『光線』村田喜代子

さいきん「新潮」に連載されている遊女のやつはさっぱり面白くないので最近はもう殆ど流し読みなのだが、この作品はつい引き込まれた。自分が入院経験がある影響もあるかもしれないが、こういう"病もの"はつい読んでしまう。(まえに一度書いたかもしれないけど、健常者と病者との違いは老若男女の違いを遥かに超えるとも思っているし。)
で、ガンを、保険を使うのが認められないような最新の放射線で退治しようとする夫婦の話なのだが、どこまでノンフィクション的な事実に対応しているかは調べていないが、おそらく、原発事故というものがなかったら書かれなかった作品ではないか。今現在人々が忌み嫌う放射能が、ここでは、というかその放射線治療にあたる医師によっては、ある種の退屈さすら感じさせるただの物理的な何か、扱いさえわきまえていればなんてことはないものとして扱われている。ただし、患者にとっては、救世主でもありながら、やはりどこか恐ろしげなものである。浴びる回数も厳密に決められている。毒をもって毒みたいな世界なのだ。
遠くからきた患者に用意された住宅が洗濯も干せないくらい「灰」が漂っているところなどに、さりげなく外部からの侵入者という意味での放射能を象徴させたりして、なかなかうまい。村田は「放射能」に対して何も結論を用意していない。ただし、こういう治療方法が存在することと、原子力発電があることが全く不可分ではないことは示している。もちろん不可分ではないというのは、べつに、放射線治療みたいなものがあるんだから原発も否定できないんだよ、とかそういうことではない。