2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

新連載『めぐり糸』青山七恵

現代の話しか読んだことがなかったが、なんと今度は、終戦後暫くした頃、花街の料亭で芸者さんたちに囲まれて育った少女の話だった。少し驚いた。引き出しからものがなくなると書かなく(書けなく?)なる人と違って、いまさらながら「作家」なんだな、と思…

『3・11と夏目漱石』小森陽一

反原発はときとしてポルポト、って何度かこのブログに書いた気がするのだが、その典型的な例がこちらです。 としか私には読み取れなかったんだが、読めてないんだろうか。利便さを捨て赤裸々な人間が赤裸々な結びつきがどうのこうのと書いてあるようなんだが…

『虹色ノート』木下古栗

物語の入りとラストは最高に面白いんだけどな。サクっと纏めると虹色の糞をする男の話だ。青い食べ物食うと青い糞をする。黄色い食べ物を食うと・・・・・・あーあ。 群像の鼎談の担当者は「Tシャツ」だけじゃなくてこちらも取り上げて是非参加者のコメントを読み…

『フラミンゴの村』澤西祐典

この小説には主に描かれる人物とはべつに俯瞰的な語り手がいて、「わたしが読者諸君にこれから披露する話は〜」みたいに入っていくのだが、なんかいかにも19世紀、20世紀初頭の近代小説臭がするものの、非常にそつがなく読みやすく、それはよかったのだ…

『すばる』 2011.11 すばる文学賞ほか読切作品など

昔から立ちくらみをよく起こしていたのですが、さいきん立ったままくらむときがあります。 なんかハシシタ人気に恐れをなして、自民党も解散したい気持ちが薄らいできたのか、選挙しばらくなさそうですね。 といってもいままで選挙にいったことは一回しかな…

『震災はあなたの〈何〉を変えましたか?震災後、あなたは〈何〉を読みましたか?』

松浦理英子のコメントに、え、と思ったのと、阿部和重、田中慎弥のコメントが印象に残ったくらい。

『夢の葬送』佐藤友哉

放射性物質が主人公の短編。先日の作品にくらべ、いまひとつひねりがないし、現実に負けているように思う。勝とうとなんて思ってないだろうが。

『金の櫛』鹿島田真希

賢さ、とか、欲、とか、上昇志向、とかは、ときになぜこんなにも疎ましいのか。たぶん、ときに、だからではないか、そんなふうに思った。

『わたしがいなかった街で』柴崎友香

もう買わないかもとさいきん書いた新潮だが、こういう小説が掲載されたりするから油断ならない。 すごくおおざっぱにいえば、中年にさしかかった独身女性の日常を描いたものといえるのだが、それにしても、この作家の全作品をチェックしているわけではないの…

『新潮』 2012.4 読切作品ほか

ところで私は肛門性交の経験がありません。それに経験がないまま終わりそうです。とくに入れられるのはもう無理です。 と上記のようなことを、男性で同性愛の体験があるひとが3割とかそういうのを最近耳にしてふと思ったのですが、じっさい肛門性交の経験が…

『昼田とハッコウ』山崎ナオコーラ

まさかハッコウが結婚して終わりとは。いやいや、少しも残念ではないのだが。 たぶんこの作品の意図というか、なにが書きたいか、なにが動かしているかが私にはさっぱりつかめていないから、この終わりも分からないのだろう。まさか、人と人が繋がるって素晴…

『地上生活者 第五部 邂逅と思索』李恢成

祝再開!

『ピンク色の三角』エレン・クレイジャズ 岸本佐知子・訳

まったく意図していないのに、というか逆の意図なのに、関係に楔を打ち込んでしまう行き違いが、ピンク色の三角というアイテムを触媒にしてうまく描かれている。で、そういう話の中心のポイント以上に、同性愛者へのこの仕打ちはあまりにあまりにひどすぎる…

『見おぼえのない女』谷崎由依

前半から中盤、やや芝居めいてはいるものの、リアルなサラリーマン中年の屈託を書こうとしていて、でそれなりに書けているというのに、同僚の女性の存在がどんどん一人歩き的に大きくなってきて、夢幻な存在に。で、私はがっかり。せっかくここまで、という…

『短篇五芒星』舞城王太郎

いつも虚栄心に負けることなく分からないものは分からないと正直に書いているつもりだが、今回は増して正直に書く。 この5編、どれもがレベル高く素晴らしく面白いのに、その面白さを説明的にうまく言い表す言葉が浮かばない。たとえば、前述の本谷短編なん…

