2009-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『砂漠と運河』椎名誠

はるか昔にエッセイを読んだ覚えしかない椎名誠って、どんなものかと思えば、少しも面白くないのだが。運河の部分は、たんに青春時代の回想の域をでていないし、砂漠の部分は、中国人にたいする悪意に辟易する。 もちろんそれは作中人物のことであるが、こう…

『鳥の眼・虫の眼』相馬悠々

編集後記みたいなものかなあと勝手に相馬氏のことを推測していたら、少なくとも新人賞応募作の下読みをしたことがあるひとであることが判明。まったく外部のライターではないようだ。 というのは、半径10メートルの世界しか多くの新人賞応募作は書いていな…

『カーヴの隅の本棚』鴻巣友季子

巷ではいっけん絶賛しか無いかのような村上春樹の新作について具体的に疑問を掲げている。あくまで疑問であって、小説の出来栄えには文句をつけては居ないが、この人の書くことって、楊逸作品を擁護したときもそうだったけど、けっこう説得力があるんだよね…

「戦争と日本の作家」ドナルド・キーン×平野啓一郎

この対談は、ほんとうの意味で面白く、買った直後とあわせ、2回読んでしまった。 とくに安部公房がチーズ食べて「これは、日本人でも喜ぶだろう」と言って、それにキーンが驚いたというエピソードが面白い。ついスルーしてしまいがちだが、自らを亡命者とし…

「芥川賞記念対談」磯崎憲一郎×保坂和志

技術論が中心だったような記憶で殆ど内容を覚えていないのだが、面白かった箇所が一箇所。保坂が自分が芥川賞受賞したとき文芸春秋の中吊広告で自分の面が割れてしまったというエピソードをさも嬉しそうに語るところだ。

最終回『麻布怪談』小林恭二

「読み物」としては面白いほうかもしれない。

『岸辺の旅』湯本香樹実

長い。夫が失踪したあとに突然現れ、しかし彼はもうすでに死んでいて、という非リアリズム。で、妻が、その死んだ夫と共に、夫が失踪した後の道を、遡って旅をしていく。 文章や描かれる情景、そして旅路で出会う人々が特段魅力あるものであれば、長い、とい…

『文學界』 2009.9 読切作品+2009.8 拾遺

・・・・・・『文學界』。 余りにも面白くない小説が続くんで、本気で買うのやめようと考えていたら、最新号、橋本治の小説をもって来るとは。しかも、それがやはり滅法面白い。うまく行かないというべきか、そうでないのか、また暫く買ってしまいそうです。 とい…

『崖の上』佐川光晴

佐川光晴は、これでいい、と思う。文学に愚直であることに愚直に拘っているかのようなこういう作風は他にないからだ。 ただ今作は、筋の運びがストレートすぎる気もした。ひとつは鬱になったきっかけにおいて、今の世の中でこんな純な人間が、というのがあり…

『妖怪の村』中村文則

なんか読みが浅い人間なので申し訳ないが、いろいろサルカニ合戦だのと寓話的な内容が書かれているけど、何を象徴しているのかが全く伝わってこない。主人公の感情も恐怖するにしてもくつろぐにしても起伏がないから、最後の鶴の忠告もまったく迫ってこない。…

『第三の愛』鹿島田真希

ここ一年くらいに発表されたもののなかでは一番ストレートな作品ではないか。あ、『文藝』のやつは読んでないか。 鹿島田といえば、2、3の人物を設定したうえで、そこに過剰なくらいに、いかにも"近代文学"という感じの内省をこれでもかと膨らませたり反復…

『村上春樹の云々』加藤典洋

村上春樹にも、まして加藤にも興味が無いので最初から読む気がしないものの、せっかく買った雑誌にのっているものだからとざっと目を通すが、ある箇所で、まさか加藤が自分の考えを吉本隆明とか、いや吉本はともかくも親鸞になぞらえるとは思っていなくて、…

新連載『末裔』絲山秋子

祝新連載と思って期待して読むが、過剰に期待してもこの人は外さない。 妻が死んだあたりの話の持って生き方−違和感を放っておいたら死に至ってしまった−もいかにもありそうな事だし、娘との対立は常套的なものとしても、息子との関係がいい。どういうふうに…

『群像』 2009.9 読切作品ほか連載開始、評論など

『群像』の最新号に川上未映子氏のインタヴューが載ってますが、『ヘヴン』について、やはりニーチェと言ってますね。 別に、そのままじゃん、とか言いたいわけではありません。ここですごいと思うのは、ああいういかにも奴隷道徳だよなあ、というものを、説…

『ボリビアのオキナワ生まれ』木村紅美

一組の夫婦が、むかし男性がよく訪れていた民族料理店に行く話が回想シーンと共に描かれる。男性の側から描いているのだが、この妻のいかにも女性らしい嫌味のある聡明さと、その聡明さのまえで、青春時代に深く付き合った思い出をなんとか隠そうとする様子…

『終わらない原稿はない』茅野裕城子

何と言うべきか。紙の無駄と紙一重。途中戯画的に編集長を描いて見たり、最後の方でハーレクインふうになったかと思いきやウォーホールが登場したりして、ひょっとしたら一切読み返しもしないで綴るという、そういう実験的な小説なのかと思ってしまったくら…

『凧の御言』又吉栄喜

舞台は戦争末期の沖縄であるが、主題は兄弟愛である。一人の女性をめぐって秀でた兄が勝利するが死んでしまい、弟がその女性と付き合うことを決心するが、希望が適ったかのようでその立場を捨て偶然会ったアメリカ兵に復讐しようとする。 女性とこの弟の、死…

『すばる』 2009.9 読切作品その他

ちょっと堅い話をしますが、民主党の高速道路無料化って、どのくらい支持されてるんでしょうね? 民意は自民党にNOを突きつけたかっただけでしょうし、民主党にはもっと生活に直結する重要な政策(とくに農業・教育関係など)がありましたから、民主党に入…

『みのる、一日』小野正嗣

『マイクロバス』につながる作品で、モチーフも語り口も素晴らしいの一言。 何にも無い地方の集落に住む中卒の体の弱い男性が、「本当の事」を言ってしまわないために日々英語を使ってコミュニケーションをするという設定に唸らされる。つまり言語と自己との…

『新潮』 2009.9 読切作品その2

先日は開票速報の日だったので、どうでも良い話ではじめてみましたが、じっさいの選挙にもとうとう行ってません。 その後数日してなぜか、自分の選挙区にお笑い芸人が出馬していてその人に投票するという夢を見ました。「あ、どの党か確認しないで投票しちゃ…