『冬の旅』辻原登

序盤は話があっちいったりこっちいったりの印象だったが、筋を若い男性主人公に置いてからは、高い緊張感を保ち、今回はいったいどうなることやらと、「すばる」は連載を読むためにあるのだというくらいの楽しみをもたらしてくれた。中村文則あたりが犯罪を分かってあげようみたいに不遜に寄り添って書いて挙句リアリティをまったく失っているのにくらべると、ここには雲泥といっていい差がある。内省の段階しか描けないのであれば、けっきょく犯罪など小説のネタでしかないのだ。辻原は、こうすることもああすることもできたはずで、じっさい振り返ると契機はいくらでも転がっているようにみえて、しかしやっぱりこうなるしかなかったひとりの犯罪者を描いているが、そこで照らされているのは、犯罪者ではないわれわれの人生もそうなのではないか、ということだ。