『夜の息子、眠りの兄弟』青来有一

これはがっかりした。この作家って、こんな通俗的な「読み物」寄りの作家だったけ、と思ってしまった。加賀乙彦が新潮で連載しているようなそんな感じの小説。
女性に感じる愛憎の感情も、そこで描かれる行動も、いかにもドラマを見ているかのような通俗さ。むろんこれは小説技術の問題でなく、そういう底の浅い人物を主人公に据えているからという事もいえるかもしれないが、それにしてはそういう人物が嵌りそうも無い虚無への衝動なども描かれるのでよく分からない。まあ、その虚無への衝動も、暗い森に比喩する所など類型的であり、あるいは筋は通ってるのかもしれないが・・・。
いちばん残念なのは、リンチとその過去を引きずる集団という少しわくわくさせるテーマを持ち込みながら、いまいちリアリティを欠いてしまったところ。たんなる仲間ではなく、劇団という結びつきがやや弱い社会的な集団であれば、とうに秘密から脱落者しているものなど出ていただろうし、それが結びつきを強めてきたというのはちょっとありそうにも思えない。むしろ集団の瓦解の原因になるのなら分かるのだが。
しかもそのような大事な事にかんする秘密を一人の女性だけ内緒にしてこられたというのだから、尚更作り物めいている。しかもこの女性は主人公が再びバク宙しようとするのを必死に止めようとするような臆病な人間でもあったりする。よく分からない。
演劇集団なのだから、皆でなくても誰かどこかで全てが演技だったというオチでもあれば面白かったかもしれない。