2007-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『果樹園』堀江敏幸

私にとっての堀江敏幸初体験。わりとよく書けたリアリズム系中篇である。老年に差しかかったときに休職を余儀なくされた男性が二匹の犬を散歩させながら、自己を見つめなおす、といった内容である。 以上。 ・・・って終わってもいいくらいあまりこの作品で書き…

『文學界』 2007.11 読切作品

この間久しぶりにマックにいったら、メニューの点数(アイテム)の少なさをあらためて感じました。 あれではバーガー業界の吉野家、なるほどここまで点数を絞れば100円で利益が出るという事でしょうか。 なんて、すっかりジャンクフード扱いしてますけど、む…

前田司郎のエッセイ

ひとりよがり、というと悪くいいすぎになるが、なんか自縛状態というか、自分の力で考えようと思いすぎというか。この人の問題意識からして、どっかの大学の文学部哲学科でも入ってウィトゲンシュタインとかあのへんの言語哲学的なものを研究してりゃいいん…

広小路尚祈のエッセイ

下着についての話で、良い意味でエッセイの見本のような感じ。やはりこの人は書ける人だ、と思う。ちょっとエンターテインメントの要素が入ったもの−中間小説的分野でも成功するのかもしれない。 エッセイ自体の内容も背伸びしない宣言でもあるし。

『左の夢』金原ひとみ

コンスタントに作品を発表しつづける金原ひとみだが、それによって質が落ちるという気配すらない。またすごい小説を読んでしまった、という気分だ。 今作は男性一人称小説でありながら、圧倒的なリアリティ。思わず自分のバカかりしあの頃を省みざるを得なく…

『すばる』2007.11 読切

寒くなると温泉とか行きたくなって、近くにそういう施設もあるのですが、垢が浮いてるような安い銭湯と2000円以上もするスーパー銭湯しかありません。 どんなに広くて綺麗で色んな湯が楽しめても、2000円以上払う気はもちろんしません。

『はじまらないティータイム』原田ひ香

話に筋があり、読者を引っ張っていってくれる、そんな物語的マジックをこの小説は強く持っている。女性たちの性格的な色分けを強く出しすぎた面があって、ちょっと一面的かなという気もするが、そんな欠点も許せる気になってしまう。 卑近な話がテーマの中心…

『パワー系181』墨谷渉

体にコンプレックス(劣等感ではなく複合感情)を抱く、大柄な女性とチビ男性の物語といったところか。女性はそのコンプレックスをポジティヴな方向に変えていくが、男性は醜い方向に発散させていく。 男性がそうなったきっかけは妻が流産になったことにあり…

『すばる』2007.11 すばる文学賞

高校生の頃は目玉焼きにこだわりがありました。黄身が固まっていないとダメなのです。どうせなら両面焼きにしてくれとまで親に言った覚えがあります。 なんてアホらしかったんでしょう。 さいきんは黄身が固まっていようがトロリとしていようが、白身がカリ…

『アウレリャーノがやってくる』高橋文樹

小説なんかほとんど全く書いたことがないくせに、たいへんだろうなあという思いが最近増していて、新人の人に対してはなんか[紙の無駄]と言いづらい気もしてきていた私なのだが、この作品はそこまで迷わなかった。 とりあえず最後まで読むのがそれほど苦痛で…

『新潮』 2007.11 新潮新人賞

新しい歯ブラシを買ってきたのでいつもより一所懸命歯を磨いたら、口内炎になりました。 その口内炎を気にしてヘンな噛みかたで食事をしていたら、反対側も口内炎になりました。

金原ひとみのエッセイ

完全にひいきで書いてるけど、書き出しからなかなかいかしてるエッセイだ。 たかが貧血と診断されただけのことと、それについての自分のまわりのごく小さい範囲の事だけ書いて、面白く書けるもんなんだな書ける人は。

松浦寿輝の評論

松浦寿輝がここで扱ってることがらって、近代が、その現場において、どういうふうに成り立ってきたのか、みたいな事で、それなりに関心があるはずなのに、あまり面白さを感じないのは何故なんだろう。 丹念に読めばなかなか面白い事が今月も書いてあるんだけ…

山城むつみの評論

正直ほとんど私の頭では理解できなかったので、良くも、悪くも書きようがない。山城氏の文体はとくに特徴のないものだが、ドゥルーズとか出されると、もうダメだ。最後のほうで、9.11を映画との対比で語られるんだけど、いつもそれで思うのは、あの事件…

斎藤環の評論

いつ読んでも、なんか退屈。 そもそも心理学だの社会学だの医学だのというのは一般論の世界であって、そこに当てはまらないものを「特殊」としてオミットしてしまうわけだけど、そのこぼれ落ちた「特殊」を「個」とみて同等にシンパシーをもって掬っていくの…

