2010-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『秋田さんの卵』伊藤たかみ

数少ない私が読んだ伊藤たかみの書いたもののなかで、いちばん人物が生き生きしているのだけれど、それはきっと伊藤たかみが、前々から私が薄々感じているホモソーシャルな心性と近いものを持っているから?なんだろうか。などと考えてみたがはてさて? とい…

『割と暗い絵』佐藤友哉

今の出版業界の危機的状況における心情を赤裸々に書いた部分に関しては、面白くも、なんか一度読まされたよな、もうこういう自分語りはいらないから、みんながあんたのファンというわけじゃないし、ちょっと真剣すぎてキモいし、と思ったものの、野間宏とサ…

『ジュ・トゥ・ヴ』三輪太郎

危篤状態にある父の心拍数の乱れを罫線にしてしまうというバカらしい行為が行われているのがまず良い。 敬語で誰かに話しかけるような語り口のもと物語は進むんだけど、この語り口が良いのだ。このせいで、冷静にみればバカらしい事の、そのバカらしさを見え…

『深海』丸岡大介

阿部和重を余り知らない私は、今作を読んでも、ついこのユーモアに青木淳悟を思い浮かべてしまう。前半で丹念にそれがテーマでもあるかのように、倦怠な中年夫婦が旅行したときの、しっくり行かないというか仲の悪い様を描きつつ、一転視点を変え、その夫婦…

『テキサスの風』羽田圭介

お馬鹿な人達をなるべくお馬鹿に描くみたいな感じだが、途中まではコーヒーショップの裏側を風刺劇として描く面白さを感じたものの、後半はただのドタバタという印象。

『きずな』墨谷渉

とくに理由もなく突然会社を辞めて妻を困らせてしまう男の話。理由がないということ。つまり例によって自虐的に自分を追い詰めたがいため、会社を辞めるのはただそれだけの為のように思える。 またまたこれはどこへ行くのやらと思って読んでいると、今作はな…

『プチ家出』喜多ふあり

もう一度群像引っ張り出すまで全く内容忘れてる。 で、思い出してみたのだが、ああこういうオチだったっけと思い出し、で結局それしかないんだよね。文章になにか工夫があるわけでもないし。人間の女性として描かざるを得ない部分が、却って汚いシーンも大人…

『ぐらぐら一二』戌井昭人

ただの凡庸な近代小説みたいになってしまっている。ひとり淋しく温泉街をいく私みたいな。で、「地球ってのはもうちょっといい加減じゃない」みたいな、どうでも良い、少しもおかしさを感じない共感を求めるあたりが、前田司郎ぽくもなっていて、なんか非常…

『捨鉢観覧席』天埜裕文

イノセントな女性と、それに圧倒的な無関心で答える男性を描く部分に関しては、それほど心に残らなかったものの、自殺の名所でのゴタゴタが妙に心に残る。とくにそれを撮影する映画隊が出てくるのが面白い。この人は、残念ながらも世に悪意というものは確か…

『家路』朝吹真理子

早速朝吹真理子に書かせてしまうとは、さすが群像。しかしこの小説の冒頭を読んでいると、磯崎憲一郎を思い出してしまうなあ。固有名詞の欠き方とか、おそろしく長い時間軸で自我を解体させてしまう感じとか。でもけっして悪い意味ではないし、模倣という気…

『群像』 2010.4 読切作品ほか

さてゴールデンウィークはなかなか良い天気に恵まれそうですが、スーパー行くにも渋滞というのは勘弁だわと思う反面、消費が少しでも上向くのは良いことだから歓迎せねばなあ、と公私の判断が分裂しています。 久しぶりに本屋にいって驚いたのですが、パソコ…

連載完結『心はあなたのもとに』村上龍

連載の途中で、あまりのぐずつきに一度突っ込んだことがあったけど、リアリズム的側面をあまり重視せず、この小説を、恋愛がテーマと見せかけながら、じつは日本や世界がおかれた政治経済的な状況をヴィヴィッドに語る事に目的があるのだとドライに捉えると…

『苔やはらかに。』伊藤香織

中年にさしかかる女性が、都会から田舎に落ちてきて人生を考え直す話だけど、へんに背伸びせずに、書けるところまで書いたという感じがしてなかなか潔い。 ただ難しいのは、誰も彼もが小説を書くなかで、内容的にはそれだけでは凡庸になってしまう危険がある…

『スズメバチの戦闘機』青来有一

歴史書を読みこなすような聡明な小学生が、スズメバチを戦闘機と幻視してしまう話なのだが、こういういかにも文学的な、幻視してしまう語りを、小学生に用いるのがピンと来ない。ゆえに書かれている事にたいして、量が無駄に多く感じる。 そして、やはり描か…

『代理母豚』田山朔美

うーむ。正直期待はずれだ。この低評価が、期待していた分の負の感情から来ているのだとすれば、すくなくとも期待していたことをもって作者には許して欲しいと思うのだが。 やりすぎ、なのです。なんでこんな不幸のオンパレードにしてしまったのか。どこを読…

