『東京の長い白夜』瀬川深

技術的にとくに不満に思うところもなく。とくに、夢と現実世界との移行のさせかたなど鮮やかとまでいわずとも無理がない。そして、かように主人公の夢の世界をところどころ挿入することが、内容に変化を与えていて読む楽しみに寄与している部分もある。主人公は音楽関係のイベントを手がける会社にいるのだが、多少読み物らしく戯画的なところもあるも、リアリティがないとまではいわない。それにしても・・・・・・。
うまく表現できないんだが、ナイーブなんだよなあ。この主人公が体の不調を訴えだしたのは、顕在化したのは、震災がきっかけで、というより原発事故がきっかけで、そういう意味で震災関連の小説ではあるのだが、もし、もっと震災について作家は書くべきではないかという問いがあったとして、答えがこの小説のようなものでしかなかったとしたら、そんな問いなどなかったほうが良かったみたいな。食べ物の汚染にかんして主人公が悩むところなんかも、ニュースなどで知るところとなった素材をうまく小説にしましたみたいな雰囲気があって、つまりはニュースとして知るということは外側から見ることであって、届いている感に乏しい。NHKのドキュメンタリではなくて小説であるところの意味が感じられない。
また、主人公はこれだけの事故がありながら放射能があるかないかだけに殆ど問題意識が行ってしまっている人で、ああもしかしたらこういう人が震災ガレキを汚染ガレキとか称して被災地で処理すればいいじゃん雇用も生まれるしみたいな田舎は延々ゴミ処理してればいいというような差別を平気でする人なのかもしれないな、と思わせる部分はあるものの、とうぜんシンパシーはゼロなわけで。こういう人物を主人公とした小説についていく苦痛はなかなか消えてくれない。しかもラスト近くになって主人公が吐き出す言葉にいくらか理があって、それで少し主人公は楽になってみたいな終わり方をするのだが、ストレス解消の相手にされた男性の理屈のほうに分があるのは全く変わっていないようにみえて、少し不可解でもある。