2011-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『癌ふるい』山内令南

新人賞受賞第一作にして遺作となってしまった。新人賞をあまり評価しなかったことに複雑な思いがする。この作品は構成上のこともあって、新人賞作品ほど一本調子ではなく好感をもてたが、評価は差し控える。

『命からがら』大道珠貴

もしそれが主人公のことだとしたら、読んで少しも「命からがら」という気がしてこないんだが、この作品では以前の作品であったような「男のTシャツから乳首が透けるのがいやだ」みたいな女子中学生みたいなワガママは少なくなっている。 過去の幼いころの回…

『恋愛は小説か』片岡義男

失敗した。予想通りだった。良いご身分のひとが自由な恋愛をしてらして良かったですねとそれだけ。会話にも面白みも深みもない。 この出版不況のなかでフリーランスでやっていけるなんて一握りの一握りだろうに、そういう気配がまったく漂わない。もしかして…

『亜美ちゃんは美人』綿矢りさ

これは面白い。思わず噴出したり声に出してしまうということは無かったが、綿矢りさで笑えてしまうとは。 これには、主人公の視点でずっと物語をすすめながら、「わたし」という語を使わず三人称で記述したことも良かったのかもしれない。ときどき主人公の心…

『文學界』 2011.7 読切作品

最近右手が自分の手じゃないような感覚に陥ることがあるのですが、事故の後遺症が今頃出ているんでしょうか?(ちなみに昔、この生涯一番大きな交通事故を起こしたのも9月です。) 復興の増税案が明らかになってましたが、またタバコ増税ですか。一応復興の…

『逸見(ヘミ)小学校』庄野潤三

この号でいちばん面白かったのがこれ。やや厭戦的な気分あり、しかし死ねと言われれば行ってくるかの気配もあり、当時の空気をうまく伝えていると思う。 なんて当時を知るわけない私が言えるのは、あくまでいろんな人の回想記や、インタビューなど見たりして…

『先カンブリア』諏訪哲史

このシリーズ最近では、面白げなことを書いているか否かばかりしか評価していなかったが、今回の作品はそういうところが少ないにも関わらず、いちばん退屈しなかったかもしれない。生物(鉱物もふくめ)が進化していく過程で、いかにもそこで見られそうな風…

『アトム』高橋源一郎

多分ものすごい恥ずかしいことだと思うんだけど、このブログではもう殆ど恥はかき捨てているので書いてしまうと、この続編ともいえる作品を読んではじめて、前作も原発が隠れテーマじゃないの、と気づいたとです。「アトム」といわれても「ロボットアニメ」…

『タダイマトビラ』村田沙耶香

読み終わってまず感じたのは、すごい腕力というかなんというか、とにかく力を感じさせる作品だな、ということ。この印象はその殆どがラストにかけての展開から来ている。そのまんま突っ走ってしまうとは、という。 あるいは、押し切ってしまうとは、といって…

『新潮』 2011.8 読切作品

ことしは節電の夏とかいって、周りの会話でうちは20%節電したとかちょっと自慢げにいう人がいたりしますが、これ、割合じゃなくて家族一人当たりの絶対値じゃないとおかしな話ですよね。だって前の年にジャブジャブ使っていたらその分ちょっとした節電で…

『日本の大転換(上)』中沢新一

上下あるうち上だけ読んで評価を下すのはアンフェアかもしれないが、下編を読む気がしないので今記しておく。 恐らく下編でも原発反対の論陣を張るんだろうが、説得力云々のまえにここまで壮大な話をしなければならないのか、という思いしかない。やや唖然で…

『乳海のナーガ』中上紀

奥泉光のは超短編で、いつものノンフィクション風に書かれたフィクションだから、この号のすばるで一番読み応えがあったのはこの作品か。 それでも面白くはない、という。 「父」が出てくるので、また私小説ぽいんかなあ、と思ったらその父は画家であって、…

『垣根のむこう』甘糟幸子

こういう作品が載っているのをみると「すばる」再び定期購読する日も遠いなあと思う。 これもまた主人公に感情移入できないのだが、上記の作品と違って意図したものではないだろう。30代の女性という設定だが、とくに恋人もおらず特技・資格もなく貯金もな…

『群魚のすみか』米田夕歌里

評価を普通としたが、これはあくまでこのブログを始めた当初きわめて安易に考えたランクにしたがっているだけで、まったく普通ではない小説である。こんなパターンははじめてといっても良いかもしれない。記憶力に衰えが生じているかもしれないんだけれども…

『すばる』 2011.6 読切作品

最近冷蔵庫というか野菜室のなかに1年近く放っていた山芋を摩り下ろしたのですが、やや水気がなくなっていたものの普通に食べれました。 9月は私にとっては何かある季節なのですが、相当昔のちょうど今頃付き合い始めたひとがケンタッキーを食べたことがな…

『わたしの中の原発』堀川惠子

真摯さが伝わってくるエッセイで、主旨そのものに文句をいうつもりはさらさらないのだが、2点。 被災地支援のレタス100円に人がいないのは、地域にもよるとは思うが、あくまで関東の人間から言わせてもらえば少しばかり高いからである。足しげくスーパー…

『言葉が無力になったとき』熊谷達也

「小説に存在する意味があるとするならあくまでも平時の暇つぶしでしかない」とか言うなら、「誰もが言葉を失っているときにあえて言葉を発するべきじゃないのか」とか(たとえその結論に至る途中だとはいえ)書くなよな、と思う。とんでもない八つ当たり。 …

『青空』岡崎祥久

素晴らしいなあ。この作品がなかったらボロボロともいえた群像だが、この作品だけでも買ってよかったと思える。 まず冒頭の一行がいい。「すべての逆境に出口が用意されているわけではない」。マジックにかかったかのように、ここから読み進められる一行だと…

『あめよび』原田ひ香

完全にダメとは言い切れない、また不思議な感じの作品を届けてくれたなあ、という感じ。これまでの彼女のほかの作品(の一部)のように、「お話」に人間が従属物になっているというような気配はそれほど強くない。しかしそれでも得心いかないものが残るのも…

『ぱんぱんぱん』丹下健太

群像が一年に一回くらいやる新鋭作家特集などにでもうってつけに思える作品。小学校の教室に鶏が迷い込むエピソードとからめて、その鶏を引き取ることになる少年の背後にあるオトナの世界の複雑さの存在をを、直接描かずにうまく浮かび上がらせている。読者…

『道化師の蝶』円城塔

今まで読んだこの作家の作品のなかでは一番楽しめたかもしれない。それでも冒頭から暫くはため息が出てしまうようなスベリ方が続いてどうなることかと思ったものだ。具体的には「乳児向け満漢全席」だとか「高校への坂道で読むに限る」とかのところ。論理的…

『超人』伊坂幸太郎

前作『PK』のつまらなさも記憶に新しいなか、今度はいくらかマシかと思えばたんなる姉妹編的作品でした、というオチ。サッカーだとか大臣だとか落ちてきた子供がどうだとか、前回と部分的にダブるような話が展開されて、で、前回あった時代考証がなんかお…

『群像』 2011.7 読切作品ほか

冷蔵庫のなかを整理していたら半年以上前に買ったこんにゃくを発見したのですが、水に溶け込んでしまってました。3個入りだったため真水に入れ替えて保存したのが悪かったせいなんでしょうか。 ヴァンダレイ・シウバが無残に負けたのをついこの間目にしてい…