2008-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『いはねばこそあれ―男色の景色(二)』丹尾安典

前回はたしか明治期の文士たちの男色あれこれだったのだが、江戸期の文化の影響がまだ残っている時代の話で、とくに不自然でも何でもないので(江戸時代では男色は全くタブーではない)、あまり興味を持てなかったのだが、今回は三島由紀夫と絡めて『薔薇族…

『高畠素之の亡霊(二)』佐藤 優

やはり『私のマルクス』よりも評論的記述が多く、あれほどは面白くない。面白くないが、今やそれほど著名でもないマルクス研究家の事を書いてここまで読ませることができるのは、素直に佐藤の力だと思う。今のままだと日本の左翼の源流の頃の話だが、これが…

『四方田犬彦の月に吠える(二)』四方田犬彦

インドネシアの政情がとても不安定な地域に行ったときの話で、なんか感傷的というか情緒過多というか、評論と捉えずエッセイと考えればそれでいいのかもしれないが、ひとつも面白くないし、それゆえに長く感じる。

『第二シーズン』楠見朋彦

私が信頼している数少ない男性作家である楠見朋彦の作品は、前作(母の記念日)とよく似たテイストの作品で、ごくありふれた人々の生活を描く真っ当なリアリズム小説。今回の作品は女性のキャラクターが多少典型的な感じはするが、楠見の描く男性はやはりリ…

『首里城下町線』大城立裕

偶然かつての軍隊の上官の親類の人と出会い、沖縄にかつての戦友に会いに行きつつ、その頃を回想する話。 この著者のことをネットで調べて驚いたのは、けっこうお歳をめされている事。こんなにしっかりとした文章を書くとは正直驚いた。沖縄戦の内容について…

『新潮』 2008.2 読切ほか

なんとかウォーカーだか"ぴあ"だかでベスト3に入ったつけ麺やに、たまたま入ったのですが、少しも美味しくありませんでした。 ラーメンには何の拘りもないのですが、つけ麺だけは、私が定義するつけ麺と世間で美味いと思われてるつけ麺が著しく異なることが…

『小説と評論の環境問題』高橋源一郎+田中和生+東 浩紀

鼎談が行われたきっかけは高橋×田中なんだけど、より深い対立は東×田中といった雰囲気。 東 浩紀・・・近代社会の病巣でもある近代文学を葬りたい 田中和生・・・自分のメシの種としても近代文学を残したい 高橋源一郎・・・近代文学を葬る意義は認めつつ愛…

『かもめの日』黒川 創

いちおうすんなり読めた事をもって、面白い、とはしたが、私より評価を低く見るひとは結構いそうな作品。 文筆家業の男性がでてくるのだが、その人物が小説中で書く作品とこの小説じたいがダブるようなところがある。メタフィクションと構えてしまうほどのも…

『新潮』 2008.2

文芸誌にあの新風舎の広告がまだ載ってたりするんですが、この著者さんもひょっとして・・・と思うと物悲しさが漂いますね。 それにしても、その広告の中身自体、読みたいと思わせるような内容のものはひとつとしてありません。これでは、倒産も仕方ないのかな…

『墓の光景』窪島誠一郎

読みきり作品のなかではいちばん読みやすかったので読んだのだが・・・。戦前養子に出されその後成功した画家が、実の父親や、養母の愛人などを含めたその経緯を戦時中のことを中心にいろいろ振り返るといった内容。 養母やその愛人の当時の様子を描いた部分は…

『「人間をおとしめる」とはどういうことか』大江健三郎

『沖縄ノート』をめぐる裁判で、今まで書いていなかった舞台裏とかそういう話を期待したのだけど、どうも公式なステイトメントという感じの内容で、以前朝日新聞に書いた(らしい)事の繰り返しというか大差ない感じ。曽野綾子の誤読といえば確かに誤読とし…

なぜか『すばる』2008.2

連載を読んでないので買うこともあまりない『すばる』ですが、大江健三郎の裁判についてのコメントを読みたくて買ってみました。 以前『すばる』はポスコロっぽいなあという事を書いた覚えがあるのですが、今月も変わってないですね。朝鮮の記事と沖縄の記事…

『川でうたう子ども』鹿島田真希

知恵遅れの女性が産み落としてしまった娘の話を中心に、寓話的な設定のもと、性や暴力の倫理を問う内容。読み疲れる。全体的にもちろん現実への批評なわけだから、どうしても現実に置き換えて読みたくなるし、といって現実に置き換えればこれはあの事だな、…

『夢の栓』青来有一

引きこもりの男性が、祖父が先の戦争で祭祀の長となってしまった未開民族の人に祭礼品を返して欲しいと言われる話。戦争末期に近づいてくると地域によっては全く把握不能なくらい日本軍は瓦解していたと思われるので、ありそうでもあり、でもちょっと無さそ…

