2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『246号線』上村渉

題名見たときは(そのまんまやん)とつい思ってしまったよ。 ところで、わたしの感覚では、16号線とかカンパチのほうが交通量が多いような感覚に陥るけれど、ああいう環状になっている道路と違って、地方と東京を直線的に結ぶ道路は思い入れを呼び込みやす…

『僕らはハッピーエンドに飢えている』松波太郎

とりあえず読んで笑えるところがあればポイント高しっていう基本的な方針でやっているので。カナダってカナダ語ってははは。 この人は市井のおもろいひとを、まるでそのまんま、こういう人がいてもおかしくないという感じで描くのが上手いよな。知り合いが、…

『説教』墨谷渉

直近に読んだ作品があまりに面白かったので、ついほんの少し物足りなさを感じてしまったが、どんな傾向のことが書かれているのがある程度分かっていて、それでも面白く思えるというのは、良いことなのかどうか。もはやファンともいうべきレベルになりかかっ…

『七月のばか』吉井磨弥

新人賞というのは到達点というより通過点なのでこういうケースもそこそこあるけど、受賞第一作からこれほどの力作とは、という感じ。この作品の載った号から遡って半年くらいの「文學界」のなかでは一番の作品だったんではないだろうか。 で、この作品には単…

『メッテルニヒ氏の仕事(第一部)』佐藤亜紀

近代国家の枠組みが徐々に出来上がってくるころの、欧州の上流階級出身の役人を描いたものなのだが、この時代の欧州にさほど興味があるわけでもなく、しかもそこそこボリュームあるので、最初は読まないつもりだったんだけれど、最初の数ページ読んでいたら…

『文學界』 2011.11 読切作品

冬場はいつもスネが乾燥して夜中に掻き壊すため、毎年別のフットクリーム的ものを買うのですが殆ど効果なく、でも塗らないよりマシなので塗っていたのですが、先日職場のオバサン連中が話しているのが耳に入ってきたワセリンを試したところ、効果てきめん! …

『道連れ』北野道夫

ローカル線のなかで、たまたま逃げた女をそれとなく探し続けている男と、男から逃げてきた女が、ななめ向かい合わせに座る。そして、この男と女が交互に、それぞれの主観で語るという小説なのだが、男のほうのパートでは、いま目の前にいる女と、男が探して…

『ダイヤモンドブレード』吉原清隆

ある定年を終えた男性が過去の自分を悔いる話。ちなみに「ダイヤモンドブレード」というのは、アスファルトを刻む機械で、きっと誰もが目にするか少なくともその作業音は耳にしたことがあるだろう。単純に男が仕事で使っていたのがそのダイヤモンドブレード…

『リボルバー8』中山智幸

相変わらず実感を伴うこともなく、かといって面白みもない比喩が散見されて読む手を思わず止めさせるが、ここまでくると、これはもう一つのスタイルであり、作者がこういうところにこそ書く楽しみを持っているのだろう。文句をいっても仕方あるまい。 中年に…

『光線』村田喜代子

さいきん「新潮」に連載されている遊女のやつはさっぱり面白くないので最近はもう殆ど流し読みなのだが、この作品はつい引き込まれた。自分が入院経験がある影響もあるかもしれないが、こういう"病もの"はつい読んでしまう。(まえに一度書いたかもしれない…

『文學界』 2011.10 読切作品

むかし山手通りを自転車で走っていて、外国人の方に目黒駅はどこかと問われ、つい目と鼻の先にある中目黒の駅を教えてしまったことを未だに覚えています。 べつに悪気があったわけではないんですけど、坂の上にちゃんと目黒駅があることは知っていてそのあと…

『金子光晴流サバイバル術 第3回 東京で学ぶ〈超貧乏〉の極意』鈴村和成+野村喜和夫

なんとなく流し読みしていただけなので、中心的な趣旨というか全体を通したところへの物言いはしないでおくが、ちょっとヘンなのが目についたので。 なんかTVは電力を使う最大手だから、TVが節電を呼びかけるんじゃなくてTV放送そのものをカットしたら…

『五月、隣人と、隣人たちと』瀬川深

この小説もたんなる偶然だが、私にとっては上記と似たような欠点が目に付く。「論評」「感想」が多いのだ。「出来事」もたしかに書かれてはいて部分的に面白かったりはするが、主人公の内部などより、いま少し細部にわたってここを書いてくれたほうがよほど…

