『舞城小説粉吹雪』舞城王太郎

超有名な作家であるが、きちんと読むのは初めて。そんな奴がこんなブログをやっていていいのだろうか、という疑問は至極当然という気もする。(だから勝手ながら、悪評のときなどあまり気にしないで欲しいんだけれど。)
とりあえず、『すばる』を除く買った新年号3誌のなかで、いちばん心動かされた作品である。ただどこが?と言われると困惑してしまう。文章も平易だし、難しい単語が使われているわけでもない。中学生でも高学年なら読めるかもしれない。それに、例えば、人の気持ちが雲になるというモチーフも単純といえば単純。ただ、それも、こういう平易な文章で表現されると違和感がなく、かような単純な感情を平易に描くというのが逆に新鮮で、心を動かされた部分はあるかもしれない。
ひとつ確実に私をキャッチしてしまったのは、「愛するとは愛されたいと願うこと」の気持ちがすごくバランスよく描かれているところ。愛されるという事が、夢のなかで、しかも現実に想いを寄せる女性ではなく、架空の人物によって実現する。全く別の架空の人物によって実現されるというのそのストレートでないところが、ああ分かってるなあそうなんだよ舞城氏という感じだし、その、夢でも嬉しくなってしまう幸福感と、夢の中ゆえの物悲しさが同居する微妙な感情が、思わず自分のなかで再現されてしまった。恋愛感情を表現したもので、ここまで心に迫られるような事は滅多にない。