2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『停電の暗闇と明かり』大森兄弟

このエッセイの主題については何の異を唱えるつもりもないのだが、冒頭、戦闘機が通勤電車を「爆撃」、にひっかかりをおぼえる。もちろん戦闘機だって、両翼に一個づつ爆弾を積めるが、対空砲火器や弾薬を運んでいる貨物列車でもないただの列車を「爆撃」す…

『来たれ、野球部』鹿島田真希

片方に自らの完璧性のゆえに自殺を試みる人間がいて、もう片方に自らの劣等に耐え切れずに自殺する人間がいる。この二人を極として、その間に熱血体育教師と、シニカルな音楽教師と、冷静な女生徒を配し、それぞれが順番に観念的な語りを繰り広げる。複数主…

『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子

いちど言及したものにたいして再言及するのは今までにないことだが、ちょっと特別に。(ちなみにネタバレあり。) というのは、読んでしばらく経つのに未だにこの小説について考えることがあるという事なのだが、前作『ヘヴン』に共通することで、ひとつ素晴…

『群像』 2011.9 読切作品その2

さて年に一回はあるビッグマック安売り週間があと少しで終わりますが、私は一個しか食べていません。いつもこの値段のときしか買わないのですが、なんか年を重ねるごとに美味しさを感じなくなってきているのは、マックが変わったのか私が変わったのか。(た…

『背中の裸婦』木村紅美

以前に、どういう題材を扱った作品でも、どこかしら楽天的な明るさが漂う、とかそのような事を書いた記憶がある木村作品だが、この作品にはそんなものはまるで無くなっていた。 ひとりの女性が、他人の保険証をネコババすることでその女性になりすまし、街か…

『文學界』 2011.5 読切作品

さて年に一回はあるビッグマック安売り週間が始まりましたが、ちなみに私はマクドナルドでセットメニューを頼んだことがありません。 今度の日曜日の夜に教育テレビで、『おじいちゃんと鉄砲玉』というドキュメンタリーをやるのですが、きっと余程反響という…

『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子

この前の「群像」は間宮緑作品のおかげで読了する時間がややかかったが、9月号も時間がかかった。この作品のせいである。ただしその意味合いは全くの正反対だ。 この作品のインパクトが強かったせいか、読んだあとの余韻がぜんぜん消えようとせず、次の作品…

『群像』 2011.9 読切作品その1

自作の唐揚げでケンタッキーが再現できないと以前ぼやきましたが、価格が倍以上もするブランド鶏肉使ったら結構近づきました。そういうことだったんでしょうか? といいつつ今日は激安店で(100)グラム29円の胸肉を買ってきたのですが。 青山七恵さん…

『【討議】いま始まる生存と創造』石川直樹+岡田利規+坂口恭平

小説は実験臭が強く、いまひとつ好きになれない岡田利規だが、すげーオトナの発言をしていて正直驚き、そして感動すら覚えた。 もう格差社会と言われて何年もたっていて、で、スマップの歌みたいに皆がそれぞれが花を咲かせればみたいな認識こそが一番の癌で…

『温室で』ブライアン・エヴンソン

前回読んだのを含めて言うと、この作家はいっけん全く作風が違うような作品なのに、それぞれが素晴らしいという、なかなかありえないことだなあ、と。この作品は少しサスペンス風で最初から引き込まれる。ラスト近くの「コックを忘れちゃいけない」という台…

『良い夜を持っている』円城塔

前作から少し評価しだしたのだが、どんどん良くなっている。というかこんな言い方は失礼で、実際は、読み手のほうの私がやっとこさこの作家の面白さを理解し始めたというのが正しいのだろうけれど。 この作家は「叔父」だとか「友幸友幸」だとか、思考実験の…

『その日東京駅五時二十五分発』西川美和

リアリズム。過去の回想がけっこうな分量で入るから、厳密には「一日の小説」とは言いがたく、しかしだからこそ面白くも読め、こちらの方が上記作品の分量であったらな、とも思う。終戦間際の日本兵たちを描いたというものでは最近『逸見(ヘミ)小学校』(…

『ある一日』いしいしんじ

とくにひどいとか引っかかる記述だな、というのは無い。だがしかし退屈極まる。(ってこの表現は、似たようなこと間宮緑作品のときも言ったか。) まさに題名どおりある一日なんだが、この出来事の量でこの長さはきついです。 ある夫婦−自然分娩での出産を行…

『新潮』 2011.9 読切作品

コーヒーメーカーにコーヒー豆を入れずにスイッチを入れ白湯を作ったという話はよく聞くのですが、私はインスタントコーヒーの粉を入れたことがあります。 原発事故の後だしジャンケン的なものはたいていのものは慣れた気がしますが、実は原発がなくても電力…

『昼田とハッコウ』山崎ナオコーラ

佐藤友哉にならえば、連載途中の作品を批評するのは反則だということらしく、それも理がある。よってこの評価で言及することにする。つまり割り引いてこの評価ということだ。 それでも言及したくなるくらい、読んでいて頭にきたのだ。いままでは、ただ漫然と…

『塔の中の女』間宮緑

最後まで読んだ自分をほめてやりたい。 いやもちろん、最後までさしたる瑕疵もなくこの量を書き上げた作者こそ誉められるべきなのだろう。首を傾げたくなる箇所はない。がしかし、読んで夢中になったり気持ちが揺さぶられたりすることも同時に無く、もはや苦…

『子供の行方』古井由吉

この連作では気候の話などから入ることが多いと記憶していて、で、その記述が実際の自分の数ヶ月前の実感と一致したりするものだから、いつかは震災にも触れることがあるかもしれないと思っていたら、完結編でそうなった。 もっとも震災の当日にどんなふうに…

『特集−旅と本』

もちろん好きな作家のコメントとか、ぜんぜん面白くなかったとは言えない部分もあるよ。しかし、こういう特集って、私が嫌いで立ち読みすらしないダヴィンチとか、最近ぜんぜん目次も見てなかったりする『文藝』みたいで、すごく不安になるわ。 で、あえてこ…

『群像』 2011.8 読切作品ほか

ずっと以前に100均で買ったプラボックスの蓋が壊れたので、100均でマジックテープ買ってきて補修したのですが、新しいプラボックス買うべきだったと気づいたのは家帰った後でした。補修しながら少し悲しい気分でした。 最近スタン・ゲッツのバカラック…