2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『ポエティック・クラッシュ』高原英理

2人の現代詩人が、都心の大型書店で講演会というか討論的なものを行い、そこで色々「いま」の文壇(詩壇)の状況などについて語る、ほぼそれだけの話なんだが、これは事実をそのまま、例えば固有名詞を入れ替えるだけ書いてしまうと角が立ちそうなところを…

『母子寮前』小谷野敦

以前私が読んだ作品は、登場人物の名前からしてもう少し小説寄りだったが、この作品は「あっちゃん」などとなっていて、最早エッセイと区別が付きにくいものとなっている。また、執筆時の作者の信念なのか、その出来事があったときに思った事なのかの区別が…

『文學界』 2010.9 読切作品

奥泉さんの書き下ろし本が出まして、そのせいでシューマンが生誕200年であるというのを知ったのですが、それを聞いて、まだ200年しか経っていないんだ、と思った人はそこそこ居るのではないでしょうか。 私は、まさしくそう思った一人で、「まだ200…

『大黒島』三輪太郎

すごく意欲だけは買いたいんだけどなあ・・・・・・。 昔の同僚の妻と揉め、ある事を思いついてハガキを何百通も書いて一人の人と会っておきながら、その後結論を出すまで相当の期間を置いたことに全く説得力がない。この程度の考察・結論にこれだけの期間が必要だ…

『蠼のすえ』佐藤友哉

いやこの題名、虫偏で探そうか群像のHPからコピペしようか迷ったわ。 相変わらず現在の作家という職業の苦境を綴ったエッセイという感じなんだが、笙野頼子の書くものが小説ならこれも小説だろうなあ。 とまあ印象では相変わらずグチ八割という感じなのだ…

『ほにゃららサラダ』舞城王太郎

美大の女子学生が主人公。いつもの舞城的文体ではあるが、超常現象的なものもなく出来事のはちゃめちゃさも控えめ。 出てくる芸術論とかも20年くらい前、いやもう40年位前の学生の間で交わされていてもおかしくない様な感じを抱く。ああ何時の世の若者も…

『群像』 2009.9 読切作品

ラジオを聴いていたら、ってこればっかですが、小沢が敗れたことが意外だったという人がそこそこいて、ビックリです。 事前の世論調査からすれば、大健闘の部類じゃないんでしょうか。どんなに有能な人でも、一国の顔となるとやはりこれはちょっと違う世界な…

『格差問題で思うこと』萱野稔人

アカデミズムのなかでは、まだまだ高齢の人を中心に何かと左翼的な気配が支配的である。というのは予想できることで、萱野氏がエッセイでこういうことを書き付けたくなった気持ちも分からなくはない。しかし論はやや乱暴に感じる。「格差」を「格差問題」と…

『きことわ』朝吹真理子

あの作風でこれだけの長さを読むのか、と楽しみより退屈しないで読みきれるかと恐れがさきに立ったが、ほとんどの部分がリアリズムで書かれていた。他の作家が書いたなら大満足とすべきなのかもしれないし実際その水準は高いが、そういう絶対的な視点など持…

『幻影のゆくえ』大城立裕

題名にまでなっている所の、主人公の母親が沖縄戦の激戦で気が振れてしまい、何かを超能力のように幻視してしまう、という要素をせっかく導入しているが、それは小説の中心になっていないように感じる。 いっぽう娼宿の女性達を登場させた事は話に変化を与え…

『作家の超然』絲山秋子

この小説の主人公の作家も北関東に住むことから、つい絲山本人に重ねてしまい、なるほどこういうきっかけなんだ、と思ってしまったりするのだが、いくらかのフィクションは当然含むだろうものの、あながちこういう読み方はまちがってないんじゃないか、と思…

『Shit, My Brain Is Dead.』舞城王太郎

舞城作品にたいして面白いとばかり評しているのだが、その中でも特にこれは素晴らしい。 イラクに派遣されている米兵達の話なのだが、映画を見ているかのようで、最近のハリウッド映画のリアリズムとスピード感に文体が全くマッチしてしまっている。というか…

『新潮』 2010.9 読切作品ほか

やっと少しだけ涼しくなってきたようで、そもそも夏ぎらいなのも手伝い、なんとも喜ばしい気持ちです。 かなり昔になりますが、夏前にひとりの女性と知り合って、夏の間電話をかけあったりして、向こうも私と付き合う気持ちがはっきりありそうな明るい応対だ…

