2009-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『黄泉入りどき』桑井朋子

短い作品だが、姉の小言の部分だけが面白く(最後に余計なつけたしがある所)、それを考えるとこれでも長い。ちと退屈した。

『歓び組合』墨谷渉

思ったのだが、すばるでのデビュー作から、少しだけではあるが後退してはいないだろうか。分かりやすいSM的世界に。あの訳のわからなさは一体どこへ。世間からの同情をもって有罪を勝ち取った夫婦が暴力の対象になるところには変奏の可能性を感じたのだが…

『火を盗む』谷崎由依

この作家にしてはいつもより簡明な短文で構成しているように感じられるが、基本線は変わらない。とても技術があり知性も感じさせながらしかし描くことがない、そんな感じだろうか。流産の悔恨とは、いやそれは女性にとってはいつの時代も大きな問題なのだろ…

『たそがれ刻はにぎやかに』木村紅美

青年と、そして彼から一世代ジャンプした老女との交流を描く。互いに異なる思惑から近づいた筈が、それとなく心も通わせるかのようになり、とちょっと映画じみた感じもする。それにしても、この作家にかかるとどんな題材も明るさを伴って料理されてしまうの…

『妖談7』車谷長吉

前回もこれは書いたが妖しい部分がなくなってきている。はじめて妖談を読む人はどう思うのだろう。 いちばん最初の牛について書いたのが面白かった。小学生の頃、近所といっても1キロ以上は離れてただろうか、そこそこ大きな牧場がある友人がいて、遊びにい…

『文學界』 2009.6 読切作品

えーといかに私が文学賞一般に関心があまり無いかというのは、本日ネットに久しぶりに繋いではじめて三島賞の受賞作を知ってしまった事で分かっていただけるのではないかと思います。 本日初めて知ったなんて、言うだけならどうとでも言える、どう証明するの…

『漱石深読−「坑夫」』小森陽一

評論としての面白さとは別のところに言及したいので評価不能としておく。というのもちょっとこの評論の「注」に文句つけたいのであるが、小森陽一という人は湯浅誠のいう「すべり台社会」という事の意味を理解しているのだろうか。湯浅がいう「うっかり足を…

『猫、めだか、邯鄲』青山真治

ほとんどが猫の話。猫好きの人の猫についての話がいかにつまらないかは川崎徹の小説で嫌というほど思い知ったが、この小説も例外ではない。名前の由来とか、なんでそこまで詳しい話を語りたがるのだろうか。猫好きのような人でも、(あるいは、に限って?)…

『失踪クラブ』原田ひ香

ひさしぶりに金返せと思わせるかのような作品だったが、同じ号に吉原清隆の傑作が載っていたりもする。しかも金返せと思ったわりには最低の評価ではない。少なくともなんとか人に読ませようとする工夫のあとが少しは見られるからだ。どういう点かというとそ…

『すばる』 2009.5 拾遺

以前、『新潮』の連載で四方田犬彦氏が言及していた若松監督の連合赤軍の映画がWOWOWで放映されたので見たのですが、同じあさま山荘事件を扱っていながらこんなにも違うかっていうくらいに、全く違う映画になっていましたね。何と比べてかというと、原…

『夜に知られて』上村渉

新人らしからぬ、といった印象。ただこの小説も、読者の想像に任せすぎているきらいがあり、評価はすこし落とした。 任せすぎている、というのは、結局この手紙の主である未熟な先生は、決裂した不良少年と邂逅しているらしく、いわば一番難しい部分を、われ…

『白い紙』シリン・ネザマフィ

吉田修一が推薦するのが、良く分かるなあ、というそういう小説。舞台が国境を越えてたり、あるいは、純文学があまり扱わないタイプの内省の少ない「普通の」人を、積極的に小説で取り上げてきた吉田修一ならでは、という感じなのだ。 主人公の少女の心理があ…

『文學界』 2009.6 新人賞&受賞第一作

このあいだ青山七恵の小説についてここで書いた後ふと思い出したのですが、以前、同じ職場に勤務するOLが、勤務中に「うっ」と気持ち悪くなって何度もトイレに駆け込んだことがあって、翌日から欠勤となり、結局そのまま退職した事があり、社員間の噂に疎…

『青木淳悟 「このあいだ東京でね」書評』陣野俊史

久々紙の無駄なのだが、しかも滅多に文句を言うことのない書評ページ。だって余りにひどいんだもん。 この書評纏めてしまえば、青木淳悟は小説らしい作品を書こうとしない素晴らしい作家である、ただそれだけ。一般人でも言えることを書いただけ。青木作品を…

『よもぎ学園高等学校蹴球部』松波太郎

今まで読んだこの作家の作品のなかでは一番面白く読めた。場面転換がうまいというのも今作品ではじめて実感できたし、新人賞受賞作のなかで見られたような、一見意味ありげで思わせぶりな訳の分からないシーンの挿入もない。その逆に、物語と全く関係がない…

