『寺部海岸の娘』広小路尚祈

地方の工場労働者の話。というと暗い何かを予感させるが、東海地方といえば北陸の一部とならんでじつは世界有数の技術集積地帯でもあるし、実態以上に深刻方面に傾き加減になるのも文学の陥りやすいところで、この作者と同年代かそれ以上の年代の者にとっては、それなりに俺らはまあまあという感じでやってるぜというところではあるだろう。こういうのが書けるのもこの人の持ち味だし、さらに持ち前のユーモアが楽しく読ませてくれるのに寄与している。とはいいつつも、やはりこれほど全面的に屈託がないなんてことはいくらなんでもないだろう。この小説なりの役割はじゅうぶん果たしているが、現実には迫っていてもその心底に達しているかどうかは留保が必要という気もしてくる。