福田和也の評論

堀江敏幸は川端だった、という内容でいつもより明確な論旨だなと思いつつ読み進めるとなんかへんな箇所がある。 堀江の書いた小説についての話で、現代ではあらゆるものがマスプロダクト化されているので、堀江が書いた、生産設備が「手作り」だというのはま…

『新潮』 2007.10 拾遺2

私の場合はこだわりとかそういうのではないので、別に各個人がそれぞれでいいと思うけど、短時間でそれなりの味のカレーを作るとしたら、肉はひき肉使って、玉ねぎはあめ色にしなくてもソース入れればOK、最後に牛乳いれてまろやかにというのがオススメ。 …

『天登り』村田喜代子

元気なリタイア老人たちの第二の人生シリーズとでも言おうか。前には確かヘンな旅行マニアおやじが出てきたのでそれなりに面白かったが、今回は山で自給自足をする老人の話。パソコンもなかなか使えたりする。 あまり変わった人たちという感じはしないところ…

『目覚めた後の夢』辻 仁成

短いという全くそれだけの理由で読んでみたが、意外と読めるので驚いた。少なくともこないだ読んだ議員のやつより読める。辻の小説をまあまあ読めると感じてしまうくらい最近はひどいものを読んでたという事だろうか。だとしたら、ちょっと暗い気持ちになる…

『ネバーランド』(7)藤野千夜

いぜん酷評したことがある藤野さんだがゴメンナサイというか、なんかこの作品に関しては、そこそこ面白さを感じた。 付き合うのがこの男性でなければならない事を、その気持ちや理由をストレートに言葉で描写するのではなく、男性の行動を描くことによって「…

『修道女志願』小川国夫

さきの大戦のころの話で、修道院に志願する女性をその弟の目から描いたもの。自分の資質を理解するのがあまり器用でない姉と、それを分からない周囲への少年の反発を描いている。 もともと奔放な資質をもった女性が、そのことを分からず、逆に、結婚の失敗を…

『新潮』 2007.10 拾遺

そういえば『群像』の11月号がやたらと入手しづらいのはなんででしょうか? いつもの本屋に無くて、繁華街の大型書店に行っても無くて、辛うじて中型書店に一冊だけあったのを手に入れましたけど、発売一週間の雑誌でこんなに疲れるとは。半日がかりですよ。…

創作合評−岡松和夫+小池昌代+田中弥生

笙野頼子が入った合評をなかなか楽しみにしていたのだが、またメンバーが変わった。特筆すべきは田中弥生が議論をひっぱってるように見えることで、評論家筋が中心になってる合評というのは最近なかった気がする。 私が昨日最低評価を下した前田作品で、3氏…

『群像』 2007.11 巻末の鼎談

ときどきチャーハンとかお好み焼きとかで、やたらと作り方に薀蓄たれる人がいますが、そういう人って中年男性が多いですよね。なんででしょう。 もちろん私は、そういう人が余り好きではありません。

『誰かが手を、握っているような気がしてならない』前田司郎

前作はそこそこ楽しげな作品だったように思うが、今作は人間観察というより観念論であって登場人物の独白が大部分を占め内容的にも退屈なうえに、やたらと長い。ここまで長くする必要性があまり感じられず、そのぶん[紙の無駄]とさせてもらった。必要性とい…

『群像』 2007.10 巻頭読切

いつまで古い号を取り扱ってるんじゃって感じですが、新しい号の目次をネットで見ても心動かされなくて。とくに『文學界』は佐藤優以外読むとこ無さそう・・・って、佐藤優なんてたんに過去の日記なんだけど。 『群像』は埴谷特集で、先月に続いて古き良き近代…

『臈(らふ)たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』終章 大江健三郎

文庫で50円くらいで手に入る初期作品をわりと愛読していた大江健三郎の、最近の作品を読むのはこれが初めてだったのだが、予想に違わず面白くはなかった。 WEBで読める新潮の編集長のコメントでは、祝福されたハッピーエンドとなっているが、現代になっ…

『新潮』 2007.10 短期連載

新しい号が出てしまいましたが、例によって古い号から。

『童貞放浪記』小谷野敦

小谷野氏の過去の作品の傾向、そして今回のこの題名から予想される内容そのままではある。でもやっぱ面白い。当然事実そのままではないだろうが、それに近いことを経験してきたのでなければ書けないところまで、書けている。そういう迫真性はある。 とくには…

『うさん』東直子

わりと素直なリアリズム系かと思って読み進めたのだが、旅の途中の喫茶店の女主人が出てくるあたりから一気に萎えた。なんかこの辺からとたんにコミカルになるのである。コミカルというのは、滑稽なとかコメディという意味合いではなく、言葉どおりマンガみ…