがなくなると書かなく(書けなく?)なる人と違って、いまさらながら「作家」なんだな、と思…

『金の櫛』鹿島田真希

賢さ、とか、欲、とか、上昇志向、とかは、ときになぜこんなにも疎ましいのか。たぶん、ときに、だからではないか、そんなふうに思った。

『ピンク色の三角』エレン・クレイジャズ 岸本佐知子・訳

まったく意図していないのに、というか逆の意図なのに、関係に楔を打ち込んでしまう行き違いが、ピンク色の三角というアイテムを触媒にしてうまく描かれている。で、そういう話の中心のポイント以上に、同性愛者へのこの仕打ちはあまりにあまりにひどすぎる…

『見おぼえのない女』谷崎由依

前半から中盤、やや芝居めいてはいるものの、リアルなサラリーマン中年の屈託を書こうとしていて、でそれなりに書けているというのに、同僚の女性の存在がどんどん一人歩き的に大きくなってきて、夢幻な存在に。で、私はがっかり。せっかくここまで、という…

『裏地を盗まれて』荻世いをら

いままでこの作家にはあまり良いこと書かなかったが、面白さという点では相変わらず足りないものの小説的言語の強度としてはこの号に載った作品のなかではいちばんだろう。そのテンションがラストまでたれることなく強度を保っているのもいい。 独特の言葉遣…

『橋』黒川創

今回は小説そのものにかんしてほとんど感想というべきものがないのだが、小説の登場人物がもしイージス艦が横須賀の原子力空母をコンピューターの誤作動かなんかで誤って攻撃したら原子炉がアレして半径数キロ以上が、とか恐怖するところでなんだそれ、と思…

『共喰い』田中慎弥

「性」に「暴力」ですか、たしかに永遠のテーマではあるけど、その扱い方はいったいいつの小説なんだよ、という感じは残る。もう返してしまったので確かめることはできないが、物語の時代は相当前のことだろから、こんなに放縦な父親がいまどきいるわけもな…

『今まで通り』佐藤友哉

原発事故関連。有名になった「ただちに影響はない」を、ということは長期的に影響あるって事じゃないか、と早合点するアホ主婦の話。 だって、「長期的な影響については確定的なことはなにもいえないがただちに影響がないことだけはいえる」ってことだって当…