『怪訝山』小池昌代

金持ちにたいして価値の無い絵画を売りつける詐欺的な商売をやってるサラリーマンが伊豆の山裾のひなびた温泉宿で地元の体格の良い女将とねんごろになる話。この女性と山のイメージをオバーラップさせているところがポイントだがやや無理なかんじ。
金魚がなぜ一匹になっているのかとか、部下の不思議な女性のこととか、幽霊と老人との関係はとか、宿に飾ってある絵のこととか、いろんな要素が描き出されてはそのまま放り出されている印象。とくに、山の女性はよく描かれていると思うが、部下の女性があまりにも分からなさ過ぎ。不思議ちゃんな女性はそれは世に沢山いるし他人なんてそもそも分からないものなのだが、ここまでヘンだと例え小説であっても、どうなんだろうこれ、と思う。
だから結末の主人公男性が、この不思議ちゃんを伴い伊豆を再訪する決意がまったく伝わってこない。肝心なところなのに。
ただし小説全体をみれば、少ない言葉数で情景を喚起する力は相当あると感じた。