『森の靴音』松井雪子

話じたいが何ともうそ臭い話だし、登場人物ふたりの暗さの無さも気になるのだが、ここまで見事に構成されていれば、それはそれでそのストーリーテリングは評価に値するのではないか。とくにラストで皮肉がたっぷり効いているのがいい。
じっさいのところこういう事態(仲の良かった友が急性アル中で亡くなる)にでもなれば、その後残りの二人はお互い会うことも心理としてままならないとは思うが、そういうリアリズム小説ばかりでもつまらない。スカラベの呪文だのフィーバーだの、幼稚すぎて少しも興味が抱けないのが少し読んでいて辛かった。また、せかされたのでもなく自ら自殺のように急性アル中になる屈折が死んだ人物のどのへんにあるのかがあまり伝わってこなかったのも気になるところ。もう少しおハナシではない部分に比重があるとよくなるかも。