2011-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『オフ・オフ・オフ』中島さなえ

話を作ろうと「試みようとするところ」のみしか、評価できる点がない。結果、できた話はいかにも作り話で、しかも単純に教訓的すぎて。これなら話なんかなくても良くて、前の会社をやめることになった顛末や、新聞配達の仕事をもっともっと詳しく書くだけで…

『星になる』山下澄人

勝手に悩んでればー?っていうくらい独我的で退屈な内省がくりひろげられる。自分と会話するだけでなくたとえばタクシー運転手と会話してもそこから何も派生しない。独我であって、運転手は手段でありモノでしかないから。空想の父親や母親のまえに目のまえ…

『おにいさんがこわい』松田青子

幼稚園くらいの児童が、児童番組にでてくる「おにいさん」を、なぜ兄弟でもないのにおにいさんなのか、とかそんなことをいって怖がる話なのだが、何が面白いのかさっぱりわからない。 きっと作者は面白みを感じていて、その感覚が私とはだいぶ遠いというだけ…

『ばばぬき』佐藤良成

なんかすごく惜しい小説。上記の作品のような凡庸な内省しかないのなら、話で何とかするしかない。そういういみで読者をひっぱろうとする内容になっていることは積極的に評価したいのだが。 なぜ主人公が霊的現象を恐れるようになったのか、という肝心なとこ…

『ぼくは発音がしたい』今橋愛

題名と異なって女性の内省から成り立っている。その内容は凡庸で、語り口が工夫されていなかったら、最後まで読むのが辛かったかもしれないし、最後になって改心しそうになる気持ちとなるのがどういうきっかけなのか分かり辛い。 それに離婚して何もしていな…

『水を預かる』淺川継太

抜群に面白い。出色の出来で、短編「競」作とうたっているわけだからそれに乗っていえば栄えある一等賞はこの作品だ。真に豊かな発想を持っている人は、話作りに文体に頼らなくても面白いものが書けるのだ。 何しろ本当に何もないに等しいのだ。ただ単に同じ…

『うわ言』飛鳥井千砂

こんかいの新鋭短編集のなかで、よく書けているかどうかは別として好きな作品といえばまずこれかな。短文で余計な修飾語を省いた抑制された文章に、落ち着かされ、読んでいて心地よかった。でもたぶんこの心地は、上の作品の次に読んだからなのかもしれない…

『「ふたつの入り口」が与えられたとせよ』古谷利裕

「あなた」から始められた叙述が、途中から「わたし」の話にもなっていくという予想されたとおりクセのある小説。読者は最小限とも思える情報を手がかりに、この建物はなんなのか、とか「わたし」って何とか、ときには前後の叙述を比較したりしながら想像力…

『名の前の時間』丹下健太

幼い娘がなかなかつけられないペットの名前の話から、父親母親の名前をめぐるやりとりになり、そのやりとりのスケッチのなかで微妙な家族の関係をあぶり出す、といった趣向。 父親のノートなるものをみて、これだけの感慨しか思い浮かばない人間もたしかに大…

『私は風習のペット』シリン・ネザマフィ

基本コンセプトはOLに自分使うような言葉で自分語りをさせてみる、といったところ。一貫性はあって最後までよく書けているとは思う。ただ、結果としてこういう言葉を使ったせいで、ちょっと頭の足りないOLふうになってしまったけれど、口に出す言葉と裏…

『鬼の頭』前川知大

日常のなかに非リアリズムな隙間を垣間見せるタイプの純文学の王道的作品。別の言葉でいえばありがちということにもなるが、こういうものは隅から隅まで丁寧に書かないと、非リアリズムの、(小説的)リアリティも崩れてしまうので、ハードルはありがちな割…

『本屋大将』木下古栗

終盤になって主人公が製薬会社に勤めているところで相変わらず呆れたが、全体的な印象はややおとなしめ。といってもそれは、前作が力作すぎたせいでもあるんだけれど。 この題名からして書店員を相当おちょくっているのかと期待したが、それほどでもなく(←…

『判決』松浦寿輝

このシリーズのなかでは面白い方。平岡のあの性向とからめた話でもあるし。 というか、それどころか、この決して悔悛しないひとたちの「悔悛クラブ」での老人たちとの対話での、平岡の発言「そういうのを文明って言うんだろう」には、ドキリとさせられた。痛…

