面白い!!

『俺の革命』墨谷渉

この作家は上記の日和聡子の比ではないこの人ならではの作風、世界をもってずーっとやってきていて、もうハズすことがない。にっちもさっちもいかない、あえてがんじがらめに不自由な状況に徹底的に自己を追い込むこと。人間性をなくした世界へ、あえて自ら…

連載終了『プロット・アゲインスト・アメリカ』フィイップ・ロス

翻訳ものの連載というのはあまり体験なかったが、この作品については大成功。すばる編集部に大感謝したい。 ナチスがヨーロッパで台頭してきたころの話だが、面白いのは、アメリカがナチスや日本の行うことにとことん妥協的な世界、ひとつの、まあなかっただ…

『冬の旅』辻原登

序盤は話があっちいったりこっちいったりの印象だったが、筋を若い男性主人公に置いてからは、高い緊張感を保ち、今回はいったいどうなることやらと、「すばる」は連載を読むためにあるのだというくらいの楽しみをもたらしてくれた。中村文則あたりが犯罪を…

『電気作家(後編)』荻野アンナ

主な事は前篇のときに書いた。この作品読むまでは、容姿端麗だけども自分にはあまり関係のない作家と思っていたが、改めるきっかけとなった。というか、それだけでなく、大江健三郎筆頭に、村上春樹みたいなどうでもよいものも含めて、「良心的な」文芸界隈…

『御命授天纏佐左目谷行』日和聡子

題名からして漢字の多そうな、読みにくそうなイメージなんだが全くそんなことは無く。舞台とか登場人物はいかにも民話の世界というか和の感じなんだが、ところどころに現代風の言い回しが混在してきて、最初は苦笑させられる程度だったんだが、そのうちこれ…

『三姉妹』福永信

この作家、どちらかというと文「芸」の人と思っていて、内容どうこうというか、訴えたいこととかそういうのよりも、読む・書くこと自体へのテクニカルな楽しみがこれまでの作品では追求されていて、そういう指向のひとには多分評価は高いのだろうけれども、…

『ディスカス忌』小山田浩子

下半期の新潮掲載作ナンバーワン作品。つーか、他の文芸誌含めても一番記憶に残っているかも。短編ということなら、下半期も今年もなく相当上位にくる作品。と、これだけではまだ言い足りないなあ。短編で、これだけ豊かな内容を持ったものに今までの人生で…

『人生ゲーム』綿矢りさ

同級生3人が子供の頃に遊んだ人生ゲームの悪い目の結果が大人になってことごとく実現してしまう。で、その人生ゲームに手を加えた人物がいたことを思い出し、彼の消息を知ろうとする・・・・・・。といったあからさまに作り話的な非リアリズム小説なんだが、感動…

『美味しいシャワーヘッド』舞城王太郎

こないだの芥川賞はけっこう可能性ありと踏んでいたのに、けっこう早々と脱落状態で、たぶん選考委員のみんな受け止め方が分からないんじゃないかと思ってるのだが、どうなんだろう。もしかしたら、書かれている出来事や思弁の意味内容にばかり比重がいって…

『もし、世界がうすいピンクいろだったら』墨谷渉

力作だなあ。ついにここまで来てしまったか。ただのマゾ男、あるいは数値こだわり男を書くだけの作家とか思っていた私はなんと見る目がないのだろう。今作であきらかに一段一つうえのレベルに到達してしまった。 物語は中堅機械メーカーの中間管理職の男なの…

『電気作家(前編)』荻野アンナ

前編で感想書くのはあれだが、後編についていつ書けるか分からんので、というか前編ですでに傑作なので書かざるをえない。くしくも笙野頼子と前後することになったが、同じように通例より大分ヒネった私小説ともいえる両作品をくらべ、言語力というか訳の分…

『強震モニタ走馬燈・葬式とオーロラ(短篇二作)』絲山秋子

強震モニタ走馬燈・・・震災と前後して離婚した女性とその幼馴染のはなし。その離婚した女性は、何かが壊れてしまったかのように「強震モニタ」という日本列島の揺れをリアルタイムに色で表示するサイトばかり見ている。で、いつかまた同じことが、あるいは…

『アメリカ』磯崎憲一郎

アメリカということで、前半は仕事でアメリカへいったときのことを中心として語られて、これまでの磯崎作品の延長というか、これだけでも面白いのだが(とくに裏通りで男に腕をつかまれたときのその力の描写とか)、後半の、ベンチャービジネスがもてはやさ…

『十三月怪談』川上未映子

まごうことなき傑作。単行本未収録だとしたらこの号の新潮は宝だな。 最愛の人を亡くした人のその後を描いた作品。妻を病気で亡くした夫は、これ以上ないくらい悲しむのだが、どうしたってその悲しみというのは薄れるものであって(でなければ人は生きられな…

