2008-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『柄谷行人論』大澤伸亮

新潮の評論は面白くない事度々で、あまり期待しないで読んだが、これはかなり秀作。あ、新潮の評論面白くない言ったけど、正面からの文芸評論があまり各誌載らないので、新潮のこういう試み自体は悪くないと思います。 でこれは、もう半ば終わった人とさいき…

『母性のディストピア』宇野常寛

ちゃんと読んでない(し読む気もしない)ので評価不能。だってのっけから読む気無くさせるんだもん。何だろうこの生硬さ、そして空回り、みたいな。 いわく、「についてもう一度考えてみようと思う。という言葉が嫌ならばでも構わない。」あたりで、なんで「…

『新潮』 2008.11 評論2編

平野啓一郎も高村薫もいなくなり『新潮』に魅力を感じなくなってきてたので、他の連載ってどんなだっけと昔の号を読み返していたのですが、松浦寿輝とか佐藤優とかそれなりに面白い面はあるものの、これを目当てにカネを払うもんでもないなあ、というのが正…

『海辺のサバト』桑井朋子

中年女性が老年女性に恋人を寝取られてしまう話。不思議なくらい以前読んだ桑井の作品とモチーフが似ている。たまたま読んだ2作がそうだっただけなのか、他にも何作か文芸誌に掲載されているのは見たのだが読んでいないので分からん。 ただ2作だけであって…

『霧を駆ける』佐藤智加

「物語」をめぐる寓話風な小説。ある港町で作家をめざす主人公。そこでは作家が書いたオリジナル版のみが、商品として流通していて、それらは店先だけでなく、露天や個人的な取引で売られている。書くことに対するメタな小説であり、批評性は高い。昔読んだ…

『二人の庭園』鹿島田真希

女性の自意識と世間における女性観とのずれ、みたいなものをテーマにした、ここのところずっと鹿島田が書いている小説の、そのひとつといった按配。 実際やや飽きてきた。『女小説家の一日』とか『女の庭』とかとコンセプトはほとんど変わらす、連作といって…

『三島由紀夫は何を代表したのか』小倉紀蔵

近代的政治における代表制の抱える問題にたいして、三島由紀夫の思想にそれを乗り越える可能性がある、といった論考ではないか、と思われる。思われる、というのは、何度読んでも抽象的かつ観念的過ぎてよく分からないからである。いくら政治と文学は切り離…

『文学の中性名詞−川端康成と坂口安吾から』切通理作

なんか漠とした話が延々と綴られていて、評論の体をなしているとはあまり思えない内容。紙の無駄と紙一重。ある女性作家が少女時代にオナニーをしながら窓の外をみていたことと、「末期の眼」や「もののあはれ」を同列に並べることに、無理はあっても、意味…

座談会『柄谷×黒井千次×津島佑子「蟹工船では云々」』

いや別に一般的な意味では少しも面白くはないのかもしれないが、まだ純文学読者のなかに少なからず居るであろうオールド柄谷ファンに向けては、まあ楽しめるものになっているのではなかろうか。彼らにとっては、NAMの崩壊に対して柄谷が思想的な総括をし…

『文學界』 2008.11 読切作品ほか評論など

久しぶりにTVをつけると、厚生省の旧幹部が殺害されたというニュースが頻繁に流れていて驚かされました。 いつの間にかこれが「テロ」と言われていることにです。私の記憶では昔、成田空港の問題をめぐって旧運輸省の幹部などは幾度も襲われたことがあった…

『かけら』青山七恵

日頃接点のない父娘が、日帰りバス旅行に行くことになって、主人公の娘が今まで見たことが無いような父の姿をみる、というはなし。といっても、自己主張のない寡黙で大人しい父という事には変わりなく、いってみれば、現代のどこにでも転がっていそうな父で…

『TOKYO SMART DRIVER』青木淳悟

題名は『このあいだ東京でね』と全く違うかのようだが、これは姉妹編といってもよく、コンセプト、叙述のスタイルは変わらない。前作は主に不動産についてのあれこれが書かれていたのだが、今回はグーグルマップを枕にしつつ、東京の道路事情について色々語…

『新潮』 2008.11 読切作品

ふと思ったのですが、私が少年の頃あったもので今無くなったものとして、歌謡曲がありますね。 ほんと、どこへ行ったんでしょう。今はもうおそらく「歌謡大賞」とか「レコード大賞」もないんでしょうね。いや、あるとしてもテレビではやらないんでしょう。年…

『ぼくのアンネ』小林エリカ

前作に引き続いて、自らの実際の性と性意識との乖離に悩む人物が主人公。もっとそれがストレートに描かれているのだが、ややストレート過ぎたか。結局性体験によってコロっと女性であることの実感に傾いてしまう。こういう結末は、昔存在した『ぶ〜け』的な…

