2008-01-01から1年間の記事一覧

『批評の肉体性を聴く』茂木健一郎+白洲信哉

小林秀雄は深い、よく分かってる、という事がひたすら繰り返されるだけ。とくに茂木氏などはもはや信仰告白であって批評意識がまず感じられない。(残りは、ファンでもなければ興味の沸かない私生活における四方山話。) たとえば音楽に関する批評などはなか…

『バイリンガリズム、エクリチュール、自己翻訳――その困難と喜び』ナンシー・ヒューストン

これはやたら感銘を受けた。とくに、文学、というか小説を書くことの目的−世界を大きくする−を明確に力強く述べたところ、そしてそれゆえに文学の多様性の擁護するところに。 また、著者が英語で作品を書いて、それを自分でフランス語に翻訳する作業を強いら…

『麝香猫』遠藤徹

これまた非リアリズム系。この手のものは私の嗜好性には合わないながらも、なんとか読めたのは山崎作品といっしょで描写がしつこくないからなのかもしれない。ただし描かれる内容自体は山崎作品と違って現実から更に遠く、遠いがゆえにこの描写ではやや迫力…

『邂逅』山崎ナオコーラ

私がはじめて読む山崎ナオコーラの非リアリズム小説。非リアリズムとはいえ、極度に現実を離れているわけではなく、いってみればわれわれが普段見る夢をそのまま作品にした、といったら近いだろうか。だから、読んで暫くはいつものリアリズムかと思って読ん…

『あれが久米大通りか』大城立裕

まず主人公を金貸しにしたところが面白い。金貸しといえば、どちらかといえば蔑まれる職業だからである。むろんそういう人物にもわれわれと変わらない日常の顔がある。 そして、いかに日常が急激に短期間で変化してしまったかというのがテーマでもあるので、…

『庭の経験』マリーナ・ヴィシネヴェツカヤ

最初に新興ロシア人云々出てくるので、昨今のロシアならではの話が読めるのかと思いきや、テーマとなっている自然の妙にしても幼子の無邪気さにしても普遍的なものであって、たしかに丁寧に描かれている小説だし、ラストシーンもなかなか良かったが、とくに…

『光の沼』稲葉真弓

都会に住む人間ならではのイナカ礼賛が満載された小説。植物だの小動物だの景色だのと。 ポイントはあくまで都会人から見たというところにあって、決してイナカに定住するような人の視点ではないということ。二箇所に住むことのできるようなごく限られた恵ま…

『青瓢箪』宮崎誉子

結論からいえばいつもの宮崎作品。 誰も言わないが、いや言ってるかもしれないが私は未見なのだけど、この作家は、大江賞を受けた某作家などよりもずっと革新的なことをやろうとしているのだ、と思う。この時代を描く上でふさわしい新しいスタイルを確立しよ…

『すっとこどっこいしょ』舞城王太郎

例によって、とくに深い意味を読み込もうとせずに読む。 こないだの秋葉原の大量殺人と『イキルキス』を関連つけるようなそういうものは書きたくないのだ。 中学三年生男子。進路問題がテーマとして底流にあり、これからの人生をどう選択しようかという大き…

『新潮』 2008.12 読切作品ほか

世の中には、いわゆるギャンブラーというか、物事がどちらに転ぶかに関して嗅覚が特異的に鋭い人々がいるように思います。 博才(バクサイ)があるというより少し広い意味で、勝負勘に優れた人たちが。 大手商社の研究所の人とかいわゆるアナリストとかが、…

『ドンナ・マサヨの悪魔』村田喜代子

惰性だけで読んできたが、あっけない終わり方。子供を生むことのなくなった女性のアイデンティティというモチーフがやっと最後になってやや感じられ、オバサンの役割が人類にとって重要説なども少し面白かったが、頭のなかで聞こえてくる悪魔の話が面白かっ…

『震える刺青』海猫沢めろん

今日書いた3作品の中ではいちばん楽しめたが、この作品私にとっては、星野智幸の分類でいうなら、「読み物」だな、と思う。ドヤ街や安売春宿の世界を描いていながら、あまり批評性を感じないのだ。いや、これはこれで基本的には良いのかもしれない。生半可…

『潰玉』墨谷渉

このひとのモチーフの継続は、山崎ナオコーラ以上に徹底している。すばる文学賞で読んだ作品のそれ−大柄の女性に責められる男性−と少しもぶれていない。若い不良女性の会話とかなかなかリアルだし、担保となった不動産の処分の話とかで専門的な用語もいろい…

『手』山崎ナオコーラ

父親への否定感情からかどうか、老年男性とばかり付き合う若い女性の醒めた男性観を綴った話。おじさんの写真ばかり集めたHPまでこさえる。 と書くとエキセントリックな主人公かと思ってしまうが、それは個性という範囲内に収まるもので、山崎ナオコーラの…

『文學界』 2008.12 読切作品など

ちょっと前のケニアでの暴動のドキュメンタリーをTVで見たのですが、私が興味深いなあと思ったのは、騒動の発端が総選挙であるということ。対立を数の勝敗によって止揚するはずの選挙が、かえって対立を顕在化させ意識させているということです。 それまで…

