2008-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『けちゃっぷ』喜多ふあり

もしかして同水準だったらどうしよう、と思い、同時受賞作を読めなくさせてしまった、私にとってそんな作品である。 とにかく不自然さが際立つ。そして、こちらの作品では、人が、物語ではなく、意匠というか工夫の犠牲になっている。 小さいところでは、ブ…

『クロスフェーダーの曖昧な光』飯塚朝美

選考委員の各氏も苦言ばかりなので、遠慮なく[オモロない]にする。新人の作品を読むと最近思うのだけど、いったいこの人はお話を書きたいのか、人を書きたいのか、と。それともただ小説家になりたいのかな、と。 私は保守的な読み手なので、やはり純文学は人…

『新潮』『文藝』 新人賞二作

さいきんこの話題ばかり書いてますが、GMとクライスラーの合併話が結構進んでいるような記事がありました。ダイムラーが救ったときは何とか残った「ビッグ3」という呼称もいよいよ無くなりますか・・・。 英国とアイスランドに至っては、アイスランドの預金…

『快適な生活』松井周

前作がそこそこ面白かったような記憶で読み始めたが、女装という、たしかに扱っている世界は面白い。しかし、この自棄的な虚無感にいたる過程の説得力が少し弱い気がする。それとその自棄が中途半端でもある。もっと自分を捨てるなら、こんな女装なんかした…

『ポトスライムの舟』津村記久子

今月の必読小説。先月の佐川さんに続いて『群像』が2連勝といったところ。 そしてテーマも共通する。「労働」だ。あくまで勝手な解釈だけど。 津村記久子の別の作品を読んで、OLの日常を切り取りました的な、たとえば柴崎友香のような作家と思っている人…

『群像』 2008.11 読切作品

クレジットクランチの話の続きですが、TVをボケーっと見ていたらニュース解説的番組で、GMとフォードの時価総額が3000億円前後で、いすゞやスバルと変わらなくなってました。(ちなみにトヨタは11兆円です。) 異常ですよね。いや、株価は先を見るのでこ…

『赤い蒲団』飯田章

隣の家の元気な犬が元気がなくなりやがて死んでいくまでを語り、そのなかで、それを自分の人生とまたかつて自分が飼っていた犬の死と重ね合わせるリアリズム小説。 生命に執着しないかのように死んでいった隣の家の犬と、執着しボロボロにまで生きた犬とのあ…

『われらの時代』佐川光晴

文句なし。私にとっちゃ掛け値なしの傑作。常にリアリズムで、労働というものを見つめてきた作家だからこそなしえた仕事だろう。 民間で残業代の出ない残業を働いてる人のなかには、公務員を天国で働く人のようにみる人も少しは残ってるかもしれないし、たし…

『群像』 2008.10

やっと群像にたどり着きました。しかも最新号ではありません。(最新号の津村さんの作品は良いですよ!) ところで最近の金融のクレジットクランチですが、対岸の火事どころか、これでグローバリズムが一歩も二歩も後退する大事件だなどと考えてたりします。…

『太陽を曳く馬』高村薫

やはりこの作品にはやはり言及せざるを得ないだろう。もはや推理小説的なものから遠く離れ何一つ解決していない完結なのに この素晴らしさ。福澤はけっきょくどうなるの、でもこのまま放置でも良い、みたいな。 ときに絵画論もあり、古代宗教から近代哲学ま…

『カデナ』池澤夏樹

悪印象しかなかった911テロの陰謀論いらい池澤夏樹のことを信頼しづらいのだが、今回も結局はどうせ反米的な小説だろうなあという先入観がどうしても拭い去りがたく、なかなかこの小説に入り込み辛くはあった。ただそういう個人的な理由から離れても一般…

『ダグラス・サークの教え』四方田犬彦

この人の博識はすごいなと思うが今回は映画シロウトにとってあまりにマニアック。四方田さんのは、面白い回とそうでない回との落差が激しい。

『連続するコラム(20) 鹿野武一をめぐって』山城むつみ

なぜ完結するのか事情はよく分からないが、新潮の評論のなかで山城さんのものがいつも一番面白かったように思う。ただ今回はむしろ題名的に「石原吉郎の潤色をめぐって」にしたほうがより人目をひいたのではないか。 大空襲や原爆体験やオキナワにくらべて、…

『資料の読み方』鳥居民

大正天皇の皇后つまり昭和天皇の母への評価(というか史実)をめぐる原武史批判である。こういう問題意識はまったくなかったがなかなか面白い。だから野次馬的興味しかないのかもしれなくて恐縮だが、ぜひ新潮には原氏にもなんか書かせるべきである。でコメ…

