2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『男と点と線』山崎ナオコーラ

普通でない男と女のあり方に焦がれるという意味で、『スカートのすそを〜』にテーマが通低していて、ああなるほど山崎さんの最近の関心はそれなのねとは思ったが、あの作品ほど描けてはいない。 ここまで単純にして無垢な中年男性というのはちょっと無理があ…

『八月』佐川光晴

愚鈍な昔ながらの純文学だが、これはこれで支持したい。とにかく現実に起こった自己と世界、あるいは自己と他者のあいだの軋轢や齟齬を、文字にしようという情熱がこの人にはある。昔ながらの近代文学のあり方であり、新しさなど全く無い。しかし、全てが新…

『傘と長靴』川崎徹

いつも川崎徹の小説を読むと思うのだけれど、とりつくしまがない、という感じ。違う言い方をすると、この人はいったい何のために書いているのだろう、といつも感じてしまう。 たしか今まで2作くらい読んでいるはずだが、殆ど何も残っていない。平明な出来事…

『群像』 『新潮』 2009.3 読切作品 残り

偶然、辻仁成氏が再結成エコーズ?としてTVで歌っているのを目にしてしまいました。 で、聴いた瞬間、うわヘタ!と思ってしまったんですね、いやその演奏じゃなくて唄が。いやこんな書き方失礼かもしれないので、ちょっと言訳させてもらうと、昔聴いたとき…

宇野常寛の津村評

何かといったらロスジェネですか、はいはい、という感じ。こういう時代の不幸を特権的に語れるかのような世代論者こそが、津村作品に出てくる人物や、津村作品に共感を覚える読者にとっていちばんの敵だという事くらい気付いて欲しいもんだ、と思う。 言って…

『スカートのすそをふんで歩く女』山崎ナオコーラ

もしかしたらナオコーラ作品を読んで初めて面白いと思ったのかもしれない。 でもこの作品を読んで何これ、この程度で文芸誌に載るの、みたいに感じる人もいるかもしれない。しかし他の妙に「作られた」感の漂う山崎作品と違って、底が浅いなりに、でもより正…

『妖談4』車谷長吉

これまでの妖談よりもコンパクトで且つそれぞれ妖談というほどのインパクトは無い。たんに人間模様みたいな内容といってしまえばそれまでかもしれないが、4番目の話がわりと面白かった。他者にはなかなか分からない男女(夫婦)の関係、その数と同じだけ違…

『らしゃかきぐさ』佐伯一麦

ここへ行ったあれを見たというだけの作品。小説内で出てくる人物もあまり面白くない。

『モンフォーコンの鼠』鹿島茂

同じ文學界で佐藤賢一が既に連載しているのに、同じような地域の同じような時代の話の連載を載せてしまうというのは、どういう事なんだろう。いいのだろうか。 スタイルは違うとはいえどうかと思うが、作品自体は佐藤賢一よりは時代背景などへの言及が多めで…

『独居45』吉村萬壱

吉村萬壱については、ただ露悪的なだけのように思えて一度も良い読者ではなかったが、これはなかなか凄い作品。これまでのような非リアリズムへと大きくはみだすような露悪的な描写で全てを押し切るのではなく、リアリズム的側面とのバランスをしっかり取り…

『文學界』 2009.3 読切作品

自炊を始めると外食が、その値段と味の程度にバカらしくなって行かなくなる、という話は以前したかもしれませんが、これだけは美味しい店には敵わないなあというのが取りあえず二つあって、ラーメンとカレーライス。 あれだけダシだのルーだのに時間かけたり…

『飛翔−はばたき−』青木淳悟

また人を食ったような題名だが、内容は最近の一連の無主人公シリーズというかそういうものであって、今回の舞台は一昔前の、年代的におそらく青木淳悟自身が高校生だった頃の、共学の公立校が舞台である。いや修学旅行の行き先がチープな感じがしたので公立…

『元競馬場』青山真治

東京競馬場が昔は府中ではなく目黒にあったというのは有名だが(いや特にユーミンとか競馬ファンでなければ府中にあることもしらないのかもしれないが)その跡が住宅地になっていて、そこを散歩したりする話。 と思いきや、どうも中心は、青山が昔自分の作品…

『シレーヌと海老』広小路尚祈

同じ助詞や、体言止めなどをたたみかけるように記述して、心地よいリズムを感じさせる箇所が所々にある。あまり目立つとか鼻につくほど弄り回していない平易な文章であるけど、これは結構練られたものではないか、と思う。俳句というか、短歌というか、定型…

『すばる』 2009.3 読切作品

『文學界』の目次を見て、お、奥泉さんの連載が始まる!しかも評論!?と思ったのもつかの間、月替わりで色んな人がこれから書くようなものでした。非常に落胆。 S&Bのローストガーリックという粉末製品を発見したので、塩多めにして茹で上げたスパゲティ…

『音楽奴隷たち』平井玄

気取った文章をただ連ねているだけで、何が書いてあるかはおぼろげに分かるが何が言いたいのかさっぱり分からぬエッセイ。ドゥルーズだのアドルノだの名前がでてきたりもするが、典型的なディレッタントの所作といった感じで、あんな難しい思想家の本をいち…

『戒名』長嶋有

久しぶりにこの人の作品を読んだが、やっぱ抜群にうまい。うまいし、引きこもりながらも祖父母を介護するという面白い人物を生み出した時点でもう半分この小説は勝負に勝っていて、その彼の、「なんでもなさ」が、ちょっと得意げでもあり、照れているようで…

『星が吸う水』村田沙耶香

素晴らしい。もともと、訳の分からないものをなんとか形にしつつもむしろそこから溢れてしまうようなエネルギーで押し切るような、そういう作品を書く人という印象だったが、前作で完全に剥けた感じがする。エネルギーはそのままに形ができてきたのだ。 それ…

『群像』 2009.3 読切作品+おまけ

昨日また性懲りもなく文芸誌を買って眺めていたんですが、おととい津村さんの作品について書いたことを反省しております。 だって良く考えたらあれが、少し物足りない作品であることくらい作者が一番よく分かってるだろうと。そんな事をいちいち指摘する事に…

『まずいスープ』戌井昭人

上野御徒町あたりに生きる人々の生態が生き生き描かれていて、無頼な人々が沢山出てくる所など非常に好感が持てた。また、ちょっとしたサスペンス仕立てなのもページを進ませるのに効果があったと思う。つまりディテールにおいて(南部式がどうだとかそうい…

『とにかく家に帰ります』津村記久子

残念ながら私にとって、題名とモチーフから津村だったらこんな作品だろうなあ、と予想する範囲内にぴたりと納まってしまった。 あれほど前から津村は面白い言ってたんだから、ピタリならいいじゃないか、と言われるかもしれないだろうが、不思議なもので、と…

『妻の超然』絲山秋子

夫が浮気している中年夫婦の妻の日常を綴っただけなのだが、むちゃ面白い。ただの下世話な話をなんでこうも面白く書けるのか。 むかし矢作俊彦が、自分はハードボイルドっていうより登場人物のインタビューを書いてる、みたいな事を言っていた記憶があって、…

『新潮』 2009.3 読切作品

なんか気がついたら2週間以上何も書いてません。 義務感だけは持たないようにやっていたので、書く気がするまで放っておいたらこうなりました。その間には、講談社の大赤字決算とかあって、まさに「いつまで付き合うつもり?」という問いが重たくなってきて…