『台所組』清水博子

作者の分身であるかのようなデヴューしてしばらく経った新人小説家と、そのパーティで知り合った仲間たちの生活を描いたもの。時は流れはするが単に日常として流れるだけで、とくにストーリーがあるわけではない。そういう意味では純文学らしいのだが、ちょっと前なら私はこれを[オモロない]にしてしまってたかもしれない。とくにその仲間たちの職業がそれぞれ芸術に関わっていたりすると尚更、そのスノッブな臭いに嫌気がさしていたかもしれないし、今だってまあ、好きではない。ここにでてくるような人物(レベル的にはちょっと下に位置するが)と、過去に出会った事がないわけではないが、彼らと付き合おうという気はサラサラなかった。
しかし、そういう雰囲気を今の世の中が受け入れられなくなってきている気配があることは確かで、この作品は作者のそれに対する抵抗として書かれている面があるのではないか。そういう反骨的なところが随所に見られ、この女小説家の言葉に気取った所は多々あるのだが、私はこの作品嫌いにはなれない。とくに小説が売れることを求められる話の中で小説業界でロウワークラスを支持してるフリが喜ばれるのに毒づいたあたりは、この作品でいちばん面白かったところ。その他、知ってないと面白さが伝わらないような固有名詞がけっこう出てくるのだが、それらを知っていれば楽しめる程度には十分文章・会話は洗練されている。私はよく知らない単語もあったのだが。
保守的な読み手の私はどうしてもストーカー事件のほうに広がりを求めてしまう所があって(あそこにこそ異物の臭いがあるわけで)、最終的にはそこが残念。