2009-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『スパークした』最果タヒ

前半の文章、カッコとかがよく分からないなあ、と思っていたら、その文章をひとつの作品として、小説内小説として登場人物に解釈させるのがなかなか面白かった。こういう予定調和でない所(驚き)こそ小説の醍醐味であって、それを味わせて頂いたし、その小…

『うそ』樫崎茜

現在を描いた場面での登場人物の台詞がやや作りすぎというか、格好よすぎる点はちょっとと思ったが、それを差し引いても短編としてオチがあり、上手く読ませるものになっているのではないだろうか。 谷崎由衣的な、予定調和的な台詞の雰囲気は若干感じられる…

『マックス・ケース』深津望

近未来SF的な舞台設定が、やや平易でありがちな感じは否めない。それでも、現在に対する批評意識を持っているぶん私はちょっと甘く評価してみたくなる。そういうガッツがあるかぎり、あればこそ、技術だっていつか獲得できるはずなのだから。

『声の植物』谷崎由依

今まで余り気にならなかったのだけど、今作を読んで、あ、川上弘美というのは分かるなあと思った。とにかく、なんでも起こることが皆「なぜだかわからないけど」「分かっている」そんな気分に満ち溢れているのだ。(←このかっこの所は作品中にそのままそんな…

『電気室のフラマリオン』間宮緑

嘔吐とか腐敗とか、廃棄物とか闇とか、そういう世界がとても好きな人だということが良く分かった。このくらい短い作品だとなんとか最後までついていけるし、その世界の構築の加減はそこそこ上手くいっているのでないか、とも思う。面白く読めた箇所もあった…

『約束の夜に』松尾依子

「〜は少女の持ついやらしさを煮詰めて結晶にしたかのごとき性格をしていた」という文章で一気に読む気が失せたのだが、短編という事もあって我慢して読んだ。 それにしても。疲れるだろう、こんな人いたら。始終重苦しい内省をしっぱなしなのである。なにか…

『夏草無言電話』牧田真有子

なんか不可思議な小説を書く人だなあ。でも何かしら謎的な出来事を呈示することによって、読者を先へと導こうとするこの人のスタイルは決して悪くないと思う。ただ今回はあくまで印象としてだけど、主人公の友人のキャラをあまりに特異なものとして、しかも…

『絵画』磯崎憲一郎

この人は『文藝』出身らしからぬ硬質なものを書くイメージなのだけど、今作も前半の川原の情景描写が、的確かつ流れるような文章で、上手いとしか言いようがない。上手いfusion musicを聴いているような気分だ。 で後半、そこまでして見事に描いた光景を相対…

『群像』 2009.5 読切作品 競作短編

どういう目的でそんな調査するのか知りませんが、よく今年の新入社員に聞く理想の上司は?とかいって有名人を挙げさせるのがありますが、先日洗濯物を干しながらJ-WAVEを聞いていたら、今年の一位は「イチロー」だとか。 耳を疑いました。何しろ私の中では、…

『ロンバルディア遠景』諏訪哲史

この1作だけで最新号の『群像』のモトは取れただろう。そのくらい飽きさせる所の全くない作品。特別定価1200円ではあったけど。 今作も例によって、メタフィクションの体裁をとっている。まだ数作しか発表していない作家に「例によって」もくそもないが、諏…

『群像』 2009.5 読切作品

ウィンドウショッピングとか外食とかに興味がない私は、そう遠くない所に電車の駅があるにも関わらず、休日に電車で出かけることなど殆ど無く、必要なものがあるとたいていホームセンターへ行きます。 ホームセンターなんてどれも同じと考える方もいらっしゃ…

『ポルト・リガトの館』横尾忠則

この作品が小説としては筆頭に掲載されているのだが、『文學界』編集部は何か勘違いしているのではないか。横尾氏といえばビッグネームで、当人が勘違いするのはそれは構わないが、そこは上手くコントロールしないと。まず文章そのものがニ線級で強度が低い…

『少女煙草』赤染晶子

確実に自分の世界、スタイルというものを持っている人だな、とは思う。今作も、紙のうえに完璧にひとつの、我々が暮らす世界とは別の世界を作り上げることに成功しているように思う。こういう世界がジャストフィットする人はとても気に入るのではないだろう…

『ブーゲンビリア号の船長』青来有一

最後の方になってやっと気付いたのだが、これは以前読んだ『夢の栓』という話の外伝みたいなものである。よほどこのモチーフに執着があるのだろう。 ただそこに至るまでの話がなんとも退屈。基本的には、幼子をなくした夫婦がその幼子をいかに真の意味で葬り…

『文學界』 2009.4 読切作品

新しい『群像』が分厚いせいで鞄がパンパンになってしまって、手首も疲れて困ってます。 新鋭競作と海外文学特集を同じ号でやってしまうせいですね。力入っていていいのですが。新鋭の中には読んだことない、それどころか初めて見る名前もあって楽しみな反面…