『廃車』松波太郎

残酷だが、上記作品を読んだあとでは、あるいはそうでなくとも、典型的なフリーター小説としか思えない部分がある。木造アパート、コンビニ、そして緩やかな同棲、の世界である。しかし他には見られない個性が全く感じられないわけでもなく、作者は失敗作か…

『射手座』上村渉

今年後半発表された新人賞(と名のつかないすばる文藝ふくめて)の中で最優秀作はこれだろう。ただ全体に低調気味だったので(とくにS潮とG群)、大絶賛とまでは行かない。行かないがしかし、この作品だけが、終わりまで一気に読むことが出来た。夜中に読…

『文學界』 2008.12 新人賞2作品

共学の中レベルの公立の普通高校を卒業した私ですが、この間気付いたのは、同学年の女子生徒の苗字ひとつも覚えてません。殆ど口を利いた覚えがないので仕方ありません。一人だけ、茶髪で滅多に学校に来ない女子生徒と何かのきっかけで口を利いた覚えがある…

『ワンス・アポン・ア・タイム』青木淳悟

何作目か正確にはわからないが、もはや青木の主体拡散シリーズとでもいうべき小説。今回のネタはなんと新聞の縮小版で10年前の日本を振り返る。縮小版に載ってる内容からストーリーを組み立てるわけではなくて、あくまで縮小版を見た感想みたいなものであ…

『ガルラレーシブへ』谷崎由衣

やっぱこの人はうまい。相変わらず情景の喚起力があり、またその情景そのものも魅力的なのである。以前からそれは認めざるを得なかったのだけど、内容そのものがいかにも純文学的なアンリアルワールドで、積極的に読もうという気にさせる作家ではなかった。 …

『群像』 2008.12 読切作品つづき

溝にはまってるクルマを見かけたのでバイクを止めて、運転者がアクセルふかしている間後ろから押していたのですが、うまいこと道路に戻ったらそのまま運転して行ってしまいました。 まあ、ハザードと窓から後ろ向きにお礼されたのですが、少し複雑な思い。で…

『あとのこと』中山智幸

この作家の過去例から考えて予想外に凝った構成の作品。 作中人物が書いた事をそのまま作品にしているかのような構成で、小説内小説いわゆるメタ小説の一種だろうか。佐川光晴のときと一緒で群像の翌月の鼎談ではまた皆そんな所ばかり目がいっているが、しょ…

『台所組』清水博子

作者の分身であるかのようなデヴューしてしばらく経った新人小説家と、そのパーティで知り合った仲間たちの生活を描いたもの。時は流れはするが単に日常として流れるだけで、とくにストーリーがあるわけではない。そういう意味では純文学らしいのだが、ちょ…

『群像』 2008.12 読切作品

毎年、本日12月8日がくると真っ先に思い出すのは、あのハワイでの出来事ではなく、歴史上もっとも有名なポップミュージックアーティストがアメリカ北東部の有名都市の自宅前で射殺された事です。 ちなみに私がそれを知ったのは、夜9時のNHKニュースで風…

『赤い傘』花巻かおり

ラブコメという懐かしい言葉を思い浮かべてしまうような平板な家族の描写を主として、欠点は多数あるだろうが、私が思う大きな欠点はふたつ。 せっかく題名にまでした赤=抵抗というテーマがどこかへ飛んでしまっている事。主人公は日々にしっかり埋没して上…

『灰色猫のフィルム』天埜裕文

猫が登場しそうな題名・・・猫が出てくる小説は、ある小説家を思い出す事もあるし、あまり良いものに出会った覚えもなく、読む前は不安が大きかったのだが、しっかり裏切ってくれた。なかなか力作。 描写に全く無駄がないとまでは言わないが、短いセンテンス中…

すばる文学賞 2編

最近不況をめぐっての暗い気持ちにさせるニュースばかりの中で、同じく不況を原因としていながら痛快だったニュースといえば、ホンダF1撤退です。 といっても別にホンダというメーカーになんの含みもありません。いやむしろオートバイ4メーカー全て乗った…

『柄谷行人論』大澤伸亮

新潮の評論は面白くない事度々で、あまり期待しないで読んだが、これはかなり秀作。あ、新潮の評論面白くない言ったけど、正面からの文芸評論があまり各誌載らないので、新潮のこういう試み自体は悪くないと思います。 でこれは、もう半ば終わった人とさいき…

『母性のディストピア』宇野常寛

ちゃんと読んでない(し読む気もしない)ので評価不能。だってのっけから読む気無くさせるんだもん。何だろうこの生硬さ、そして空回り、みたいな。 いわく、「についてもう一度考えてみようと思う。という言葉が嫌ならばでも構わない。」あたりで、なんで「…

『新潮』 2008.11 評論2編

平野啓一郎も高村薫もいなくなり『新潮』に魅力を感じなくなってきてたので、他の連載ってどんなだっけと昔の号を読み返していたのですが、松浦寿輝とか佐藤優とかそれなりに面白い面はあるものの、これを目当てにカネを払うもんでもないなあ、というのが正…