『凧の御言』又吉栄喜

舞台は戦争末期の沖縄であるが、主題は兄弟愛である。一人の女性をめぐって秀でた兄が勝利するが死んでしまい、弟がその女性と付き合うことを決心するが、希望が適ったかのようでその立場を捨て偶然会ったアメリカ兵に復讐しようとする。
女性とこの弟の、死んだ兄への想いの差が、最後に出てしまうところがポイントで、アメリカ兵の雰囲気に容易に敵意を無くしてしまうこの女性のようなあり方は、私には全く正しいように思われる。がしかし、途中で弟の気持ちを邪なものと疑ってしまうあたりは、いくらまだティーンエイジャとはいえ余りに身勝手であり、他の心理描写も含め、この主人公の気持ちに追随できるものがあまりなく、最後まで入り込めない小説ではあった。
ピストルの音を轟音と表現するのは違和感が残る。