『書評「島田雅彦『悪貨』』江南亜美子

ここで書評されているものは読んでおらず、書評として適切かどうかは分からない。また今後読むつもりもないので、全体の内容そのものもどちらかといえばどうでも良い。 しかし中ほどにあるこの記述はちょっと見過ごせないのだが。 「物が貨幣と交換される瞬…

最終回『なずな』堀江敏幸

バツイチ女性と主人公との、想いがあるのか無いのか微妙にして淡い交流ぶりが気になって、ずっと読まされてしまった感もあるが、連載中常に「すばる」で一番面白いページであったと言い切ってしまおう。 まずは赤ん坊の周りの空気の描写もそうだが、なにより…

『ロスジェネ芸術論』杉田俊介

にんげん何が嫌かって、自分を分かってくれないことより、分かってもいない人間が分かったかのようにふるまうことなんだな、って。この号の「すばる」で、飛びぬけて醜悪なこの評論を読んでそう思ったものだ。 「もちろん今のぼくらの手元には限られた資料し…

『鉄道、そして文学へ』川本三郎

やっとこの連載も終わりかと喜んだら15回も続いてたんだねえ。よくまあいろんな通俗小説とか映画をチェックしているなあ、というのは感心したけれども、それ以上のものはない。 端的にいって、昔の映画・文学作品に、昔主要な交通手段であった鉄道が出てく…

『ノースリーブ』松田青子

巻末の著者一覧を見る。人を喰ったペンネームかと思いきや「まつだ あおこ」て。この作家の世代は、もう聖子ちゃん明菜ちゃんなんて聞いたことない人が多い世代の人なのかもしれないが、残念というか、内容がしょぼくて、他に書くことがあまりないんだよね。…

評価不能『ジヴェルニー〜』原田マハ

以前別の作品を読んだが、数ページ読んだだけで同様のものと思われ、この手の内容のものは全く興味がないので読むのをやめる。というか、題名の横にいちいちおしゃれにフランス語が並列されているのを見て、この作家の美意識がもう駄目。ごめんなさい。 せめ…

『猫ダンジョン荒神(前編)』笙野頼子

田中和生へのDISとか、「新潮」の日記での東へのDISとか読んではいたが、小説はあまり読んだことがなくて。 とはいえなんともどこまでがフィクションなのか分からない内容で、笙野頼子を読むのに慣れていない私はこういうのを読むと例えば、評論やエッ…

『すばる』 2010.9 読切作品

またまたラジオからですが、最近自転車と歩行者の事故が急増していて、なかには高額な賠償金の支払いを命じられるケースも、という話題がありました。 それ聞いた瞬間、ザマーミロ自転車乗りめ!と思わずにはいられなかったワタクシ。いやマジで自転車ほど危…

連載作品について

・群像を買い続ける理由のひとつである『地上生活者』が休載している。創作上の問題ならまだしも病気などが原因であれば悲しい。あまりこういう声はネットには無いだろうから、応援してます。なんとか頑張ってくださいと書いておく。 ・『末裔』が終わった。…

『ピラミッドの憂鬱』楊逸

主人公が、中国から日本に来ている友人の幼児性を笑っていながら、結局自分まで母親とべったりの自立できませんでしたという結末になってしまうのが面白い。党幹部がのさばる賄賂社会と、その一方で、公正さによる裁きの徹底さ。失業問題。そして何より一人…

『ドナドナ不要論』舞城王太郎

一行目がまず素晴らしい。ノックアウト。 いつもこの作家を読むときにしていることだが、深読みせずに、今回は「人の物事の感じ方の落差」からくるディスコミュニケーションの、そこで生じる様の可笑しさを、ただただ面白いと思って読む。とくに主人公の妻が…

『シーリング』C・N・アディーチェ

英米でアフリカから来たひとりの青年として暮らす事と故郷ナイジェリアでのエリート生活との落差を主に描いている。ナイジェリアでいくら恵まれた生活をしていても心にひっかかりを覚える。むき出しの、あまりにむき出しで不公正としか思えない後進国資本主…

『山羊の目は空を青く映すか』桐野夏生

意味が分からない。いったい何を書きたかったのか。 まず思ったのはこういう過酷さは長続きしないだろうなあ、ということ。支配する側もあっというまに潰れてしまうような制度を構築するほど馬鹿じゃないというのを現実において沢山みてきているわけで、こう…

『群像』 2010.8 読切作品ほか

ラジオを流していたら大貫憲章さんがでてきて、この人はやはりしゃべりなれているなあ、と島田雅彦と比較し思いました。 しかし、大貫さんの話はCDが売れなくなった話だったのですが、いくら話し上手でも説得力は私にとってはいまいちでした。音楽好きな人…