2011-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『マザーズ』金原ひとみ

もちろん毎回楽しみだった事は今さら言うまでもないが、交通事故で子供を失うという出来事以降の盛り上がりはすごいの一言で、圧倒されつつも読む手を止めさせなかった。あるていど作家自身の生活が反映されているだろうなあ、とそれまでは読んでいたのだが…

『ぬるい毒』本谷有希子

田舎やそこにいる家族、あるいは田舎的なものから抜け出せない自分への嫌悪と、いっけん華やかだけどその実しょーもない都会的なものへの嫌悪。それらの相克というのは、話題になった『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』いらいこの作家お馴染みのモチーフ的…

『新潮』 2011.3 読切作品ほか

先日ヤマト運輸にメール便を出しにいったのですが、窓口で対応してくれた女性の名札をみると「佐川」でした。「あの、もしかしたら大変ではないですか」と慰めの言葉をかけてあげたくなりました。 週刊誌、とくに男性週刊誌というものは絶対買うつもりはない…

『餞(はなむけ)』勝見洋一

ここで文學界のほかの小説にふれると、村田喜代子の連作は、尖閣だとか対馬だとか最近なにかと騒がしい地域にかんする話も出てくるようなのだが、この人の小説面白いと思ったことないしパス。辻井喬も椎名誠も読まずともどうせ想像の範囲だろうということで…

『WANTED!! かい人21面相』赤染晶子

典型的な芥川賞受賞第一作。芥川賞受賞を是とする人は安心して読める作品。しかし、悪く言えば二番煎じ、か。 女の子と教師が学校で繰り広げるドタバタ劇であって、芥川賞作品より年齢層が下がっているだけ、ともいえる。ただ、恥ずかしながら前作の評をあち…

『文學界』 2011.2 読切作品

セブンスターが手に入らず、ジタンとかゴロワーズを買っているんですが、結構旨いですね。コンビニで売ればいいのに。 一ヶ月もたつと流石に地震のこともあまり言及されなくなってきているかのようですので、逆にあの日のことを書き記そうと思うのですが、少…

『カラジッチと三島由紀夫』三輪太郎

日本では有名ではないかもしれないが、国際的にはユーゴ(ボスニア)紛争で有名なカラジッチが文学に造詣が深いとはこれを読むまで知らなかったが、あまり驚かない。 ところで、むかしユーゴ紛争に関するドキュメンタリー(計6時間くらい)を見た記憶がある…

『鰯を買う』小山田浩子

新潮新人賞を絶賛した自分の目は間違っていなかったと、嬉しくなるエッセイで、「群像掲載限定エッセイ大賞」は今年はこれだろうな。顛末の盛り上げ方がうまく、落とし方が効いている。最後の一行でこれだけ、あっ、ははっとさせてしまうものはあまりない。 …

『時雨のように』古井由吉

名も無き一組の男女。交わされる会話と記憶。顔の記憶。表情。音。とおくで囁く声。と、まあいつもながらの古井作品です。 その日その日をおのずからただ生きて、測るはせいぜい一ヵ月後くらい、そしてふと今をみるとその場所が、想像どおりであるような、全…

『距離、必需品』岡田利規

ダンサーとして世界中のあちこちで公演をしている「彼」が日本へ帰ってきて、その妻である「わたし」と過ごす一日みたいな内容で、とりあえずその内容には、とりたてて深い内省があるわけでもなく、みるべきものは何もない。この「わたし」の考えている内容…

『私のいない高校』青木淳悟

クソ、とうとう私も青木が出し続けた毒が回ってしまったか、と、この評価をするに際して少し悔しさも感じたんだが、仕方ない。未だに真の理由が分かっていないのかもしれないが、なぜか面白いんだから。 気を取り直しつつ少し客観寄りにいうと、こんな小説読…

『群像』 2011.2 読切作品ほか

群像の最新号を手に入れたんですけど、さっそく地震について語られた文章が載っています。 とりあえずそれら全て読んだんですが、今回の事象にたいしてこんなにも自分が言葉を欲していたんだな、と呆れるばかりです。まあテレビとかで「勇気を与えたい」とか…

『サンクチュアリ』桜井鈴茂

たぶん私が読めていないだけだろうと思うが、面白くないものは面白くないのだから仕方ない。誰も彼もが格好よすぎてついていけないのですわ。そもそも初対面の女性と、こんな気の効いた会話を交わせるような奴が、強盗だか窃盗だかしなければならないような…

『おかもんめら』木村友祐

すばるのこの号で唯一「読めた」小説。 たしかに善悪がはっきりし過ぎていて、こんなはっきりとした悪役がいるようなもの文学として良いのか、という所はある。この小説は、自然=善、開発=悪あるいは、田舎=善、都市=悪あるいは、庶民=善、大企業=悪、…

『ロミオとロザライン』鴻上尚史

劇団の主宰者というか演出家というか作家というか、そういう人物が主人公なんだけど、彼の劇団が今度上演しようとする芝居と登場人物の実人生が、語っていくうちに徐々に重なってくるという、小説そのもののアイデアというか意匠はよく出来ていると思うし、…

『すばる』 2011.2 読切作品

桜は皆さん好きですか? 私が桜のことを意識し始めたのはかなり遅くて、社会人になって暫くしてからなんです。若い頃、中高生のころはまったくなんも意識していませんでした。それを意識し始めたのは、ある桜の巨木がある所で研修を行っていて、桜吹雪という…

『あめりかむら』石田千

この作家の作品を読むのは初めてだが、思わぬ収穫。とくに工夫を凝らしたところのないリアリズム小説なのだが、だからこそ良さが光った。読み終わったとき、なんて「良い」小説なんだろう、と単純にそう言ってしまいたくなった。そしてこの小説は間違いなく…

『我が異邦』藤谷治

藤谷作品というのは、私がこれまで読んだものは、たまたまかもしれないが、あくまでリアリズムベースでありながらどこかで非リアリズム空間を裂け目的に挿入しつつ語る作品ばかりで、で、その手際のよさも高評価ポイントのひとつだったんだけど、この作品は…

『疾風怒濤』古川日出男

題名に「疾風」とはあるが、主人公の行動、生き方に特段のスピード感を感じる事もなければ、物語の展開が速いとかそういうわけでもない。では内容ではなくメタな形式からいうと、確かに文体には特徴があって、短文が多数あり、また、「。」で終わるような部…

『新潮』 2011.2 読切作品

いやあ。冬もいよいよ終わりですかね。買ってきたものをすぐに冷蔵庫に入れなくて済む、大好きな季節なんですが。 なんて季節の話題とか書いても乗れない人多いかもしれません。震災後、どこか日常の感覚が戻らない、というか。 いわく、「3・11以後」世…