2009-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『巡礼』橋本治

圧倒された、といっても良いだろう。近代文学のひとつの達成ですらないかとも思える。 一言で言ってしまえば、「ゴミ屋敷」と称される、ゴミを家の中や庭に溜め込んだ家に住む「変人」の、そうなってしまった理由を明かそうとする試みなのだが、その理由につ…

『新潮』 2009.2 読切作品

先日取り貯めしたハードディスクの整理を兼ねて、5本くらい映画を見たのですが、そのどれもが詰まらないのには落胆しました。 基本的に映画というものは生に合わないのをまた確認させられたわけですが、どうも自分で選んで見た映画はよりつまらない傾向があ…

『二匹の狐と一本の楠』米谷ふみ子

意味不明な内容。 米谷ふみ子という作家がどれだけ偉大なのか私には分からないが、この人がどういう場所に住んでいてどういう付き合いがあったのか全く関心が持てないのだけど。なんでこんな事を知らされねばならないのか良く分からない。実名で色々有名な人…

『文學界』 1月号拾遺つづき

「ああいつ自分は死んでも悔いが無いな」という映像コンテンツが私にはあります。 それはNHKでたまにやっている『新日本紀行』です。 テーマ曲も含め異常に郷愁感を刺激されるんですよね。 「あーそうなんだよな。みんなこんな感じで生きてるんだよな。良…

『海峡の南』連載完結−伊藤たかみ

最後まで父と会えず。なんだ結局は主人公とそのイトコのこれからみたいな話で終わる尻切れとんぼな感じ。この感じは、父の不在をテーマにしていながら、なぜそこまで父を想うのかが最後まであまり伝わってこなかった事にある。なんでそんなに父と再会したか…

『文學界』 1月号拾遺

先日、『新潮』これ以上買うべきかどうか迷ってるみたいな事書きましたが、2月号の巻頭作品である橋本治の『巡礼』これ、すごいです。なんだこんなにすごい作家だったんだ橋本治、という。(まあ知ってる人はそんな事は言われなくても分かってるんでしょう…

『随想』蓮見重彦

(「見」と「彦」の字体がコンピューターでは表示されないのでご勘弁を。) 内田樹を強烈に皮肉ってるのだが、これだけを読む限りは蓮実の圧勝という感じで小気味良い。内田ってこんな下らない事をブログで書いてたのか!と思うもん。 蓮実氏は、ノーベル文…

『二倍』町田康

この世界はどこかニセモノなんじゃないかという町田らしいモチーフなのだが。たんに面白くない事もふくめてあまり感心しなかった。 たしかにこういうベンチャーキャピタル的なビジネスというのは、資本主義がいきついた果ての果てであって、「ニセモノ」の最…

『虫王』辻原登

こんな小品といえる作品でもこの作家は人をうならせる。描写は簡潔にしてしかし情景の喚起力があり鮮やか、華があるところにはあり、寂れは寂れている。主人公の溜められた鬱屈、それを描かず、意識ではそれがオモテに出ないくらい虫の戦いに熱中するかのよ…

『山姥』瀬戸内寂聴

都会で敗れ去って田舎で新聞配達をしている中年男性が、自分と同じようにアウトサイダーにみえるひとり暮らしの老女に親近感を抱いてしまう話。都会での過去の男女関係の話ででてくる人物がそれぞれすこしばかり古臭いのは致し方ないとしても、最後に老女が…

『その部屋』河野多恵子

中老年の女性が大きな都会のマンションで経験した四方山話。でかいマンションなので偶然つながりのある入居者がいたり自殺があったり。 そういうつながりのひとつで、マンションを意気揚々と改築した美人の中年女性の部屋に案内されたりするのだが、その後地…

『aer』川上弘美

子供が生まれることを文学的に表現してみました、という作品。子供というものがとても自然である様と、自分にとって不自然なモノとしてしか思えない様が描かれるのだが、前者の比重が大きい。「なんか自分はどうぶつなのだ」みたいな。たしかにそれは分かる…

『現な像』杉本博司

たまに面白い事が書いてあって(古物商でも武器などを扱うとこと美術品中心のところでは交流がないとか)、目を通す程度のこの連載だったが、最終回でちょっと見逃せない記述があった。 冒頭から「戦争とは国際法で公に戦い方のルールが定められている」のは…

『新潮』 12、1月号拾遺 

ところで、先日ここに記事書いた日って芥川賞の選考会の日だったんですね。後から気付きました。 こんなブログやってそんなもんかよ、と思われそうですが、じっさい私は業界の人間でもなんでもないのでたいてい文学賞の事なんか忘れていて、NY市場の株価と…

『路』吉田修一

神宮外苑を見下ろす皆が羨むような大商社といえば伊藤忠しか思い浮かばないのだが、そこで台湾新幹線プロジェクトに取り組むOLの話。まだなんとも言える段階ではないが、描きぶりにそつがない。

