『葵−源氏物語特集より』金原ひとみ

この作品のみ、現代の小説として響いてくるものがあった。といってもこの特集で読んだのは、上記を含めて3作品だけなのだが。源氏から離れて完全に金原ひとみの短編として成立してる。
なかでも最後2ページの迫力は相当だ。子供を生むことを、文学の言葉でここまで表現することは並大抵ではないだろう。妊娠中のカラダを「完全な私」と捉えるのも興味深かったし、また、子供を外部でありながら同時に切り離された「私」ととして2重に捉えるその複雑さ、成り立たなさの不安の意識の表現も、これはひとつの詩でもあった。凡人的な表現なら「嬉しいけどなぜかちょっとブルー」で済んでしまうだろう。