『四角い円』円城塔

せっかく文學界新人賞を取ったのだから芥川賞を、と編集者に迫られたのか分からないが、珍しくリアリズム。しかも理系の研究機関が抱える孤立感という社会的な問題まで織り込んでいる。だが作品としては結局前半でやたら退屈な近代文学そのものといった情景…

『ニカウさんの近況』青山七恵

たとえば犬飼(いぬかい)とか鵜飼(うかい)なんて苗字としてそう珍しいわけでもなく、社会人にでもなればある程度見聞にはいっているはずで、二飼を「ニカウ」と読ませるのはちょっと無理があるだろう。あまりに話を作りすぎではないか。 そしていつもなが…

『安定期つれづれ』伊藤たかみ

この小説のどこにひっかかれば良いのかよく分からない。せっかくブログを持ち出しているのに、そこで書く内容と地の部分がシームレスで少しも面白くない。ちょっと対立しつつでも根底では信頼しつつという「安定期」にある主人公を含む祖父母の関係もあまり…

『残り足』玄侑宗久

ずっと義足だった父の健常者への鬱屈とか、その父への一人息子の鬱屈はあまりこちらに伝わってこない。なぜこの二人は主人公が若いときのみならず、そんなに対立することになったのか。舅としての父と嫁との水道をめぐる対立とか原因めいたものは書かれてい…

『熊出没注意』南木佳士

まるで自分の身代わりのように死んでしまった後輩のことについてもっと語られるかと思ったら、想像以上にあっさりとしている。また途中伯父やその兄弟、イトコが立て続けに語られ、関係がにわかに分かり辛い箇所があった。そのなかで(自分の)父が、母が早…

『文學界』 2009.5 読切作品

以前書いたかもしれないお手軽ペペロンチーノですが、ほぼ完成形に近づいたと言っても良いかもしれません。結構食べれます。 それは、ある輸入食材店で偶然、バジルペーストを手に入れてしまったからなんですが、これを加えるだけで随分違ってきました。 ま…

『信号』間宮緑

けっこう凝った文体が時折みられ、私にとっては藤沢周の文章などより、読んでいて、ああこういう表現の仕方も可能なのか、と思わせたりもした。 ただ内容そのものは少し退屈。ここでも自己と他者の問題が出てくるのだが、まだ自己の内から出ていない段階。と…

『日本私昔話より じいさんと神託』藤谷治

最高だな、これは。もうひとつ上の評価をしたいくらいだ。 一行目からして面白い。そして最後までそれが持続する。語り口も面白い。アメリカのミニマリズム(の翻訳)っぽく簡潔にまたリズムよく読ませる所もあり、思わず線を引きたくなる。(「私には仕事も…

『妖談』車谷長吉

このシリーズもだんだん妖しげな話でなくなってきているような気がする。ただ人間の不可解さに触れてはいるから、ただのエッセイなんかよりもずっとそれぞれ読んで面白いとは思う。中でもフグの話が興味深かった。

『霊獣「死者の書」完結編』安藤礼二

目次に「小説と批評の融合」とあったので、とりあえず読んでみたが、途中途中でやや凡庸な情景描写が多用されただけという印象。もとから折口に興味がなければ、この作品で興味が沸くという事もなく。 ただ、いにしえの頃キリスト教と仏教には繋がりがあり、…

『キルリアン』藤沢周

読み辛い。だけならなだしも、それを読み砕いた後に何かしらの感慨が浮かぶわけでもない。苦行のように読んだ。まるで口数が多くなったゴルゴ13が純文学を気取って、外界に内面を反映したりして戯れているかのようだ。 また主人公は、廃屋のような所に住み世…

『新潮』 2009.5 読切作品

さて文芸誌の最新号は新人賞の発表があれば、新人賞第一作掲載などもあり、全体として結構賑やかなふうに私としては感じている昨今、すっかり暖かく、というか通り越して暑くなってしまいました。 今年も嫌な季節が訪れようとしています。 どっかのエッセイ…

『おっとうらくの』吉原清隆

別にここみて買う人がいるとは思えないのでそれほど気にしていないのだが、この生来の怠惰に打ち勝って発売期間中に言及できれば良かった、そう思うくらい文芸誌5月号のなかで必読の一作ではないか、と思う。『すばる』なのにね。 この人は前作も面白く、そ…

『すばる』 2009.5 読切作品

先日ここでも書いた諏訪氏の最新作のなかで、苦痛と快楽は隣り合わせであるとかいろいろ快楽について語られていたのですが、何かと自意識が邪魔をする人間である私は、性の現場に擬似暴力を持ち込むのにちょっとついていけない所があります。 いきなり「痛い…

短編競作まとめ

一編を除いて全部読んでみたが競作というくらいだから競っているわけで、では私の順位はというと、ダントツで金:小林里々子、以下、銀:藤野可織、銅:最果タヒというところ。 なんと全部女性。 というか、短編そのものの数がすでに女性の数の方が圧倒的に…