『ロミオとロザライン』鴻上尚史

劇団の主宰者というか演出家というか作家というか、そういう人物が主人公なんだけど、彼の劇団が今度上演しようとする芝居と登場人物の実人生が、語っていくうちに徐々に重なってくるという、小説そのもののアイデアというか意匠はよく出来ていると思うし、終始リーダブルなのは評価できるけど、なんか人物が薄いというか浅いというか。分かりやすい人物設定をしないと観客が分かりづらいという世界でやってきた作者だけに割り引く必要はあるのかもしれないが、脇役的人物についても、なんというか紋切り型。長年一緒の劇団に残ってきた男性が主宰者の妻である劇団のヒロイン役を多く演じる女性に惚れていたとかいうあたり予想通り過ぎて興ざめ。
だもんで、ラストのほうで主人公が泣いたりするところで、まったく同情心が湧かない。テメーの小汚い欲望で若い女に手を出しておいて、勝手に感傷に浸ってんじゃねーぞ、という。唯一複雑性があるのが主人公の妻なんだけど、この情けない男性を主人公にしてしまったせいで、殆ど掘り下げられていない感じで、ここへの感情移入も中途半端な。
総じて、出てくる人物が徹底したところまで行っていない、落ちていない、考え抜いていない気がするのです。
あ、あと若い女性への描写で「白く透き通るような肌」というような描写があったと記憶しているんだけど、そういうの、なんの躊躇も無く使うのも止めて欲しかったな。かっくりする。