2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『ヘヴン』川上未映子

久しぶりに寝る間を惜しんだ。読み終えたとき(正確にいえば4分の1くらい読んでそれからずっと)、ここに何も書く気がなくなってしまったそんな作品である。とにかく圧倒された。あまりに優れた作品は言葉を失わせるものらしい。だから余り考えずに、とり…

『群像』 2009.8 読切作品

惜しいことにいまや富士山とは関係なくなってしまい、なぜ「フジ」ロックという名前なのかを知らない人なんかも結構参加じているかもしれない音楽フェスティバルが開催中のようですが、私は行ったことも行きたいと思ったこともなく、また、肝心のそこで流れ…

『法螺ハウス』松本智子

とても好感をもって読み終えた。これはかなりの力作ではないか。私が感じた好感は、作者のヒトというものへの強い情熱や思い入れが、それが素直に伝わってきたのだろう。現代小説の昔ながらのテーマである「生き辛さ」「孤独」をなんのてらいもなくきちんと…

『森の靴音』松井雪子

話じたいが何ともうそ臭い話だし、登場人物ふたりの暗さの無さも気になるのだが、ここまで見事に構成されていれば、それはそれでそのストーリーテリングは評価に値するのではないか。とくにラストで皮肉がたっぷり効いているのがいい。 じっさいのところこう…

『犬と鴉』田中慎弥

読みながら幾度睡魔に襲われたことだろう。あちこちで評価が高い作者であるが、その面白さは私では分からないもののようだ。相変わらず腑に落ちない感情描写もある。 なぜ眠くなるかと考えると、まずは、その出来事の少なさと、思弁の多さ。こういうのはやは…

『遍路みち』津村節子

夫が死んだ作家であるとなると、吉村昭の事としか思えず、そうなるとどうみても殆どが事実としか思えない。となると、お互いの作品を読まないことにしていたとかそういった事実が興味深いし、何より、ほとんど一般人と変わる所のないくらいベタな悲嘆に暮れ…

『群像』 2009.7 読切作品

先日RCサクセションのエッセイのことを書きましたが、今読み返すとBOΦWYや尾崎豊を韓国の歌謡曲ぽいとか書いてあったりするんですが、それってどうなんですかね。いかにも近隣アジア蔑視な表現ですが、正直にいってしまえば、日本人の一般的な感覚とし…

『母性のディストピア』

まったく理解する気持ちが全くないので毎月ただ眺めているだけだが、何がネタになっているかは知っている。サブカルチャーをさも社会学風なタームを使ってさも意味ありげに語るのは、大昔から行われているが、最早文学がそれで活性化することなどない事だけ…

『夢の尻尾』辻仁成

性的にはライバルとして存在を忌み嫌っていたのだが、じつはそれも過剰な思いのひとつの表れであり、幻想のなかでやがて敵に惹かれていく、というありがちないかにも純文学です、という感じ。よくまとまってはいる。 おまけ

『さらばボヘミアン』松本圭二

この号の『新潮』でいちばん面白く読んだ作品。だが書きたいことは殆ど無い。高速のPAでカブトムシの幼虫を売る話が面白かったかな。 映画業界になにがしかの夢を抱いて上京という、今の時代にしてはあまりにアナクロな主人公の話だが、こういう青春小説的…

『ignis』川上弘美

小さい犬が光っている。何なのか全く分からないが、その異化作用がこの作品の全てだろう。さも意味ありげな、しかし良く分からないことを書いて、読者の解釈にまかせる、そんな純文学にありがちな作品。どうしてこの青木という男と付き合い続けているのかも…

『すばらしい骨格の持ち主は』川上美映子

文章に余計なものが何もないという印象を抱かせる。感情の表現なども非常にシンプルであり、その分強さを感じる。言葉というものはこのように強くて、暴力的でありえる、そんなことを再確認させられた。 小説的言語としては、単純な表現が多いながらも、「自…

『トカトントンコントロール』佐藤友哉

職業としての作家というものの現状がいかに厳しいか、わりと冷静に把握していて、なんという時代にうまれちゃったんだろうなあ、というあたりの記述がとくに面白かった。その包み隠しのない所や、それでも上昇志向が残ってるとこなど、この作品がいちばん太…

『グッド・ミン』柳美里

大事にしていた子犬が突然死してしまうはなし。実在の人物が出てくるがどこまで本当かは分からない。ドーベルマンみたいな身体能力の高い犬は、子犬のころ適度にいろんな人に慣れさせて社会化させないと、臆病でそれでかえって凶暴になってしまう、というと…

