2011-01-01から1年間の記事一覧

(←訂正)『恋する原発』高橋源一郎

昨日の朝日新聞を読んで、いろいろ思うところあり、高橋源一郎のこの小説の評価を変えることとする。 この記事なのだが、なんでも佐賀県のある市で被災地のガレキの処理を受け入れる決定をしたところ、放射能を懸念したのであろう「安全な九州を守って」とか…

『群像』 2011.11 番外編

さて、読解力猿並みのブログへようこそ。 もし何かの間違いで作家志望とかでたまたま立ち寄った方はここでお立ち去りください。激しい時間の無駄です。それに、とりわけ今日は、あまり文学っぽいことを書きません。 今年も終わりですが、今年はなんといって…

『Tシャツ』木下古栗

すげー、脱帽だー、なんだこりゃー、うわー、という作品。単行本も晴れて講談社から出たのに今回は巻頭掲載ではないし、直前作でほんの少しながら停滞感があったんで油断してた。やられた。見事に。 巻頭の高橋源一郎に目を引かれてこの号の群像を買って、こ…

『スリーナインで大往生』長嶋有

いぜん同様の趣向の作品を書いていて、その続きという作者自身の言及で思い出し、ここでの評価を見てみたら[面白い]だった。しかし今回は・・・・・・。 これが震災によって変わったということ?(まあ、そんな事は多分ないだろう。) 今一度前作を読み返すような…

『恋する原発』高橋源一郎

題名はすごく良い気がしたんだけどなあ。さいきんはまともな評論とか新聞に書いていたりとその手の活動も目立つせいか、こういうスタイルにどうも無理を感じるんだよなあ。CFNMの、なんとなくこれは日本的発展型なのかなと思わせるセンズリ見せがネタと…

『群像』 2011.11 読切作品

パンパンに身が詰まったようなカマスが安く売られていたのでゲットして捌いたら、胃の中にワカサギ(湖とかで穴くりぬいて釣る奴)くらいの大きさのイワシのような魚が数尾出てきました。ちょっと溶けかかっていてヌルヌルでした。ニシンとかタラとかなら多…

『“フクシマ”あるいは被災した時間(二)―追悼と確率』斎藤環

趣旨である抽象的議論のその根幹については、文句をいう気は殆ど無い。というか、理解できてないかもしれないし、理解する気もあまりないから。 気になったのは、その議論の説得性を高めるために、どぎつい資料ばかりを引いているかのように見える点だ。まる…

『ニルダ』ジュノ・ディアス

ヒスパニックのおかれた状況をドキュメンタリでみることはあっても小説で読むことはなかったので新鮮だったのと、主人公の兄が死ぬとともに、つきあっていた彼女までもが「死んで」しまうところが胸を打つ。きっとここには万国共通の残酷な瞬間がある。 ゴリ…

『波』黒川創

題名からしてすでにストレートだが、あの津波と遭遇した一家のそれぞれについて、多少の工夫はあるものの、そこにあった、また、あるべきだった生活と、遭遇の状況を何の奇をてらうこともなく小説としている。多くのひとがあれだけの出来事なのだからそんな…

『楽器』滝口悠生

読み始めてしばらくは、最近の新潮の新人賞はなかなか読ませるね、と思ったりもしたけど、よく考えてみれば前回の新人賞がとくに良かっただけで、更によく思い出してみれば、ちょっと前までは福田和也が編集の人のボヤキとして候補作を揃えるだけでも大変・・・…

『新潮』 2011.11 新人賞ほか読切作品など

9頭立ての少頭数のレースで、8着と9着の馬のワイドを買っていたりすると人間やめたくなりますね。 最近そうでなくても馬連で買えば1着3着とか、ワイドにすれば今度は1着4着とか、神さまに完全に見放された感があって、そんなこんなで何かに八つ当たり…

]『最後に誉めるもの』川崎徹

放っておけば誰も気づかないかたちでスマートに淘汰されるのに、公園にて無責任に野良猫に餌を与え、結果として生まれた子供を全て自分で引き取るわけでもなければ、生じた糞害や音害も野放しのクセに、自分の尺度で問題なければ問題ないと言わんばかりに、…

『ここで、ここで』柴崎友香

評価が併載されている作品に左右されてしまうところがあるのかなと思うが、今まで、複数の人間が和気あいあいとしている情景を描くことが多かったという、主にその理由で嫌っていたのだが、近作はそういう抵抗感は少なかった。 関東でいえばレインボーブリッ…

『きなりの雲』石田千

芥川賞候補にまでなってしまった作品が思いのほか面白かったので、その作家が群像に書いたとなればつい期待してしまうのだが、残念な出来。公正にいうなら、出来という言葉で云々するのは間違っているのかもしれないけれど。というのは、会話を地の文のなか…

『群像』 2011.10 読切作品

最近、痔の負のスパイラルになりかかっています。痛いのが嫌でちょっとした便意を感じても行かない→便がつまって固くなる→いざ出るときは固くでかくなって張り裂けそうになってトイレで汗、という。 NBAの労使交渉が泥沼化していて、今シーズンの開催が無…