『夜の息子、眠りの兄弟』青来有一

これはがっかりした。この作家って、こんな通俗的な「読み物」寄りの作家だったけ、と思ってしまった。加賀乙彦が新潮で連載しているようなそんな感じの小説。 女性に感じる愛憎の感情も、そこで描かれる行動も、いかにもドラマを見ているかのような通俗さ。…

『妖談3』車谷長吉

たんに短くてすぐ読めるという理由だけで読んでいるが、今回はあまり「妖」という感じがしない。たんにまぐわい好きの女性が出てくる話ばかりである。 調理師というのが調理師組合から派遣されるようなものだという所だけ興味を引いた。ある店を辞めても組合…

『お上手』青山七恵

あるOLが、靴修理の人をちょっと気にしつつ結局オトナのサラリーマンと良い仲になる話。明らかにこのOLと靴修理屋の青年との間には階級差があるのに、それに気付こうとせず、いかにもその靴修理人と自分が同じ人間であるかのような感慨を抱くところなど…

『ピアス』金原ひとみ

たまにこうして出会うことができる、金原ひとみの精神科に行こうとして電気屋だとか別の所へ行ってしまう短編シリーズ。むろん面白い。 今回は、耳の軟骨部分にピアスを入れに行ってしまうのだが、ピアスを施す人との会話がなんともおかしい。とくにピアスを…

『おと・どけ・もの』多和田葉子

いかにも言葉について意識的な人が書いた小説というのがストレートに出ている。単語が死んでいくいわゆる死語についてふれた部分とか、意識的であるがゆえに面白く書けている部分がある一方、意識的であるがゆえにかえって窮屈になっている部分がある。いや…

『生死刻々』石原慎太郎

この人の小説、もっとうんざりさせるモノかと思っていたらそれほどでもない。しかし面白くもない。 最初の二編のおみくじだの亡霊だのの話は実にどうでもよいと感じさせるもの。とくに飛行機の亡霊を見た話などは実に単純なただ見たという話をそのまま書いて…

『文學界』 2009.1 読切作品ほか新連載など

自炊をある程度長いことやってると、作るものにある傾向が出てきてしまいます。 最初のころは自分でコロッケとかカツとか作っていたんですが、今は何か揚げるときでも、パン粉などいちいちつけようと思わなくなりました。パン粉なんて面倒くさいし、栄養的に…

『ゼロの王国』鹿島田真希

とめどない言語的世界、思弁が思弁を呼び、言語が悩みを生み、悩みが悩みを引き寄せるこの圧倒的な世界もとうとう終わりである。思弁にとらわれた近代人というものに徹底的に拘りつつ、ちょっとした滑稽さを感じさせたことがこの小説が(私のなかで)成功し…

『障壁』青木淳悟

例のコンセプトのシリーズである。なんか書ける事がある限りどこまでやっても良いよ、くらいの勢いでファンになってしまったかも。 文体やリズムや世界観で新しい事をやろうとしている作家はけっこう居るし、そういう作家ももちろん応援する私であるが、これ…

『川』松浦寿輝

主人公の名前が平岡というから何かと思ったら三島由紀夫があの事件で死なずに生き残っていたら、みたいな小説。たまたま三島の本名を私が知っていたので分かったけど、ある程度文学を知ってる人以外にはこの小説なんの面白みがあるのか分からないだろうなあ…

『ボルドーの義兄』多和田葉子

もう既にかなり評価の定まった人なので、今更[面白い]もないかなと読んでいたときの正直な気分を評価にしたが、小説としてはやはり水準が高い。 エピソードごとにぶつ切りされた著述なので、どうしても読むほうもゆっくりとしたかみ締めるような読み方をして…

『群像』 2009.1 読切作品ほか

ここ何年か食べ物は自炊が定着しつつあって、外食はむろん、コンビニ弁当なんて値段だけで買う気もしません。 正直なところ、当日で賞味期限切れの惣菜がスーパーで半額になっていたりすると、怠け心で買ってしまうこともあるのですが。それでも自炊をすると…

『AS AS AS』原田ひ香

これは読み終わるのに難渋したし、それ以上に読み終わったときに悲嘆した。なんて自分本位な人間なんだろうと元気な方のアズにイライラしつつ読み、ラストで病気の方のアズもそれに劣らず自分勝手だったという。ドッカーンという感じ。最後の最後まで自分の…

『不正な処理』吉原清隆

うーむ、恐るべし。いやこの小説が、ではなくて、『群像』の鼎談で扱う本を決めている人のこと。この作品にしろ『潰玉』にしろ、あそこで選んだ作品が見事に芥川賞候補になっている。恐るべし選作眼。 で肝腎の作品だが、終わりまでほぼ一気に読めた。ストイ…

『すばる』 2008.12 読切作品

どっかの役所に派遣されてる国会議員が「派遣村」についてあれこれ言って今顰蹙を買ってて、まあ顰蹙を買うのも仕方ないかなあと思える内容でしたが、それよりも驚いたのが厚生労働省がなんかの施設を開放したことにたいして、それに対する要求行動が学生運…