『13の“アウトサイド”短篇集』本谷有希子

作風がやや固まりかけていたのが、「ぬるい毒」でやや違う方向へ歩みだし、この短編のかずかずで、より世界が広いことが確認できた。その一方でやや既視感のある本谷ふうユーモアだなでおわってしまうものもある。本人はたぶんそんな気持ちはぜったいないだ…

『群像』 2012.3 読切作品ほか

実際のところ、ケンドーコバヤシという人のどこが面白いのかさっぱり分かりません。 暑くなってきましたね。 いい大人になってから、路上でパンツ一丁で歩いたことがある人はそう多くはないと思いますが、高校生が大人かどうか微妙なものの、そのころ、単色…

『水の音しかしない』山下澄人

前半のとくに面白くも、かといって読み辛くもない不条理劇を漫然と読んでいると、なんと震災関連でした。人がいなくなって悲しいよという感傷めいたものはなんとなく伝わるが、で何なの?て感じしかしない。 もしかしたらあの日から何かが変わってしまったみ…

『耳の上の蝶々』シリン・ネザマフィ

主題そのものは恐ろしく古く、近世的因習VS近代的自我だし、その近代的自我の自己実現が、主人公が淡い思いを寄せる日本人男性にあっさり実現されて、現代的な経済の需給バランスの悪化による歪み・苦しみは殆ど描かれていない。 よって現代文学作品として…

『裏地を盗まれて』荻世いをら

いままでこの作家にはあまり良いこと書かなかったが、面白さという点では相変わらず足りないものの小説的言語の強度としてはこの号に載った作品のなかではいちばんだろう。そのテンションがラストまでたれることなく強度を保っているのもいい。 独特の言葉遣…

『八月は緑の国』木村紅美

まさかとは思うがこの小説、日ごろから故郷の親とは頻繁に連絡をとったりして、肉親同士の絆は大切にしましょうね、とかそんなことを言いたいわけではないよね、と、聞くまでもなくそんなことはないだろうということを念のため確認したくなるのは、そういう…

『髪魚』鈴木善徳

比べてしまって恐縮だが同時受賞の宿命と思っていただいて、で読み始めて数ページは、あー非リアリズムかあこれは苦痛かも両方面白いってなかなかないよね、で読み終わったあとは、一作目の印象が少しかすむくらい。 なにしろジジイの人魚だ。こんな中途半端…

『きんのじ』馳平啓樹

丁寧に書かれているなあ、というのが最初の数ページの印象で、とくに凝った文章はなく頭に内容がすんなり入ってくる。目立たないように気が配られているのだろう。 主人公は大学を出てはみたものの、良い就職先が見つからず、苦労して(というか、既存社員が…

『文學界』 2011.12 読切作品

先日タクシーと口論になったのですが、思いっきり負けました。(正確には「タクシーと」ではなく「タクシーを運転してたやつと」) むろんちっとも反省していなくて、今でも自分のほうが正しいと思っているし、その日はしばらくのあいだ事務所見つけて文句言…

『“フクシマ”、あるいは被災した時間』斎藤環

なんか、連載が始まった頃文句をいった覚えがあるのだが、放射能の害をいいたてるものから、放射能の害を言い立てるものによる害を問題にするようになってきていて、失礼な言い方だが、どんどんまともになって、頷きながら読んでいる。 文学界隈は、ノーベル…

『橋』黒川創

今回は小説そのものにかんしてほとんど感想というべきものがないのだが、小説の登場人物がもしイージス艦が横須賀の原子力空母をコンピューターの誤作動かなんかで誤って攻撃したら原子炉がアレして半径数キロ以上が、とか恐怖するところでなんだそれ、と思…

『ある晴れた日に』稲葉真弓

しつこくこの半島ものを読ませていただいているが、興味をひかれるどころか、そこでの生活を良さげだなあと感じたことすらない。だからうらやましくもないのに、なんか余裕のあるひとはいいね、とかときどき思ってしまう所が私の性根の腐ったところ。でも、…

『恋愛雑用論』絲山秋子

私にとって商品価値があるのは、このページだけといっても過言ではない。 この小説のなかに「どこに、ひとがふつうに生きていくことについて正しく話せるひとがいるというのか」というくだりがあるが、私の理解ではこの作家ほど、話せているかどうかはともか…

『双頭の船』池澤夏樹

第一回からもうヒューマニズムを感じさせる。もちろん、つまらなそう、という意味。

『不在』筒井康隆

申し訳ないが(と大御所っぽいのでつい謝ってしまうが)、筒井康隆のさいきんの小説で面白いと思ったことがない。 ばかりでなく何を書きたいのかが殆ど伝わって来ず、震災奇譚とあるが、この作品のどこに「震災」があるのかが、分からない。世界が女性だけに…