『鏡よ鏡』松浦寿輝

じつは生きていた三島シリーズ。といっても何作あるのかは知らない。自宅の地下に等身大のバーのジオラマを作るみたいなことをして、怖ろしい云々感慨を抱く話なのだが、それがそれほど興味深いこととは最後まで思えなかった。評論の方が面白い。

『尻の泉』町田康

さいきん私の中でどんどん詰まらなくなっている作家。私が変わったのであって、ニセモノの世界で世間に妥協してつまりニセモノとして生きると碌なことがないよ、というこの作家のモチーフは相変わらず(に見える)。 このような単純な二分法で世界を考えるこ…

『新潮』 2009.7 読切作品ほか

読み終わった一年くらい前の『文學界』を4冊ほど、捨てずにブック○フに持って行きました。買い取り価格は0円でございますと言われるのもなんか恥ずかしい気もして、ゲームソフト2、3本と一緒です。 1000円前後の金額を受け取り、買取明細レシートを…

『私のマエストロ 忌野清志郎』モブ・ノリオ

RCサクセションが「怪物的なロックバンド」と書いてあるが、いくらなんでも持ち上げすぎ。また「未知数の社会的影響力を兼ね備えた」とも書いてあるが、未知数の社会的影響力って何なんだろう?意味がよく分かんない。 そもそも忌野清志郎の一般的知名度に…

『ジビカ』金原ひとみ

カタカナ三文字シリーズ。冒頭のステロイドをめぐるやり取りなどやはり抜群に面白いが、今回はウツイくんの悩みの無さぶりが今ひとつ。というか、『デンマ』が面白過ぎだったのか。 精神科に行きたくてもなぜかどうでも良い理由で行けず、悩みの無さそうな人…

『イタリアの秋の水仙2』辻原登

小人という虚構を通して、和歌山カレー事件であるとか、チベット問題に触れていく。それぞれ現実にあった事件にほんの少しづつ虚構を組み入れるが、現実にあった事件の「現実性」を曖昧にするとか突き崩す所までするわけではない。あくまで考えるきっかけに…

『夙川(しゅくがわ)事件―谷崎潤一郎余聞』小林信彦

ここに出てくる私の存在感が希薄で、彼がどうして年長者の翻訳者が嫌で、若い者が欲しかったのかが伝わってこない。これだけ読んだら別に年配の翻訳者でいいじゃんという。昔の文壇の内幕、というかたんに出版界の内幕なんだが、その興味も薄い。

『麻布怪談』小林恭二

この小説に唯一意味があるとするなら、江戸期のころの麻布がどんな地だったか、とか、国学の勢力がどんなものだったか述べるくだりだけ。つまりたんなる知識情報として。なのにその記述は淡白。残りはもうたんなるオハナシ。狐がどうだの幽霊がどうだの、オ…

『文學界』 2009.7 読切作品ほか

芥川賞の候補者が決定していたことを先ほど知りましたが、意外に感じる人が多そうな顔ぶれですね。(誰がどうこう、というのは置いておきますが。)私としてはこの人が芥川賞ってのはなんか抵抗あるなあ、という人が候補者にいないので、意外とか残念という…

『殴る女ファイナル・ラウンド』荻野アンナ

ここで書かれている「筒部」というのは秩父のことだろうか?高校生の頃は峠を走るとか言ってお邪魔したこともある筈だが、最近は全然知らない。駅前はその頃から寂れていたような。 最初からこのシリーズを読んでいないので評価はしないが、なかなか面白かっ…

『青森じいざす』青山真治

いつもの零児(と奈緒)もの。それ以上も以下もないので既にこのブログで触れた以上何も書くことがない。最初は単発のつもりだったのか、なぜそうしないのかよく分からないが、"連作"としてくれた方が消費者は分かりやすいだろう。 以下おまけ

『虫王伝』奥泉光

『すばる』でたまに見かけるジャズもの、というか、変態(姿を変える)サックス奏者もの、のひとつ。最初の頃はたしかイモナベとかいう人が主人公じゃなかったか。 じつになんか独特の文体である。ちょっと軽薄な感じがしないでもない、また、統一感のないテ…

『うつくしい墓La belle tombe』原田マハ

どこまでが史実か創作か分からないが、ひねりのない回想物語で、こういうものが『すばる』に載る理由がよく分からない。恵まれない主人公に実はすごい審美眼があったなんて、よくあるシンデレラストーリであって、たとえ創作でなく事実としても面白いとは思…

『すばる』 2009.7 読切作品

本格的な夏の訪れをまえに、日々だらだらと、生きる気力を失いつつありますが、年を追うごとにこの気分は増しているような気がします。と、同じ事をここ数年毎年のように感じています。 先日靴裏に貼る便利なゴムを見つけたとかここで書きましたが、キャンド…