新人賞受賞作『最後のうるう年』二瓶哲也

2作受賞となるとつい比べて語ってしまうのだが、上記作品になくてこの作品にあるもの、それはうまく表現できないが、ある倫理的な何かだと感じる。小説技術的には上記の作品のほうがむしろ感心させられるところがあったし、この作品は無理に「お話」を作ろう的なところがあり(あの有名な宗教団体がでてきたりするようなところなど)ラストのオチなどやや荒っぽさもある。またそのラストのせいもあって複数登場する男性人物の性格・位置付けがうまく伝わらない感じもある。ようするに少し混乱の気配もあり完成度という観点からは今すこし改良が必要かもという感じもあるのだ。にもかかわらず、この作者には信用していい基本的な態度があるように思う。世に対してたんなる観察者ではなく、それと関わりそしてただしく憎んでいる(それは裏返せば愛するということにもなろう)。これは結局小説家というものになりたいだけなのか、それとも書きたい何かがあるのか、の間に横たわる絶対的な差にもつながるのだが、世に対して背を向けるようなことのないような人間には、真に書きたいことなどありはしないだろう。もっとも書くことが世を愛でるひとつの活動であるような人もいるだろうから一概には言えないのだが。風俗の裏事情だとか宗教だとか人目をひくような題材・方法を使わない作品を読んでみたい。