2013-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『人間性の宝石 茂林健二郎』木下古栗

冒頭から無茶苦茶な理屈で自分をコントロールしようとする人物が出てくるのだが、木下氏、さいきんかなりマジな気がするのは私だけだろうか。それとも、最近やっとこさ晴れて国会議員のバッジをつけることが出来たれいの和民の創業者に関する木下氏の厳しい…

『あさぎり』上村渉

中盤は、気の置けない仲間に囲まれて弁当屋やって、中学生も更生できそうになって、みたいな心温まる雰囲気になりつつも、単純なハッピーエンドにはしていない。ものすごく強引だが、それはこの地の場がそうさせている、登場人物たちを虚無に追い込んでいる…

『俺の革命』墨谷渉

この作家は上記の日和聡子の比ではないこの人ならではの作風、世界をもってずーっとやってきていて、もうハズすことがない。にっちもさっちもいかない、あえてがんじがらめに不自由な状況に徹底的に自己を追い込むこと。人間性をなくした世界へ、あえて自ら…

『塵界雪達磨』日和聡子

群像のぶっとんだ作品に比べると大人しいが、ひとつの日和世界を築いてしまった感じだ。極端にいうと、スマホの地図アプリはどれが一番かを激論している日本昔話の登場人物たちみたいな。ただし、一見バカかこれ書いた人はと思わせつつ、一本、日和ならでは…

『目の中の水』瀬川深

殆どの小説家が直接描かないのに、このあからさまに震災関連な感じはなかなか勇気がいるだろうなあ、と思いそれは評価するものの、題材の表面的なこととは裏腹に読んで感じるものは少ない。 小説の小説的な部分、というか文芸的な部分、あるいは技巧といえば…

2013年1月号

読む前から与太と分かり切っている中沢新一の『赤から緑へ』に一切目を通すつもりもないのは当然として(ちなみに私は中沢新一とか内田樹みたいなのは新手の右翼だと密かに思っていて徐々にその相貌が明らかにあると予言しておく。けっきょく反TPPなんて…

『氷の像』澤西祐典

こういった評価はあまりしたことがないように思うが、この作品、丁寧に書かれ、しかも内容もよく練られていて、けっして素人が思いつきようもない、出来ない人には一生かかっても到達出来ないくらいのものであろう細部を含んでいて、それを十分に認めながら…

『埋み火』木村友祐

経営者的立場にある主人公が、同郷の知りあいと再会し、酒の席でその男の話を聞く。とくだんこれといった仕掛けもないようなリアリズム小説。敢えて言うなら、その男のリアルな訛り混じりの語り口が特徴か。こういうのは以前のこの作家の作品でもみられたよ…

連載終了『プロット・アゲインスト・アメリカ』フィイップ・ロス

翻訳ものの連載というのはあまり体験なかったが、この作品については大成功。すばる編集部に大感謝したい。 ナチスがヨーロッパで台頭してきたころの話だが、面白いのは、アメリカがナチスや日本の行うことにとことん妥協的な世界、ひとつの、まあなかっただ…

すばる文学賞受賞作『黄金の庭』

この世ならぬ妖怪的なというか霊的なというかそういう存在が出てきて、非リアリズム小説なのだが、その存在については、いかにも意味ありげだがたんに思わせぶりな存在という以上のものは全く感じず、私には、小説全体があまりに意味のないものなので意味あ…

すばる文学賞受賞作『狭小邸宅』新庄耕

選評をすこし目にしてから読んだので、不動産業界あるある的ものかと少し不安に思ったら(あまり興味がないので)、どちらかというと、営業社員あるあるな感じで、お調子者の社員、ダメダメな社員など、どこの業界でも見られる人々が出てくるが、なかでも出…

『統合前夜』三崎亜記

何一つ面白く思わないが、作者は少しも悪くはないだろう。編集側が悪い、だって、ジャンルが違うのだ。「小説すばる」向け。 数ページ読んだだけで会話を中心に文章が荒いなと思わせ、読む気を失ってくる。結果リアリティもなく、つまりは人でなくお話を書き…

『野良猫のニューヨーク』高橋三千綱

いちども読んだこと無いけどなんか懐かしい名前。で読んでみるが、私小説スタイルで老年に差し掛かった主人公が大金はたいて作った映画をなんとか軌道に乗せその大金を何とか回収しようと走りまわる話(だったような)。詳しいところは忘却の彼方だが、主人…