『ごく単純なこと一点だけ』山城むつみ

吉本隆明の追悼文なのだが、すごく研ぎ澄まされた文章に痺れる。ラストの数行がとくにすごい。前に載っているほかの論者のことを思いっきり否定しているのが更にいい。私は三浦雅士の文章を久々読んで、この人の文章ほんと嫌いだ、と気づかされた。 ただし、…

『ひらいて』綿矢りさ

どっかの写真家の写真が載ったり、ヒップホップ云々の連載がいつまでも終わらなかったり、連載も先細り感があって、「新潮」は、こりゃもう買わないかなと思い始めてから、柴崎友香の、それまでの作風を更改するような大作が載ったりして、そしてこの作品で…

『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』木下古栗

この作家については誉めに誉めまくってきたので、いまさら何の新鮮味もなく思われるかもしれないが、今作はこれまた掛け値なしの傑作で、こんな事冗談で言っていると思われるかもしれないが、木下古栗のためではなく芥川賞自体のために、芥川賞授与を検討し…

『クエーサーと13番目の柱』阿部和重

こんかいで最終回。おなじく「群像」連載だった『ピストルズ』が、面白かったものの今ひとつ乗れない気分も残ったものだった私にとって今作は、隅から隅まで面白かったといってもいい。 阿部らしい虚無的な主人公が多数出てきて、あるアイドルグループの活動…

『春寒』馳平啓樹

ついこの間新人賞受賞したひとで短期間でこれだけの作品を書けたのならすごいなあ、と思う。というか、新人賞受賞作よりぜんぜんこちらのほうが主人公の体温というか息遣いが伝わってきて、良いんだが。作者にとってより近い、不可分といってもいいくらい近…

『すみれ』青山七恵

愛称が「レミ」という女性がでてきて、題名が「すみれ」というわけで、最初から少しバレつつ話はすすむ。このレミという女性は世間から少しずれていて、小説とか書く方面に人一倍関心があって、当然そういうのを目指したりするんだけれども叶えられなくて、…

『フラミンゴの村』澤西祐典

この小説には主に描かれる人物とはべつに俯瞰的な語り手がいて、「わたしが読者諸君にこれから披露する話は〜」みたいに入っていくのだが、なんかいかにも19世紀、20世紀初頭の近代小説臭がするものの、非常にそつがなく読みやすく、それはよかったのだ…

『わたしがいなかった街で』柴崎友香

もう買わないかもとさいきん書いた新潮だが、こういう小説が掲載されたりするから油断ならない。 すごくおおざっぱにいえば、中年にさしかかった独身女性の日常を描いたものといえるのだが、それにしても、この作家の全作品をチェックしているわけではないの…

『地上生活者 第五部 邂逅と思索』李恢成

祝再開!

『短篇五芒星』舞城王太郎

いつも虚栄心に負けることなく分からないものは分からないと正直に書いているつもりだが、今回は増して正直に書く。 この5編、どれもがレベル高く素晴らしく面白いのに、その面白さを説明的にうまく言い表す言葉が浮かばない。たとえば、前述の本谷短編なん…

『恋愛雑用論』絲山秋子

私にとって商品価値があるのは、このページだけといっても過言ではない。 この小説のなかに「どこに、ひとがふつうに生きていくことについて正しく話せるひとがいるというのか」というくだりがあるが、私の理解ではこの作家ほど、話せているかどうかはともか…

『松ノ枝の記』円城塔

これは今まで読んだなかで出色で、芥川賞受賞作よりぜんぜん素晴らしいではないか!(という「全然」の使い方はおかしいんだっけ?) 以前、円城氏の作品に関して、大きいスケールのような事柄を書きながらむしろ現代に縛られていて広がりを感じないとか非難…

『K』三木卓

文芸誌に書いていない人はどんなに高名な人であろうと読んでいないので、この作家も殆ど初めて読む。やたらと平明な文章からはじまるのでややとまどったが、ほとんど一気に読み、非常に感銘を受ける。 実在の人も実名で出てきて、私小説どころか、殆どノンフ…

『クエーサーと13番目の柱』阿部和重

超ハイテクを駆使し、チームを作ってアイドルの追っかけをする人たちの話。自分たちがアイドルに興味があるわけではなくて、スポンサーがいるのだが、ただの超大金持ちの個人であって、パパラッチのようにメディアが裏にいるわけでもない。というか、こうい…

『燃焼のための習作』堀江敏幸

新年号というと、なんか目玉をぶち上げたり、高名な作家さんたちの短編集めて一見華やかにしたりするのが文芸誌の通例のような気がしていたが、今年の群像は堀江氏の読みきりか、ちょっと地味かもと思っていたら、すごく読み応えがあって良い意味で裏切られ…

『やさしナリン』舞城王太郎

冒頭、唯名論を思わせる記述が出てきてついて行けるかとややあせらされるが、やがていつもの舞城的世界に突入してひとあんしん。 むかし私もふと思ったが、たとえば「ストレス」ということば、について。こんな言葉は近年になって一般化したものであって、そ…