『年の舞い』古井由吉

死ぬ直前、といっても時間単位でなく日にち単位のことなのだが、それまでになかったような様子、行動を見せる老人たちのエピソード中心のはなし。あれ、こんなことを言う(やる)ひとだったっけか・・・とかすかに違和感を感じていると、それがサインであったか…

『群像』 2011.3 読切作品

最近急に細かいものを見ると目の焦点が合わなくてぼやけて仕方ないんですが、どこか体が悪いんでしょうか? ご無沙汰しましたが、競馬してました。ここ数年春になると競馬の虫が疼きだし、三歳戦を中心にあれこれ手を出してダービーの翌週で止めるということ…

『アルフォンス・カイラーズ』ブライアン・エヴンソン

自分が殺した人間の名前を便宜的に名乗っていたら、いつのまにかその人間になってしまうという、これはいかにも純文学にありがちな、あまり驚きのない結末だなあ。新潮にのる翻訳はすごく面白いときがあるので期待したのだが。

『湖中天』諏訪哲史

作者本人も、いつまでこのシリーズ続けるのか、と周りが思っているであろうことをメタに作中言及しているところがありそこも面白かったが、じっさい今回は今までで一番楽しめた。 というのは、今までと微妙にスタイルが違っているところにも原因があって、こ…

『星降る夜に』高橋源一郎

途中までのコメディタッチなところ、なかなか楽しませる。ポストモダン以後、そして翻訳調文体を村上春樹他から導入されて以後、様々な形で新しい文体が形成されてきた、それが高橋源一郎のなかで結晶されたようで、このへんは貫禄なのかな。 で、後半になっ…

『ゾウガメのソニックライフ』岡田利規

根が貧乏性で守銭奴な私は、冒頭小説があまりにアレだったんで、普通ならスルーする戯曲を読みましたよ。 で、なかなか考えさせられるところがありました。これは私の解釈だがおそらく岡田利規は、日々の生活においてなんらかの直接性を回復したいんじゃない…

『ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集』宮沢章夫

冒頭から躓く。「高校では運動部には入らず、音楽のサークルに加わってバンドをやるのはからだを動かすことだが、とはいってもたいした運動ではなかった」って何だ?音楽サークルに入ったことは前後から分かるけど、この文章はそれを確定できていない。ただ…

『新潮』 2011.4 読切作品

最近手のひらにぽつぽつと吹き出物が出てくるのですが、何か悪い病気でしょうか? ずっと書こうと思って忘れていたのですが、いぜん松波太郎氏の作品について書いたところで、今さら会津・長州もないんじゃない、とか書きましたけど、私の認識不足で松波氏に…

『人生オークション』原田ひ香

掲載誌が違うとこうも違うのはなんでと問いたくなるくらいだ。というのは、この作家については、けっこうこのブログでは酷いことを書いてきたからで、しかし、この作品は読める。 読み始め当初は、叔母と主人公がどうしてこんな最初から馴れ馴れしいの、と、…

『石飛山祭』石牟礼道子

近世のころの話だろうか、山から海へと集落を連ねた村落共同体での、日照り〜雨乞いで起こった出来事が語られるのだが、いかにもこの時代のできごとを語るに相応しいかのような文語調で語られる。それでも、リズムや言い回しがそれっぽいだけで、思ったほど…

『記憶の暮方』高原英里

基本的には、ある青年が過去の自分の周りに起こった出来事を探求する話。 しかし、これが結構工夫のある作品で、まず主人公が考える詩論からスタートする。それ自体はそれほど難しい内容でなく、近代は自由詩のほうが優勢だが、定型・韻文にはそれがうたとし…

『ROMS』松浦寿輝

平岡公威ものの一連の作品のひとつ。わざわざ検索する気もないが不定期でもう足掛け2年くらいになっている?ようは、長く感じてしまうくらい、これまでのものの殆どが記憶の彼方であって、あまり印象に残らないというか、その程度の作品が多かったように思…

『群像』 2011.3 読切作品

とにかく帰ってきたらテレビをつけてニュースを見る、という生活も過去になりつつあるのがなんか不思議な気もするここ数日ですが、相変わらずセブンスターは手に入りにくいです。 先日書いた地震当日の話の続きです。 路上で大きな揺れに遭遇しながら呑気に…