『来たれ、野球部』鹿島田真希

片方に自らの完璧性のゆえに自殺を試みる人間がいて、もう片方に自らの劣等に耐え切れずに自殺する人間がいる。この二人を極として、その間に熱血体育教師と、シニカルな音楽教師と、冷静な女生徒を配し、それぞれが順番に観念的な語りを繰り広げる。複数主観の小説。
前編では、例によってリアリズムから遠い、敢えて構築的な世界を築いていて、前編の前半ではマジでスポ根もののパロディーか何かか、と思ったものの、また例によって、語るものが自らの語りによって縛られて変質して、キャラまで不明確になっていくのは、鹿島田的世界で、文「芸」としては確かに面白い部分はある。避けていたはずの方がいつのまにか積極的になっているかと思えば、またいつのまにか元に戻ったりしているし。
学園モノでやたらと構築感のある非リアリズムなものといえば、芥川賞を最近とった作品をつい思い浮かべてしまうのだが、あの作品などよりは面白い。
がしかし、後編の後半になって、矢継ぎ早に出てくる「生きる」ということをめぐる言説が、私にはどっちつかずのものに思えて受け取りづらく、あまり良い読後感とはいえなかった。ストレートに訴えてもいいくらいの面白みのあることが、鹿島田の小説だと、あくまで観念的な言説のひとつ、小説のなかのネタとして思えてしまって、そのまま受け取れない。
結果、読んでいる最中は割りと面白く読んでいるつもりでも、読み終わってしばらくすると何も残っていないのだ。いつもならこれでも満足すべきなのだが・・・・・・。