2009-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『妹』ミランダ・ジュライ 岸本佐知子訳

この作家の映画をなんとなく最後まで見たが、ハリウッドを知ると、やはり退屈に長く感じてしまう。 この小説も途中は面白いともなんとも言えないが、ラストがいい。「鳩目打ち」が言葉として口に出せるかどうかで以後の道が決まってしまうなんて、如何にもあ…

『ドリーマーズ』柴崎友香

よく川上弘美あたりの作家について、ほんとうは書きたいことなどないくせにと難癖つけがちな私であるが、この柴崎に比べれば遥かに川上などは純文学を感じさせる。そこには孤独というか孤立の臭いがあるからだ。 この作家については、書きたい事がない以上に…

『膿汁の流れ』西村賢太

読みながら面白いとは思うが、この感じはもう「寅さん」なのであった。逆切れと猫なで声の、そのえんえんとした繰り返し。主人公のドジもドツボも自分とはかけ離れているだけに、アホな人のアホな失敗として私は笑うように読んでいる。これでいいのだろうか。

『あの子の考えることは変』本谷有希子

思えば文芸誌、といっても読者の少ない純文学雑誌を買い始めたきっかけがこの人なのであったが、今は昔となってしまった。今となってはそこそこエキセントリックな人物を描いていながらこの作品は、余りに普通にみえ、つまりは純文学にはもっともっと変わっ…

『群像』 2009.6 読切作品

このあいだは3日間連続で記事書いたり、こうして2週間以上放置したりと、すっかりやる気の無さが滲み出てしまってます。こういうふうに定期性が崩れてしまうのも、典型的なブログの終わり症状のひとつなんでしょうか。 こうなると、どの作品に言及したかも…

『カメレオン狂のための戦争学習帳』丸岡大介

"書を捨てて街にでよう"という言葉が昔あったことなど知らない人が増えてきてるんじゃないかと思うけど、あえて言いたい。"書を捨てて街に出て、本屋に行って『群像』6月号を買おう"と。あ、もう売っていないか。いや今はアマゾンがあるんだった。今見たら…

『群像』 2009.6 群像新人文学賞受賞作

めずらしく3日連続で書きますが、とくに変わった事があったわけでも、考えが変わったわけでもありませんので念のため。 昨日録画した『新日本紀行ふたたび』を見ていたら、奥泉光氏が『文學界』のエッセイで冨田勲の名前を挙げていた事を思い出しました。 …

『空のかなたの坊や』ニーナ・サドゥール

ソ連という国は腐っても共産主義国であったわけで、何より正しいあり方を標榜していたわけで、少なくとも公には民族間差別は徹底して否定されていたのだろう。そのかわり「正しさ」が大手を振るってしまって、こんどは知識層とそうでないものの差別が生じた…

『『月』について、』金井美恵子

私にとっては、文章を読解する訓練としてだけの意味しかない作品。意図して読み辛いように書いているとしか思えないから。 読みやすい文章=日本語の自然さに抵抗する意義だって文学にはそりゃあるだろうから、このくらいの長さなら読んでもいいかなとは思う…

『俺俺』星野智幸

オレオレ詐欺をそのまま扱ったかような題名ではあるが、中村文則的なたんなるリアリズム系の悪人ものではない。「なりすます事」に焦点をあて、元々詐欺などするつもりもない人間がなりすましただけのつもりが、実際に「なって」しまう。リアリズム系しか読…

『終の住処』磯崎憲一郎

いっけん普通の純文学−近代的自我の独我的自分語りのようにみえてそうではない。この作家はいつも、とても長いパースペクティブで、物事を捉えようとしているのではないか。とても長いというのは、たんに近代史とか現代史という話ではなく、人類史、地球史的…

『すき・やき』楊逸

総じて言うなら主人公の恋愛場面の気持ちの描写がやはりなんとも平板に感じる。しかし中国からの留学生にポスト近代的な人間像を期待するのはそれはそれで違うのかもしれん。その一方で、韓国人男性との絡みなどが描かれていて、やや小説的に面白く書かれて…

『新潮』 2009.6 読切作品ほか

先日信号待ちをしていたら、道路に財布が落ちていたので直ちに拾って交番にもっていきましたが、交番に人がいませんでした。結局、持ち主と連絡が取れるまで多少時間がかかってしまいましたが、こういう面倒くささのせいで、皆財布が落ちていてもわざわざ拾…

『熱帯の夢−コスタリカ紀行−』茂木健一郎

じっさいにその現場に行く前の前置きが異様に長く、そしてテレビのドキュメンタリーのようなへんに格調を気取った文章。残念ながら、すっかり読む気を無くした。よって評価不能。 「コスタリカは遠かった」よ。相変わらずね。

『ターミナルライフ/終末期の風景』西成彦

カフカの変身ってこういう視点から見るのか、と、だとすれば非常に今日的だなあ、と面白く感じた。カフカを読んでいない人でもついていけそう。

『鉄道、そして文学へ』川本三郎

なんだこりゃ。とくに前半。松本清張の作品のここには○○鉄道が出てきて、この作品には××鉄道が出てきて、とただ羅列的に書かれているだけで、何が面白いのかさっぱり分からない。しかも映画の話は余計だし。ビュッフェが列車から消えたからって「こんな大人…

『ニコニコ時給800円 其ノ壱マンガ喫茶の悪魔』海猫沢めろん

その弐以降もあるのだろうか。色々マンガについて固有名詞が出てくる所などこの作品の面白さの一つだろうが、それほど詳しくない人にはその面白さが伝わりにくい所はある。戯画的に過ぎるきらいがあったので、評価は低くしたが、毎月の文芸誌のどこかに必ず…

『水際』日和聡子

たんなる幻想的モノローグもの。毎月の文芸誌各誌のどっかにはこの手作品が載っている、そんな作品。というわけで、こういうのを面白く感じる需要は認めざるをえないが、私は飽き飽き。驚きがない。

『さようなら神父さん』中沢けい

神父さんが殊更情緒的ではない所だけが面白く、真実味を感じる。

『左へ』天埜裕文

最初から最後まで緊張感が持続している。単純な捉え方をすると妄想系という事になってしまうのかもしれないが、この作品はちょっと違うのではないか。むろん、やっぱあいつはダメだよ、というバイト仲間の声が主人公に実際に聞こえているわけでもなければ、…

『すばる』 2009.6 読切作品ほか

えー何やら麻生とかいうテレビでよく見かけるダミ声の人が吉祥寺の駅前で「戦うべきときには戦わねば」とかふざけた事言ったようですが、同じ時間に吉祥寺を散歩とかしていなくて良かったなと思います。もし出くわしていたら、「お前が先ず行けバカ」とか、…