『事態は悪化する』中原昌也

途中から、昨年の『新潮』に載った筒井康隆の小説のように、同じような出来事が微妙に少しづつ変化しながら反復される内容。筒井氏は自分の作品発表時に、中原氏も自分と同じような事を構想していたとどこかで書いていた記憶があるので、中原昌也のスタイル…

『文學界』 2008.1新年号 読切作品その2

自炊中心の食生活にしてから2年以上たつのですが、先日久々にケンタッキーのノーマルピースを食べて驚きました。 その塩辛さに、です。 もっとも、1個目の最初の何口かだけ違和感があっただけで、いつの間にか普通に食べてましたが。

備考

「いのち」というテーマでの短編、まだ他にも何作かありましたが、河野作品以外のものは時間が余っていても読まないと思います。

『嫌な話』前田司郎

時間があったので読んでみただけ。まさしく"独り善がり"と言えるような人物の事が、これまた独り善がりな文章で記述される。一人称だからそれで整合性が取れているのだが、最初の1ページから何ともウザったくて何度も読むのを止めようと思ってしまう。しか…

『朋友』岡松和夫

大学で同級だった人間が、就職後若くして急死し、友人たちがその彼を偲んでいろいろ思いだす話。友人のひとりに左翼運動に熱心な人物がいて、その手の、私が好きそうな話も少しだけ出てくるのだが、雰囲気をちょっと伝えるだけ、という感じ。急死そのものに…

『五月晴朗』原田康子

末期ガンの夫との最後の何ヶ月かを、作家を職業とする妻の視点から描いた話。抜群に読みやすい。掘り下げた心理描写や凝った比喩表現を省いたものとなっているが、心境とか感情が老年にさしかかってより単純化していくものだとすれば、これがかえって自然だ…

『群像』 2008.1新年号 昨日の続き

最近やや暖かめの気候と感じます。まるで私が厚手のコートを2ヶ月待って半額で買ったのを待っていたかのようです。 今日は昨日の続き。しかも内容的には薄いです。

創作合評の田中弥生の川上作品評

田中弥生さんは頭の切れる人で、ネタばらしが得意技で、それだけでなくきちんと文学の知識も豊富な人なのだ、というイメージを残して彼女の当番は終わってしまったのだが、最後のこの川上未映子評はさすがになんなんだろうコレ、というものだった。 一葉への…

『天使の輪』朝比奈あすか

はじめて妊娠した女性が、昔学生だった頃にいじめて辞職させたそのとき妊娠していた女教師のその後に執心してしまう話。中学生の悪口ごときで辞めてしまうようなウブな教師などいるかとか思ったりするが、今の教師なんていろんな人がいるみたいで、無い話で…

『アンジュール』樋口直哉

小さい頃食パンを良く食べる犬がいて、その犬が死んで埋めたとき近くの川に食パンを流して供養した、そんな回想を含む話なのだが、不思議と心にひっかかってこない。パンの作り方を教える男性も、食パン犬を買っていた気丈な女性も、女性の父親だった男も、…

『記憶の告白』平野啓一郎

以前読んだ短編にしてもそうだけど、こういう平野作品の面白さは今一理解できない。言葉の一つ一つ、文章の隅々まで計算されていて、カッチリとしていて、氏が好きなマイルスの演奏のように隙の無さは感じるのだが。

『7つの質問』川上弘美

分からない分からないと言って来た川上作品だが、小説ではないこれは、こういうものを面白いと感じる人もいるかもしれない、と言う程度には分かる。

『新売春組織「割れ目」』中原昌也

群像2月号の鼎談で中原昌也の文芸誌制覇した4作品がまとめて言及されていたのだが、読めたとか読めないとか文章が上手いとか変だとかそんな第一印象的な話に終始していて、非常に物足りない。基本的に評者が皆投げ出してしまったような感じなのだ。ただ、…

『舞城小説粉吹雪』舞城王太郎

超有名な作家であるが、きちんと読むのは初めて。そんな奴がこんなブログをやっていていいのだろうか、という疑問は至極当然という気もする。(だから勝手ながら、悪評のときなどあまり気にしないで欲しいんだけれど。) とりあえず、『すばる』を除く買った…

『群像』 2008.1新年号から

ラジオなんかたまに聞いて、やっぱり音楽っていいなあ、と思ったりする事があるんですけど、積極的にCDで何かを聴いたりする気には、最近ほとんどならないのは何故なんでしょう。 昔は趣味欄に音楽鑑賞とか書いていたくらいなのに。

特別原稿『「善意」と「善行」』水村早苗

身勝手であることが却って結果としてある人に生きる目的を思い起こさせた話を中心に。配慮してしまうことが逆の結果を惹起することをどう捉えたらいいのか、つまりいわゆる深謀遠慮な行動の問題とか、いろいろ感じ、考えてしまった。それにしても深謀以上に…