『廃疾かかえて』西村賢太

これまでも買った雑誌に掲載されていたことがあったが、なんとなく避けていた西村賢太。短い作品なので読んでみたが、こりゃ強烈な個性を感じさせるわ、という感じ。たんなる個性というより、もはや異物感が漂う。 まず面食らってしまうのが、主人公の男の会…

『群像』 2008.11 読切作品

大学卒業して社会人になったころ、ある商売を思いついた事があります。もちろん資金なんてありませんから、空想にすぎないんですが、それは「立ち食いスパゲティ」。 ラーメンとか蕎麦は気軽に立ち食いできるのに、なんでスパゲティだけあんなに敷居が高いの…

『闇の梯子』角田光代

この人は上手いんだよな。嫌味なくらいに。短い作品ってこともあるが、淀みなく一気に読ませる。 ただ今回は、少々短すぎるのではあるまいか。薄気味悪いなんて単なる思い過ごしだよなんていきがってる人ほどより強く闇に囚われてしまうという、まあありがち…

『霊降ろし』田山朔美

連載も含め、今月の文學界の全てのコンテンツのなかで一番楽しめたのがコレ。 女子高生を主人公に、親類の知り合いのオバサンにニセ霊媒師をやらされる日々を描く。こういう設定も他にあまりないもので、あまりないという事は確かにリアリズムという点では微…

『文學界』 2008.11 読切作品

最近、世の末だなと将来を危ぶむ気持ちばかり高じて、すっかり肉も買えなくなってます。 買うとしたらトリムネなんですが、主に豆腐を炒めて食ってます。意外にこれが旨い。木綿豆腐は肉代わりになりますよ。味も沁みやすい。 そろそろ旧号に言及しておかな…

『空に唄う』白岩玄

いやしかしこの小説を最後まで読んだ自分を誉めてやりたい気もするが、かなり心が沈んだのは確かだ。どんな風にかというと、(こんな小説ばかりになったらどうしよう・・・)というふうに。 正確には[評価不能]とすべきなのかもしれない。また、これが載ってる…

『文藝』 2008冬、続き

この間、GMやフォードの時価総額に驚きましたが、株価は62年ぶりの安さだそうです。 なんか想像を絶してるんですが、世の中意外と諦めが早いというか、みんな意外とこういう事態予想していたんですかね?心のどこかで。そんな気もしたりします。 家電製品…

『世紀の発見』磯崎憲一郎

しかしこの人も異様に書ける人なんだが、なんか印象としてツルンとして引っ掛かりがないんだよな。 子供時代の奇妙な出来事からはじまって、成人してからの海外への派遣生活を淀みなく語っていく。子供時代の昔語りなんかは純文学にありがちな内容だが、海外…

『おひるのたびにさようなら』安戸悠太

これはなかなか力作。[面白い]というのは、少し新人としてという留保があるけれども。 少なくとも私には、この作者には、他の新人賞受賞者に顕著でしかもそれしかない、たんに小説家になりたいという欲望以上に、書くことへの拘りが感じられる。そこがまず好…

『文藝』 2008冬

絲山秋子氏が「作家になりたいのならこれだけはしておけ」と問われたときに、「就労体験」と答えたのが、ずっと頭の中に残ってます。 むかし柄谷が、物を売ることを「暗闇への跳躍」と書いていたような覚えがあって、それに似てなくも無いな、と。 つまり仕…

『怪訝山』小池昌代

金持ちにたいして価値の無い絵画を売りつける詐欺的な商売をやってるサラリーマンが伊豆の山裾のひなびた温泉宿で地元の体格の良い女将とねんごろになる話。この女性と山のイメージをオバーラップさせているところがポイントだがやや無理なかんじ。 金魚がな…

新連載『なずな』堀江敏幸

この独身でなぜか赤子を育てている男性と、彼が親しくしている医者のバツ一娘が、どうみてもいずれは一緒になりそうな予感がしてしまうのは何故だろうか。描き方が上手いという事なんだろうか。 それだけならメロドラマ的小説に過ぎず、男性の境遇をみても今…

『団地の女学生』伏見憲明

団地にひとり暮らしをする老女が、ゲイの中年男性をお供にして戦中戦後のころ自分の事を好きだった男性を何十年ぶりかに訪ねに故郷に行く話。 題名からして主人公である筈の老女よりも、お供に過ぎないゲイの方がよく描けてるなあという感想を最初抱いたとき…

『ハワイアンブルース』木村紅美

前作が割と面白かったので読んでみたが、確かによく書けている。 群れて行動するのが好きでないOLという読者が感情移入しやすそうな人物を主人公にし、ハワイに社員旅行して沖縄に関する施設を訪ねて帰ってくる話。いつもは社内で中心的な位置にいてどちら…

『すばる』 2008.9 他

そういえばこの間、セドリの人たちのお陰かどうか分かりませんが全く掘り出し物に出会えない超有名チェーン古書店で、『すばる』の割と新しい号を105円で手に入れたので読んでみました。 今日はそのうちいくつか。 ところであの誰もが知ってる超有名チェ…