『"フクシマ"、あるいは被災した時間』斎藤環

上記のようなものもあればこういうのもあるんだなあ。 やれ猪子寿之だ、ダヴィンチだ、ハイデガーの弟子だ、デゥピュイだと思想家芸術家の名前が挙げられ、ウンザリさせられること請け合い。まるで自らがいかに現代思想に通じているかを誇示するがために「フ…

『うらん亭』黒川創

結果として一番短いこの作品がいちばん読ませるものだった。久しぶりに読んだがこんなに流暢な上手い書き方をする作家だっけという感じである。 一人称として語られる部分と、三人称で、時代を包括する俯瞰的な視点から語る視点が混在していて、最初少し混乱…

『お神さん』太田靖久

新潮新人賞ではそれだけで終わらず二作目が載るだけでもなかなかすごい事なので、歓迎したい気持ちもあるが、そういう事情を知らずはじめてこれを読んだ人にとってはどうなんだろうとも思ったりする。文章も悪くないし展開もよく考えられているようにみえる…

『持ち重りする薔薇の花』丸谷才一

さすがに名前だけは知っていたけど、小説作品を読むのは初めて。あるクラシックのカルテットと懇意にしていた財界大物男性が、そのカルテットの過去をメインにそれに絡めて自分の過去を語る、みたいな内容の作品。とくにこれ、語り自体に面白さがあるわけで…

『新潮』 2011.10 読切作品ほか

人志松本の○○な話を訳あってたまに見るのですが、怪談を怖いと感じることがないので、怪談特集は止めて欲しいです。ちなみに私にとっては、無灯火で信号のない交差点に進入してくる自転車ほど怖いものはありません。 訳あって朝日だけじゃなくて読売もたまに…

『停電の暗闇と明かり』大森兄弟

このエッセイの主題については何の異を唱えるつもりもないのだが、冒頭、戦闘機が通勤電車を「爆撃」、にひっかかりをおぼえる。もちろん戦闘機だって、両翼に一個づつ爆弾を積めるが、対空砲火器や弾薬を運んでいる貨物列車でもないただの列車を「爆撃」す…

『来たれ、野球部』鹿島田真希

片方に自らの完璧性のゆえに自殺を試みる人間がいて、もう片方に自らの劣等に耐え切れずに自殺する人間がいる。この二人を極として、その間に熱血体育教師と、シニカルな音楽教師と、冷静な女生徒を配し、それぞれが順番に観念的な語りを繰り広げる。複数主…

『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子

いちど言及したものにたいして再言及するのは今までにないことだが、ちょっと特別に。(ちなみにネタバレあり。) というのは、読んでしばらく経つのに未だにこの小説について考えることがあるという事なのだが、前作『ヘヴン』に共通することで、ひとつ素晴…

『群像』 2011.9 読切作品その2

さて年に一回はあるビッグマック安売り週間があと少しで終わりますが、私は一個しか食べていません。いつもこの値段のときしか買わないのですが、なんか年を重ねるごとに美味しさを感じなくなってきているのは、マックが変わったのか私が変わったのか。(た…

『背中の裸婦』木村紅美

以前に、どういう題材を扱った作品でも、どこかしら楽天的な明るさが漂う、とかそのような事を書いた記憶がある木村作品だが、この作品にはそんなものはまるで無くなっていた。 ひとりの女性が、他人の保険証をネコババすることでその女性になりすまし、街か…

『文學界』 2011.5 読切作品

さて年に一回はあるビッグマック安売り週間が始まりましたが、ちなみに私はマクドナルドでセットメニューを頼んだことがありません。 今度の日曜日の夜に教育テレビで、『おじいちゃんと鉄砲玉』というドキュメンタリーをやるのですが、きっと余程反響という…

『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子

この前の「群像」は間宮緑作品のおかげで読了する時間がややかかったが、9月号も時間がかかった。この作品のせいである。ただしその意味合いは全くの正反対だ。 この作品のインパクトが強かったせいか、読んだあとの余韻がぜんぜん消えようとせず、次の作品…

『群像』 2011.9 読切作品その1

自作の唐揚げでケンタッキーが再現できないと以前ぼやきましたが、価格が倍以上もするブランド鶏肉使ったら結構近づきました。そういうことだったんでしょうか? といいつつ今日は激安店で(100)グラム29円の胸肉を買ってきたのですが。 青山七恵さん…

『【討議】いま始まる生存と創造』石川直樹+岡田利規+坂口恭平

小説は実験臭が強く、いまひとつ好きになれない岡田利規だが、すげーオトナの発言をしていて正直驚き、そして感動すら覚えた。 もう格差社会と言われて何年もたっていて、で、スマップの歌みたいに皆がそれぞれが花を咲かせればみたいな認識こそが一番の癌で…

『温室で』ブライアン・エヴンソン

前回読んだのを含めて言うと、この作家はいっけん全く作風が違うような作品なのに、それぞれが素晴らしいという、なかなかありえないことだなあ、と。この作品は少しサスペンス風で最初から引き込まれる。ラスト近くの「コックを忘れちゃいけない」という台…