『うちに帰ろう』広小路尚祈

主夫もの。ただし背景には、昨今の失業問題が影を落としていて、ジョンレノンが育児をしているころの、ひとつの選択肢としての主夫というのとは違う。かつて主夫というとき、そこにはもともと男女のあり方を疑うラジカリズムがあったのだが、今思うと、なん…

『文學界』 2010.4 読切作品ほか

さいきん『文藝』を余りチェックしていないなあと思い、図書館に行ってみたら、過去分まるまる一年貸し出し済みで、誰かゴールデンウィークに読もうという算段でしょうか。 それならと思い、小熊英二の話題の本を一応チェックしてみましたが、やっぱり半年は…

『批評と殺生』大澤信亮

途中に挟み込まれる近世に布教に来た人がでてくる物語みたいなものと、全体の、ラストなんかはとくにそうなんだけど修辞の美文調に萎えた気持ちになる。内容が観念的で、成否というより説得力の有無が問題になるような内容だっただけに、こういう文章になっ…

『ふける』藤谷治

妻も仕事もちゃんとある、つまり地位がきちんとある男性が、ある日なんの前触れもなく都内から地方都市へと「ふける」話。 まず言っておきたいのは、これだけの話をここまで膨らませる事ができるのは相当な技術が必要だろうと言うことで、それだけでこの作家…

『リア家の人々』橋本治

ほぼ一気読み。読んだ感触は直近の2作、『橋』や『巡礼』と全く変わらないと言ってもよいくらい。つまり面白さはまず保証されている。極端なはなし、1ページ読んだだけで、ああこれも傑作だろうな、と思う。 スタイルも変わらず、つまり昭和叙事詩みたいな…

『新潮』 2010.4 読切作品ほか

さてさて民主党もいよいよ瀬戸際になってまいりました。参院選では複数候補を立てる所もあるらしいですけど、このまま行けば間違いなく共倒れでしょう。過半数どころか第一党の地位すら危うかったりして。 政治とカネに関しては私は寛容なのですが、基地問題…

『ニコニコ時給800円 パチンコ屋篇』海猫沢めろん

そこそこ面白かったので甘く評価したが、ここから面白くなりそうな所で終わってしまった感じ。経営者が色々外部との軋轢で苦労が始まりそうなところで。たとえば、「顧問」と、いったいどう対決するか、とか。 それに全体として、アパレル篇の方が訳分からな…

『百年の献立』松本薫

専業主婦の話なのだが、地方では母子家庭でワーキングプアな家庭があったりするなか、恵まれた身分のくせに、たかが自分が家事マシーンになってしまってるくらいで悩むなーなどと言ってはイケナイ。絶対にいけない。誰だって悩みは主観的には大きいものだし…

『冬の鞄』安達千夏

ふだんその小説が書かれる必然性みたいなことはあまり気にしないようにしているつもりだし、最近は、その作家ならではというものが出ていれば、多少の事は許してしまうような甘さも出てきているくらいに思っているんだけど、こういう小説に出会うとちょっと…

『その暁のぬるさ』鹿島田真希

これまた鹿島田らしい小説で、分かりやすい「物語」を拒否した、純文学らしいといえば純文学らしいもの。ただし純文学らしいとはいえ、鹿島田のような作風は他にはあまりない。 いかにも小説的な常套的な言い方を避け、なるべく簡潔な言葉を使って表現し、そ…

『すばる』 2010.4 読切作品

群像買ったのですが、高橋源一郎だけでなく、侃々諤々までツイッターですか。 パソコンが常時接続でなく、ケータイもmixiに入会できないような古い奴を使っている人は蚊帳の外ですね。ええ、私はミクシィにも未だ入ってません。招待されなくても入れるらしい…

『わたしの彼氏』青山七恵

最近頭が爆発しそうになるくらい面白いのがこの連載。『地上生活者』につぐ大きな楽しみとなってしまったが、原因は予想もつかぬこの展開の内容と速さ! まさかこんな事になるとは。しかし最後になって「私自伝なんかやめて小説書くわ!」と姉が言うのだが、…

『歌うクジラ』村上龍

最初の頃は休載もあり、読んでいて少し退屈だったこの作品だが、中盤以降は、社会とは何か人間とは何かを考えさせるような事象が次々登場し、中々面白かった。村上龍は経済関係の著作とかも出したり、TVにも出ていたりするが、問題意識が普通の作家とは全…

『灯』岡田睦

この人のは作風変わるような事もまず無く、妄想なのか現実なのか良く第三者には分からないが、入所させられている所の悲惨さと置かれた状況の救いがたさの割には、主人公がユーモアを全く失っていないところがいい。 感想は一番短くなってしまったが、木村作…

『昼田とハッコウ』山崎ナオコーラ

幼いときから一緒に育ったイトコ同士の男性の話らしい。山崎ナオコーラが男性主人公ということで不安もなきにしもあらずだが、いぜん中年男性を描いたときにくらべれば違和感はない。きっと若い世代では意識のうえでも性差というのは縮まってきているのも、…