『百年の憂鬱』伏見憲明

おそらく作者自身にかぎりなく近い中年の同性愛男性と、西洋人の血が入ったルックスの良い美少年とが付き合いやがて別れるはなし。 若い美しい男性が、醜男とすら形容してもよいかもしれない中年男性と付き合うというのは、いっけんあまりなさそうで、しかし…

『ホームメイキング同好会』藤野千夜

この人の連載というか連作というかについては、他誌掲載のものを含めて確か目にするのはこれで3作目くらいなのだが、ほとんど区別が付かないところが恐ろしいというか、つまりはそれがこの人の持ち味でもあるのだろう。ちょっと「天然」っぽい粗さを持った…

『すばる』 2011.9 読切作品ほか

今更ですが、古内東子さんは、やはり天才だと思います。 正確には、もしかしたら天才だったというべきなのかもしれませんが。何しろあの大名作『hourglass』以降の数作までしか聴いてませんので・・・・・・。まあ、おそらく音楽関係のひとがここを覗く可能性は低…

『音の降る川』米田夕歌里

いままでこの人の書いたものに対する印象はいまいちだったが、「物語」があまりないこの作品でがらり一変である。絶対音感をもつ少女にとって世界がどのように見えるかというのを、あくまで文章による情景として描いてしまおうという小説で、作者が絶対音感…

『おれたちの青空』佐川光晴

おれのおばさんのこれは完全に続きであって、そのとき書いた以上それほどの感想はないが、いまひとつ思ったのは、この作品が書かれるにあたって、北海道、なかでも札幌という土地が中心であったことはある種の必然ではなかったか、と。少なくともあの作品の…

『残された者たち』小野正嗣

いままで掲載誌を変えつつも主に「すばる」において書かれてきた、この限界を超えた限界集落モノのなかでは、この作品が一番面白いものではないだろうか。これまでの作品のなかには、やや単調というか、まじめすぎて「アソビ」が足らないというか、読んでい…

『冬の旅』辻原登

この人の語りは、ほんとこなれていて、物語的要素をうまく取り入れたエンターテインな純文学だと思う。ただでさえ職がないのに、ムショ上がりの人間に今の日本でいったいどういう生活が可能なのか、という話になっていくんだろうか?

『すばる』 2011.8 読切作品

私が住んでいるところの同じ階に、本当の苗字は違うのだけれど、「ナカソネさん」と思わず言ってしまいそうになる頭の人がいるのですが、壁越しに分かる彼の音楽の趣味はパンクです。 今は全く聴かないしCDも売り払ってるんですが、ニューウェーブ的洋楽が…

『プロット・アゲンスト・アメリカ』フィリップ・ロス 柴田元幸 訳

こりゃ面白い。フィリップ・ロスって、アメリカ版私小説のひとだというどっから来たのか分からない思い込みで、殆どすべてが事実に基づいていると思って読んでいて、たしかに連載一回目では一見そのようだが、後日調べたわけでも読みながらリンドバーグで検…

『フラワーズ』松本薫

この作品はエンタ的要素はないので、「すばる」でいいとは思うがそれにしても・・・・・・。図書館から借りた身であまり文句もいえないので、あまりグダグダ書かないが、視点があまりにも少女側に偏りすぎていて、かつこの少女が善人過ぎやしないか。そしてこの主…

『到着ロビー』デビット・ゾペティ

真剣に読んでいられたのは、主人公が思わず急死した旧友のふりをしてしまい、客人として蒲田へ向かうあたりまでだろうか。 蒲田の中小企業についてからは、中国人に扮していたつもりがふとした拍子に日本語を口にしてあわててごまかしたりだのして、楽しく読…

『パトロネ』藤野可織

私が読んでいる限りにおいてはずっと非リアリズムを書いてきて、しかし以前は確か恐竜だとか悪魔みたいなものとか出てきたことを思えば、この作家ずいぶんと洗練されてきたなあ、と一読して思う。分かりやすいというか大胆というか乱暴というかそういう非リ…

『すばる』 2011.7 読切作品

私が住んでいるところの一階に、無責任にも毎日定刻に野良猫に餌を与え近所にフン害・尿害・夜中わめき声害などを撒き散らしている中年男がいるのですが、シャツからパンツ、アウターまで全身ユニクロです。 というのが何故分かるかというと私もユニ服少し持…