2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『給水塔と亀』津村記久子

最近はエンタ系読み物誌もふくめあちこちで津村氏の名前を見かけるので、作者に近しい若い人ばかりが主人公であるということはもう既に無くなっているのかもしれないが、少なくとも私が、でないものを読むのは初めて(と思う)。定年退職した男性が、幼い頃…

『文學界』 2012.3 読切作品

節電のおり、電気の使用量がわずかながら昨年を越えました。天気のせいといいたいです。 さいきん領土問題でメディアがにぎやかなようで、たまに「国土が危機なのにこんなときに問責するだのしないだの、なんて!」というような一般国民さんもいて驚かされま…

『島で免許を取る−最終回』星野博美

島でとった免許が東京で役に立つのか書いて欲しいとこのブログで書いたが、すでに書かれていた。頑張っておられる様子。というか、迷いながらもちゃんと帰ってこれるところなど予想以上で、池袋から川越街道に入ることが出来ずに明治通りを延々北上して半泣…

『ちょうどいい木切れ』西加奈子

経験的にいって、背の高いひとには気の弱い大人しい人が多く、背の低いひとはその逆だったりする。それがよく出ていて、また背の低い人のマイペースぶりが面白い。ただ、ユーモア小説としてみてちょっと中庸な感じかな。行儀がいいというか。

『四本のラケット』佐川光晴

今回は掲載誌はすばるでも「おれのおばさん」と関係のない世界で、しかし、たんに直接関係がないだけだ、というような内容。この作家はこのまま、善意の人々だけが出てくる希望の小説みたいなのしか書かない人になってしまうんだろうか。 いま実際に起きてい…

『今井さん』いとうせいこう

雑誌などに載る対談などのテープ起こしを仕事にする人の話で、たしかによくよく考えてみれば、一般常識はむろんのこと、対談する人の専門分野について相当程度の知識がないと、成立しないとまでは言わないが(編集側でチェック・助言すればいいので)、円滑…

『東京の長い白夜』瀬川深

技術的にとくに不満に思うところもなく。とくに、夢と現実世界との移行のさせかたなど鮮やかとまでいわずとも無理がない。そして、かように主人公の夢の世界をところどころ挿入することが、内容に変化を与えていて読む楽しみに寄与している部分もある。主人…

『すばる』 2012.3 読切作品ほか

男性の身だしなみで若い女性に一番嫌われるのは鼻毛が出ていることらしいですが、私はボーボーです。 先日話題として書いた野田氏の反原発集団との対話、やったんですね。とっくになくなったと思っていたのですが、それにしても、話す前から首相が「分かりま…

『ライ麦畑でつかまえてくれ』佐藤友哉

編集側と行き違いみたいなことがあって以降、戦後文学の再読という当初の目論見とはちがって、とくに震災があって以降は、なんか愚痴というか好きなことしか書いてないような感じだったけど、だからこそ楽しませてくれた部分があったように思う。お疲れ様で…

『日本文学盛衰史 戦後文学篇 最終回』高橋源一郎

またここでアルバートアイラーかよ、とウンザリする。なんで小説家はこういうときアルバートアイラーなんだろう。たしかに何であんなものが持ち上げられていたんだろうという意味で、アイラーというのは格好の素材なのかもしれないが、他殺説も出ているとか…

『旅人』長嶋有

長嶋流ユーモアがいまいちピンとこなくて面白さを感じ取れなかった回もあったが、今回は、故人の意思なるものがその死後どう扱われるかということについて、分かるなあその感じ、というところがあった。自分が死んだ後は適当にしてというひとに立派な戒名が…

『/Y』長野まゆみ

どういうつながりで連作となっているのか2作目でもまだ分かってないが、ようするにあまり記憶に残らないんだなあ。この人の作品は読んでいるあいだは、きっちり整った上手い語りだなあ、きっと切れる人なんだろうなあとか思ったりするものの、自らに引き付…

『グッバイ、こおろぎ君。』藤崎和男

まず最初に書いておきたいのは、空間の描写がすごく分かり辛いということ。ひとつ例をあげると、トイレでコオロギを発見して彼がしかしにっちもさっちもいかなかったときなど、どういう体勢なのか、どうして体が動かし辛いのかがつかめない。 また、主人公を…

『泡をたたき割る人魚は』片瀬チヲル

島だとか泉だとかビタニィという飲み物だとか、そこそこ魅力ある世界を現出させていて、また他の掲載作との比較でこういう評価となったが、われながら甘いと思う。なぜって、複数の男のあいだで揺れ動く若い女性が主人公なんだが、制度とか、あるいは「たっ…

『架空列車』岡本学

「新人」の人に厳しいことを書くのは気が引けるのだが、意を決して。選考委員の幾人かが高評価をしているのが全く信じがたいがほどに、私はこの小説に終始乗れなかった(列車のはなしなので「乗れなかった」と表現してみたわけだが)。とくに評価のポイント…

『群像』 2012.6 読切作品ほか

山の近くにいって眺めるたびに、海より山が圧倒的に好き、と思ってしまうのですが、引き合いに出される海はかわいそうですね。 そういえば、野田さんが反原発デモの人たちと面会するとか言う話はどうなったんでしょうか。 枝野さんが「不公平じゃないのそれ…

『デッキブラシを持つ人』堀江敏幸

これまでにも幾度か読んだ記憶があるが、フランスの詩人の足跡を尋ねるもの。

『メタノワール』筒井康隆

映画の一シーンを撮り終えたと思ったらそれも映画の一部で、その映画の舞台裏を描く映画がやっと今度こそ終わったと思ったらそれもまた作品の一部で、という具合に延々つづく小説。メタメタメタ・・・映画を描いた小説とでも言えばいいか。アイデア一発という感…

『ひっ』戌井昭人

怪しげなクスリ、プータロ、といつもながらのこの人の世界で、こういうのが面白くない人はまるで面白くないだろうな。私はそこまで限定するのは微妙だが、酒を飲まない私はなぜかというとまずいからではなく酔いたくないからで、多分クスリが犯罪でなくても…

『十三月怪談』川上未映子

まごうことなき傑作。単行本未収録だとしたらこの号の新潮は宝だな。 最愛の人を亡くした人のその後を描いた作品。妻を病気で亡くした夫は、これ以上ないくらい悲しむのだが、どうしたってその悲しみというのは薄れるものであって(でなければ人は生きられな…

『いつも彼らはどこかに』小川洋子

立川のほうにもモノレールはあるが府中の側は通らないので、この小説に出てくるのは浜松町からでてるモノレールのことだとは思うが、それはたしかに大井の、馬糞の匂いが漂ってくるくらいのところを通るものの、ディープインパクトが一度も走ったことのない…

『奇貨』松浦理英子

中盤から後半にかけて主人公が同居人の部屋に盗聴器をしかけるあたりで動きがでてきてがぜん面白くはなったけれど、多くは、性交渉の気配すらなく友人として同居するストレート男性とレズ女性を中心として、性、あるいはもっと広くコミュニケーションという…

『新潮』 2012.6 読切作品

吸われていないセブンスターが道に落ちていて、拾おうか暫く迷ったとです。 朝日新聞によると金曜日の夜に官邸前でデモ、再稼動後もまだやってるんですね。べつに朝日が好意的に報じてるからイヤとかじゃなくて、以前から、首都圏からそういう行動を起こすの…