『ドストエフスキー「未成年」の切り返し』山城むつみ

新潮で読んでいたときからそうだったが、山城氏は、私にとって、難しげに書かずして、それまでに無いような認識を説得力をもって示してくれる、ちょっと貴重な人。 今回のも、『未成年』そのものは読んだことが無いながら(というか私は『悪霊』『罪と罰』し…

『瘡瘢旅行』西村賢太

西村氏といえば、けっこう前になるが『文學界』でのインタビューではやたら構えていて被害者意識ばかりが強そうで、あまり良い印象をもたなかったのだが、1作2作と読んでいくうちに、たんに慣れてしまったのか、抵抗感なく読んでいる私がいる。 今回も例に…

『群像』 2009.4 読切作品つづき

杳子と杏子とを間違えました。これは余りに恥ずかしい間違いです。 いつも私が自分の事足りない足りない言ってるのが、単なる謙遜ではなく、期せずして分かってしまう。これも良いのではないでしょうか。自分のことを「わたしバカだから」といって何かをやる…

『淫震度8』木下古栗

抜群に面白いものしか決して書かない小説家、と私の中では既になってしまっている木下古栗。コンスタントに、というか、その内容の密度からいえば、ハイペースと言っても良いくらいの間隔で作品が届けられる。本読みとしてなんとも幸せなことで、本人にはも…

『砂漠の雪』稲葉真弓

女の友情もの。とくにこうして世間ずれした女性達の友情ものは、世間ずれしたくとも出来ない世の社会人文学好きにたいして一定の需要はあるのだろう。たとえばファンタジー映画が日常を忘れさせてくれるように。 それはそれで否定してもしかたのない部分はあ…

『群像』 2009.4 読切作品

また辻仁成のこないだの小説つながりですが、プロレスについてです。 昔はプロレスというものをいわゆるゴールデンタイムにテレビ放送していたんですね。今思うとちょっと不思議なのですが、明らかにショーであって真剣勝負でも何でもないものを、一所懸命家…

『ナイトウ代理』墨谷渉

相変わらずS女性とM男性もの。しかも男性は、たいてい平凡でどちらかというと貧弱な人間。すばる文学賞以来、まったくこの人のモチーフは変わらない。全部読んだかどうか分からないけれども。 しかし今まで読んだ墨谷作品のなかで私にはこれが一番面白かっ…

『薔薇色の明日』岩崎保子

一人の男をめぐって二人の女性に語らせる三角関係もの。もはやこういったそれぞれの視点みたいに複数で語らせる事自体が決定的に古臭いし、綺麗な方の女性が、綺麗過ぎるがゆえの悩みを語るに至っては、あまりに凡庸でありきたりで退屈感が極まる。綺麗な方…

『ここに消えない会話がある』山崎ナオコーラ

このところ文芸誌で名前を見ない月は無いといっても良いくらいの売れっ子と化しているナオコーラであるが、正直その良さがいまいちピンと来ない。もっと主体的に言うなら、私に理解できない良さがきっとあるのだろうな、とは思う。私がなんとか理解できるの…

『すばる』 2009.4 読切作品

そういえば、辻仁成の小説に函館の夜景が出てきましたが、函館には行ったことがなく、有名どころでは熱海の夜景を見たことがあります。まだ熱海が観光地としてさびれていなかった頃ですからそこそこ綺麗でしたが、私が胸を打たれるほど美しいと思った夜景は…

『はるばるここまで』辻仁成

毒も食らわば皿まで、の心境で読んでいた『新潮』だったが、事前の予想に反し面白かったという事はなく終わり。 最後まで独白でこれだけの長さをものにするのだから、やはり小説家としてそれなりに力は感じるのだけど辻仁成は辻仁成なのである(なんのこっち…

『パンと友だち』横田創

高校時代の片思いの人にマルチに誘われる話では、主人公の中身の無さにイライラしつつ、場面転換後は、そのマルチ組織と関連するらしい(発端?)パン好きの女性の話に訳が分からなくなる。どちらも我々の傍らにある現実からは遊離していて、かといって物語…

『週末の葬儀』田中慎弥

やっと、延々としゃべり続けるとかそういうギミックな要素のない普通に読める田中慎弥の小説だった。今回は短文を中心に組み立てられ、再就職を頼みに人に会ったりとかの前半では巧みといっても良いくらいのもので、矜持を持ちつつもダークな主人公の雰囲気…

『学問』山田詠美

ラストの方で、主人公が行う自慰行為が、儀式的なものから生身の人間の、文字通りの自慰行為というたんなるひとつの性行為へと変貌するあたりの内面の記述が説得力があり感心させられた。大人へ成熟するということを「降りていく」感覚で表現し、またその事…

『還れぬ家』佐伯一麦

普通に一人称で、老いて持病をもつ父親がボケてきてしまうという現実的な話を書いている割には、なぜかしら読み辛い。「わたし」の視点であることは誰が見ても前提なのだからと主語が略されている所なんか、今までこの手の小説でそういう所が気になったこと…