『あるいは反共同体的共同体の声――大江健三郎と中上健次』小林敏明

なんとも堅苦しくてオーソドックスな評論。大江には興味があるが中上に対してはほとんど興味のない私が、中上を読んでみようという気にはやはりならなかった。 ところで中上はアルバートアイラーの事が好きなのは知っていたが、コルトレーンも好きなのは初め…

『ファントム、クォンタム』東浩紀

ただでさえ錯綜した話なのに、2ヶ月おきじゃ内容覚えてないって。新潮編集部さん・・・・・・。結局最新作を読むためには前回を読まなきゃよく分からなくなっていて、なんか時間の無駄なかんじ。 完結してそのとき気が向いたらまた最初から読んでみようかとも思う…

『妖談』車谷長吉

実話だかなんだか良く分からないが、3題の小話を淡々と描写。この人はより大きなスパンで物事を捉えるせいなのか、物事に拘泥する人物を描きながらもどこか乾いた風情なのがいいのかもしれない。しかし私にとってはただそれだけで、暇なときでないと読まな…

『新潮』 2008.10 続き

そういえば先日、ある私鉄の裏道の信号のない交差点で女子高生を轢きそうになりました。だっていきなり自転車で非優先道路(止まれの白線があるほう)から普通のスピードで突っ込んでくるんですから。 それでも自転車×バイクだったらバイクの負けなんです。 …

『電気馬』津島佑子

ひとりの老中年らしき女性が、長年世話してきたとおぼしき障害をもつ男性を殺害してしまう。しかし、それはなかば自分の意思からでたものではないのだ何かに動かされ・・・・・ときにニュースなどで報じられる痛ましい出来事にたいする津島なりの文学的答えといっ…

田中慎弥のエッセイ

このエッセイに興味深い記述が。 田中氏は「(自分の作品もときに難解といわれるので)もう少し分かりやすく書かなくてはならないと考えている」らしい。 思うに、田中氏の場合、ひとつひとつ文章はけっして分かり辛くはないのだ。ただ全体として決して読み…

『葵−源氏物語特集より』金原ひとみ

この作品のみ、現代の小説として響いてくるものがあった。といってもこの特集で読んだのは、上記を含めて3作品だけなのだが。源氏から離れて完全に金原ひとみの短編として成立してる。 なかでも最後2ページの迫力は相当だ。子供を生むことを、文学の言葉で…

『末摘花−源氏物語特集より』町田康

町田の作品は読むつもりがなかったが、冒頭の数行をよんでいるうちに全部読んでしまった。町田の文章力はそれだけの引力を持つといくことで、それだけでもすごく評価すべきことなのだろうが、この作品は強引に町田的文章に源氏の内容を押し込めただけのよう…

『若紫−源氏物語特集より』角田光代

読み易く、また情景もあたまに描きやすく、ひとつの世界を作っていてさすが、という印象。ただし内容はといえば、現代人の心情にマッチできていない。これは角田の責ではないだろう。源氏物語はやはり遠いのではないか、と思う。たしかに少女の唯我的なとこ…

『新潮』 2008.10

今この日記、途中まで書いて、まちがって左側のタブをクリックして全部消しちゃいました。 ただでさえ最近やる気がないところ、せっかく書く気がでてきたのに。

『グレー・グレー』高原英理

前述の福澤作品と打って変わって、言葉の一つ一つにやたら神経を配った詩的なSF的非リアリズム。 非リアリズムということで出だしは不安だったが、しかし決して読み辛くはない。主人公が冷房を最強にしている理由が徐々に明らかになる構成もよく出来ている…

『鍵のない教室』福澤徹三

完全リアリズム。一人の中年専門学校教師がリストラされるまでを描いた作品で、技巧的な工夫は殆どない。が、読ませる。専門学校の内幕を暴いたその内容だけでも一読の価値はあるだろう。こういう話を、たんに、社会学的な問題としてノンフィクションで書い…

『裏キオクストック発、最終便』平山夢明

世界が狂いはじめてる、ネジがはずれてきてる、と思ったら、じつは逆転していて狂ってるのはもしかして自分?というディック的SF小説。昨今のSFはきっと構築的志向が強いだろうから、SF誌にこのまま載る事はないのだろうか。ディックもコアなSFファ…

『神様のいない日本シリーズ』田中慎弥

半分くらいで挫折。よって評価不能。この独白する父親が野球をやらない理由が、単純に敬愛していた母親が祖父の昔話をした最後の言いつけを守ったからだと思っていたら、なんか錯綜していて、「父さんはやろうと思えばできた」とか言い出して混乱し、葉書を…

『文學界』 2008.10 読切作品

人生幾度目かというくらいの少ない頻度ですが、さいきん何事にも積極的になれずこのブログも滞りがちですが、新しい文芸誌が発売されるとまだ少しはワクワクします。やはり柄谷氏の名前が目を引きますねえ。こんなんが目を引いてるようじゃオシマイと言われ…