2009-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『いけにえ』藤野可織

のっけから失礼な言い方だが、全く期待していなかった分もあるかもしれないが、とても面白かった。この作家は典型的な主婦になんかの悪意でも抱いているのだろうか。というのはもちろん冗談だが、主婦と称される人々のなかに時折見られる、自分中心に世の中…

『箱庭』海猫沢めろん

途中けっこう長いんだけど、なんかこういう子供たちが勝手に幻想を作り上げて、みたいなものはそのシーンを読んでいるだけで退屈。デジャブな感じもするし。話の大筋も、ありがちな「皆と仲間になりたい醜人の善行裏目もの」というか、よくありますでしょう…

『翅病』千頭ひなた

回想と現在を章を分けずに行ったり来たりして語るものだから、とにかく時系列がうまく整理できない読みにくい小説。重病の女性と同棲している男が主人公の小説なんだけど、その時系列が掴めないことはテーマに関係ないから良いかというとそんな事はなく、だ…

『虫樹譚』奥泉光

実際には横浜の方とかにも既にあるらしいが、テナントが入る見込みがなくなって更地のまま廃墟となっている、とか金融危機後の近未来的世界を上手く表現していると思う。タイムリーさを感じた。 とくに頭の中に老廃物を食う虫を飼うという発想。これが当初の…

『殴る女』荻野アンナ

料理番組でお見かけしたような気がする荻野アンナ。料理自体はおいしそうなものだったがさて小説はというと、連作と題されているものを今作しか読まなかったので実際何も評価はできない。 ではなぜここに書いたかというと、勤務先として気楽に州兵を選んで働…

新連載『原稿零枚日記』小川洋子

こういう日常から少しづつ夢幻な方向へずれていくような非リアリズムを書いてくるとは思わなかった。話の運びは上手いとは思うけれども、なんか肝腎のその夢幻的世界に魅力がないんだよな。苔料理と言われてもね。しかしこの人は基本的に、ネタに貪欲という…

『分水嶺の家』甘糟幸子

鎌倉。たしかに気候は最高。海は近く冬は山に北風を遮られる。その山を越えて大船あたりだとぐっと「感じ」が分かるのだが、鎌倉あたりに、しかも昔ながらの平屋などに住むような人々の生活は、まさしく私にとっては縁のない世界。文字通り「住む世界が違う…

『欅の部屋』青山七恵

今まで読んだ青山作品のなかでは一番の好印象。これは何か良かったな。男性を主人公にしたから良かったのだろうか。というか、この主人公の元恋人のような頑なな、ちょっと不思議なところのある女性というのは、男性視点からみた女性像にありがちで、男性作…

『mother』瀬戸良枝

母親への反発、とくにその女としての性へ反発を抱きながら、自らも同じような男女関係に陥ってしまう親娘3代の物語。悲しき血筋と逃れがたき女の欲望、みたいな話で、よくある純文学の枠からはみ出るものが殆どない。 続いて1月号。

『酔いどれ四季』鹿島田真希

「女小説家」あたりを典型とした一連の女の自分語りもの−社会的に女(小説家、主婦など)に求められるものの窮屈さに自ら屈服していくかのようなもの−から、ちょっと趣向が変化した作品。よく書けているんだけどちょっと退屈かもと評されたから、ではむろん…

『すばる』 2008.12、1、2、3とまとめて

先日夢の光景の話をしましたが、バイクであちこち走っていると、一度しか行った事がない所などが、こんどは夢の中の光景と混同されてくるんです。いや、夢まで行かない事が多いかも。 どういう事かというと、頭の中にときどき現れてくる街道の光景で、しっか…

『パーティーでシシカバブ』鹿島田真希

現代的なぶっきらぼうな調子で話す若い男女が出てくる話で、よく趣旨の分からないパーティーへ行くのだが、少しづつ会話がずれ、かみ合わない事にも構わず物事は進み、主人公がそれにどんどん振り回され、あるいは振り回していく様が面白い。 現実にはもちろ…

『テント集落奇譚』又吉栄喜

ほんとに隣町まで噂が伝わるほどに容姿端麗な人はこういう内面を持つのだろうか、と思ってしまうくらい、その内面の記述が平板でスカスカな印象。「私はほんとうに綺麗。装飾品もなぜか好き」というだけみたいな。そうなると話の内容までもが、平板に見えて…

