『13の“アウトサイド”短篇集』本谷有希子

作風がやや固まりかけていたのが、「ぬるい毒」でやや違う方向へ歩みだし、この短編のかずかずで、より世界が広いことが確認できた。その一方でやや既視感のある本谷ふうユーモアだなでおわってしまうものもある。本人はたぶんそんな気持ちはぜったいないだろうし、エッセイや戯曲でどれほどの才能を発揮しているか確かめてないので無責任になるが、覚悟をきめて小説一本でもいいのではないか、と思ったりもする。以下、超みじかく。


「アウトサイド」・・・軽んじていた人物が突然異形をみせる割とありがちパターンだがよく書けている。
「私は名前で呼んでる」・・・大人=汚れとして扱うようなあまり好きじゃないタイプのもの。
「パプリカ次郎」・・・こういうわけの分からない感じは好き。
「人間袋とじ」・・・小説を作るアイデアとして少し小粒かなというのと、キレる女性がいかにも本谷的
「哀しみのウェイトトレーニー」・・・コミュニケーションとは完全に理解しあうことではない、ということかな?
「亡霊病」・・・こういうわけの分からない感じは好き。
「バイビーおじさん」・・・台風のとき傘を差している人はほんとに滑稽だ。へんなおじさんは便利でそれに頼った感じはあるが。
「Q&A」・・・サドルを愛するっていうのは面白いけどちょっと分かりやす過ぎて、他の部分の面白さがかすむ。
「彼女たち」・・・ぜんぜん引っ掛かりがない。
「いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか」・・・試着室にずっと入り続ける人という設定はなんかユーモアとしてありがちねと思ったらラストがよくて、題名の面白さも分かる。
「裏の林には悪の組織と弟たち五人の墓標」・・・これもいかにも不条理演劇だなと思ったら内容が想像超えていて面白さという点では一番
「ダウンズ&アップス」・・・ホンネで語り合えるって素晴らしい、とかって下らないよね。ちょっと皮肉っぽいけど真実突いてる。
「IQ」・・・分かり合えていないのにより良い関係が成立する。よい締め。


一作目がよくて中ほどで少し弛んでラスト3篇がまた良かった。