『うわ言』飛鳥井千砂

こんかいの新鋭短編集のなかで、よく書けているかどうかは別として好きな作品といえばまずこれかな。短文で余計な修飾語を省いた抑制された文章に、落ち着かされ、読んでいて心地よかった。でもたぶんこの心地は、上の作品の次に読んだからなのかもしれない。掲載の配置で得したか。
出てくる人物に好感をいだかせるのも、これも文章の力なのかどうかは判断つかないが、うわごとを言った女の先生、そしてその旦那さんなど印象に残る。わたしたちは、明るくいつも元気な体格のしっかりした、いわゆる恰幅の良いひとが意外な脆さをもっていることを経験的に知っている。
また、短編であろうときちんと出来事を発生させ、読者の興味を引き、きちんと顛末に言及するのも好感がもてる。
と書いたところで、よく出来ているだけに惜しいところが目に付いてしまったことも書いておかねばなるまい。どうも主人公がいまいち性格悪そうなのはいいとしても、さすがに、初対面の旦那さん相手に「教師にはそういうことついてまわりますよね」なんて一般論をずけずけ言うものなのか、と。ここは、死んでいく人を立てて、うわべだけはそのうわ言の主だけの話にしておくような言い方で納まるところではないか、と。
まさかいっけん禁欲的に抑制された文章の背後にそれとなく隠された主人公の性格の悪さを味わう、そんな目的で書かれた小説ではないよね。