『空を仰いで、』こだま和文

震災が起きて以来、原発にたいするグチしか書かれなかったこのコーナー、よくここまで引っ張ったよなあ。 といいつつ、毎回ストレス発散的に内容をバカにして楽しみにしていたりしたのだが、書く方は明らかに辛そうなときがあった。あまり健全ではなく、止め…

『冬の旅』辻原登

序盤は話があっちいったりこっちいったりの印象だったが、筋を若い男性主人公に置いてからは、高い緊張感を保ち、今回はいったいどうなることやらと、「すばる」は連載を読むためにあるのだというくらいの楽しみをもたらしてくれた。中村文則あたりが犯罪を…

『顔』丹下健太

読んでとりたてて何かを言おうという気にはならない、シチュエーション・コメディもの。とくに厭な気になることなく読み進められたから、よく書けてはいるのだろう。ある日、ムケてぶっとかった筈の自分のちんがぽ包茎で勃起しても片手に隠れるくらい極小に…

『田園』広小路尚祈

それなりの作風をしっかり持ちつつ、コンスタントに作品発表しているのを、まずはすごいと思う。深刻と思える状況でもけして重さにはまり込まない人物たちを描いて来たのだが、そのこと自体この時代に対する作者の抵抗というかひとつの持つべきスタンスを表…

『文字の消息』澤西祐典

しかしよくここまで二番煎じめいたもの出してきたなあ、という印象。デビュー作も今作も、まったく非現実的な現象を小説的リアリズムのなかに無理なく回収していてクオリティは高く、それぞれがもし単独で出されれば素直に評価するのだが・・・・・・。いやそりゃ…

『教団X』中村文則

連載スタートはすごい冷めた批評的なところで宗教をとらえていて、ほんの少しだけ期待したが、2回目からはやっぱりという感じでテンションが続いていない。というか、もっと面白く、とか端っから期待していないんで内容は別にいいんだ。ただ、せめて何が書…

『来星』原田ひ香

今まで散々悪口を書いてきた分フォローするわけでは決してない。しかし、なんか時代と添い寝したかのようなキャッチーなテーマを持ちだして、話題になることを狙って書いたかのような作品に比べれば、この作品はずっとずっと良いと思う。まだ少し既存の小説…

『ハリーの災難』松本圭二

この作家面白い作品もあったんだけど、どうも「すばる」掲載作は一段落ちるかなあ。このプライド男のナルシスティックな感じが、こんな時代にこんなクソみたいなプライドなんか持ってるなんてあほかみたいな、たんに自虐というかギャグであればいいんだけど…

『にゃあじゃわかんない』藤野可織

あきらかに猫のようなのにいかにも人間の姿形をしているかのように描写したりして、あいかわらず普通のリアリズム小説は書くつもりはないようで。クマだか人だか分からないふうに描いた多和田葉子の小説を読後に思い浮かべたりもしたが、似たところは全くな…

『渦巻』橋本治

もはや確立されたといってもいいスタイルで描く橋本治のこの手の小説は、近過去歴史小説のようでもあり、高度成長期を頂点として完成された近代というもののひとつの貴重な証言記録だろう。なにしろこれからは食糧問題、エネルギー問題、経済成長がこれ以上…

『いない』太田靖久

とにかく文学的なものを書きたいんだ、という熱意だけは感じるものの、どこか無自覚なマッチョ臭がして読めない。しかし早くも別紙登場となるが、新潮っていきなり持ち込みの人の衝撃デヴューとかやるけど、新人賞受賞者はあんま育てるイメージなくてなんか…

『東京五輪』松波太郎

いま発表されれば最高のタイミングなんだろうけれどな。たんに題名的には。 現代の主婦が主人公となっているが、その主婦がある日知ってしまった逸話の主人公である、マラソンランナーの円谷幸吉が隠れた主人公とも言え、いきなり頂点にたってしまい下るしか…

『電気作家(後編)』荻野アンナ

主な事は前篇のときに書いた。この作品読むまでは、容姿端麗だけども自分にはあまり関係のない作家と思っていたが、改めるきっかけとなった。というか、それだけでなく、大江健三郎筆頭に、村上春樹みたいなどうでもよいものも含めて、「良心的な」文芸界隈…

『すばる』2012.5〜2013.3まとめて

かれこれ何年も(相手がいる)性行為していないのですが、最近股間が痒いです。 原発事故など無かったかのようなクソ安倍のスピーチで東京開催が決まってしまいましたが、さいきん、反原発活動のことも滅多に新聞に乗らなくなり、数年前にくらべ無かったかの…