『日本人の戦争 ――作家の日記を読む』ドナルド・キーン

一気に読んでしまった。 戦争に夢中になってしまった作家(永井荷風を除いて)たちの日記を余り詳細な分析・論評をせず、事実と照らし合わせるかたちで淡々と抜粋する。 とにかく滑稽なくらい日本の勝利を信じているのだ。作家でこれだから、庶民においては…

『文學界』 2009.2 読切作品

たぶんそういう人は多いと思う、というか殆ど皆そうでないかと思うのですが、夢のなかで見る光景で、決して現実にはないのに、いくども見ることがある決まった光景というのがあるのですが、それがなんとも不思議です。私の場合それはある駅なんですが、 地下…

対談『小説に対して謙虚でありたい』絲山秋子×鹿島田真希

お二人とも深刻な病気を抱えていたらしく、いちどそういう所へ落ちた人だからこそ書けるというものがあるのだろうが、これまでの作品自体で判断するならやはり、天才という言葉もつい使ってしまいたくもあり、落ちるだけでは勿論だめでこの創作意欲は常人な…

『背中の記憶』長島有里枝

今回だけでなくこれまでを含めた形で言及させていただくが、連載開始から暫くたっていて今頃言うのはなんだけど、この人のエッセイの上手さはなんなんだろう。ヘタな小説読むより人間を感じさせるよ。幼い頃の風景とかまるで自分のもののように思わせたりも…

連載終了『骸骨ビルの庭』宮本輝

なんかラストにかけてとくに修羅場もなく淡々と終わって、戦場でいちど死ぬ目にあった人間だからこそ出来たこと、みたいなテーマに関する部分もなんか休載があったりして薄らいでしまった感じ。人情話としての感動があるわけでもない。 根昆布水がどうだとか…

『ドリーム・ベイビー・ドリーム』樋口泰人

ある意味、『群像』の2月号を読んでいちばんショックを受けたページだ。コラ。スプリングスティーンをアメリカの長渕剛とは何事じゃ、って実は長渕剛なんてアルバム単位では全然聞いたことないんだけど。もちろん樋口さんに言ってるわけではなくて、樋口さ…

『「生」の日ばかり』秋山駿

評価不能。これを読んでどう思えばいいのか、さっぱり。

『ピッグノーズDT』海猫沢めろん

この間読んだ作品でも、思わず刑務所での習慣で大きな声で返事をしてしまう所だけは面白かったりしたのだが、この作品のほうが笑い所は沢山だ。なかで、女の子の趣味として考えれば微笑ましく思えてくるサブカル趣味が、じつは男?だったりすると、それ、た…

『実習生豊子』青山七恵

じつにシンプルかつオーソドックスなリアリズム小説。むつかしい言葉使いや凝った比喩など使わず、しかも、これまでの青山作品に出てきたようなエキセントリックなキャラも不在である。 ここまでやると、これはこれでひとつの極だな、と思う。だって内容自体…

『群像』 2009.2 読切作品ほか 続き

ときどき人に謝る事を知らないオバハンがいて、まあよくよく冷静に考えれば善悪の基準がそれぞれ違うだけなのだけれども、ちょっと冷静に考えるくらいでは払拭できないくらいの怒りを覚えてしまうくらい、どう考えても無神経すぎるという事があり、こんな事…

『不浄道』吉村萬壱

冒頭、日本人の潔癖さについて書いたけど、この小説はそういう事に対する批判とはあまり関係ないようだ。極度に露悪的な状況を描くことで、身の回りの人間関係がじつは普段隠蔽している暴力性を明らかにする、といったところだろう。しかし私は、ここまで露…

『過去をひろいに』小林紀晴

さんざん恵まれてるくせに「自分探し」に貧しい国に行く、豊かな国の人々を描いた小説。基本的に私にとってはどうでもよい人々なのだが、インド人の現地のツアーマネージャーの不機嫌さを描くことにより、豊かな国の人のその身勝手さが多少なりとも描かれて…

『の哲学』大澤真幸

単発ならいいのにまたつまらない連載が群像でも始まってしまったなあ、という感じ。文章が大げさで、読む気がそがれる。 たとえば、「資本主義は、」とかいって文章が綴られるけど、マルクス主義とか宗教と違ってイデオロギーというより、たんなる貨幣制度じ…

『群像』 2009.2 読切作品ほか

日本人論とか読んだことがないし、テレビでよく、日本人ここがおかしい、とかやってるのも見たことがないのですが、私が違和感もってることが一つだけあります。 それは、この国の人はちょっとした雨で傘を差したがること。これがさっぱり理解できません。 …