2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『黙って喰え』門脇大祐

上記の作品では、肝心の理由(拒食にいたる道)が書かれていないことに何の不満もなかったのに、この作品ではオオアリだった。なぜ主人公は同棲女性の首を絞めたのか・・・・・・。心の闇みたいなものの存在を伺わせるような不可解な行動を描けば、その作品は文学…

『肉骨茶』高尾長良

拒食症の若い女性が主人公なのだが、なぜ拒食症に至ったかという肝心な所を含めて、心理をあえて深く描かず、ただ主人公の行動、主人公に降りかかる出来事を追っていく。テンポがよく、そういう所を中心に評価している選考委員もいたようだが、私には、わり…

『鴎よ、語れ。』藤谷治

明らかに震災という出来事があって書かれた小説で、作者の思いの真摯さがビンビンに伝わってくる力作で、太宰治について主人公が講演で語る内容がハイライトなのだが、そのなかにハッとさせられるものもずいぶんとあったように思う。とくに記憶に残るのは、…

『ハルモニア』鹿島田真希

肝心の芥川賞受賞作品を読んでいないのだが、この作品久しぶりに、群像の「ゼロの王国」以来になるか、面白いと感じた。たぶんご本人は一貫して書いているつもりなんだろうけれど、作品によってはどうにも設定にしっくりこなかったりもして、言ってみればつ…

『長い緑の茎のような少年』伊井直行

直接的な記述もあるくらいの震災小説。当時の平衡を欠いたような、微妙にずれたような雰囲気をたしかに上手く伝えてはいるものの、ほかになんか何か伝わってくるものがあったかというとやや否定的だ。 読者の興味を失わせないような話の運び方や、ギタリスト…

『ニイタカヤマノボレ』絲山秋子

なんか恐ろしい雰囲気のある小説。 共同体の規範的なものを迫る男性と別れる事になる女性が主人公。で、彼女はアスペルガーで、鉄塔のたたずまいのあいまいさの無い事実性を好む。 私などはつい、なんとなく反原発な世間への批判としてこの小説を受け取って…

『エッグ』野田秀樹

いっけん娯楽作品にみえて、満州とか731とかをベタにならない程度にそれとなく織り込む。しかも、日中関係が云々されているタイミングで。このいかにも私は良識派でございます的な振る舞いはもはや醜悪ですらある。芝居を金払って見るような財布に余裕の…

『還れぬ家』佐伯一麦

連載終了コメ。認知症の父親抱えて云々という内容で私小説でやられてしまっては、そりゃ読ませない訳がない。といっても、予想を大きく裏切るようなものも予想できず、毎回楽しみにというほどでもないのが正直なところ。母親がしっかりしているようでときに…

『夜露死苦現代詩2.0 ヒップホップの詩人たち』都築響一

連載終了ということでコメント。完全にナナメ読みだから聞き流してほしいけれども、言葉使い(リリックとか言えばいいんすか?)はたいていの人はそれぞれ上手いものがあったんじゃないかと思うが、内容で気を引かせるものは殆どなかったように思う。プロレ…

『天使』よしもとばなな

以前散見された、小説の言葉としては安直としか思えない表現がだいぶ目立たなくなり、なにより、好きになった人について、その人の自分の知らない昔をそのなかに見てしまい、さらにそのかけがえのなさに思いを新たにする所など、読んでいて、あこれ分かる気…

『ディスカス忌』小山田浩子

下半期の新潮掲載作ナンバーワン作品。つーか、他の文芸誌含めても一番記憶に残っているかも。短編ということなら、下半期も今年もなく相当上位にくる作品。と、これだけではまだ言い足りないなあ。短編で、これだけ豊かな内容を持ったものに今までの人生で…

『IT業界 心の闇』木下古栗

この作品のまえに読んだ2作が、はっきりしたコンセプトを感じさせる完成度の高い作品だったのに比べると、正直一段落ちるかなあ。あるOLが上司に頼まれてその妻に、上司の浮気相手のになりすまして謝りに行くという話なのだが、無茶苦茶な展開が、ただ無…

『父』橋本治

父親の態度が、息子にたいするものではなく「介護する誰か」に対するものになってしまうあたりの描写が生々しい。

『mundus』川上弘美

以前だったら、3、4年前だったら、即「つまらない」と切って捨てただろうけれど、なんつーか独特の面白さを感じる部分もあって、これは慣れなんだろうか。それに、こういうものは川上でなければ書けないというところもある。 人間らしさもあり、動物のよう…

『新潮』2012.9・10・11 まとめて

痔が少しも良くならないのでワセリンを塗ってみましたが、塗ならいと血が出るだけのことです。 しばらく休んだので読者の方もだいぶ居ないでしょうから(幾人かの方々からコメント頂いたのにほったらかしですみませんでした)、前にもまして好きに書こうと思…