2012-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『緊急特別企画 恋せよ原発』佐藤友哉

いつにも増して力が入っているように感じられたので、全部を理解したとは言いがたいかもしれないが少し書いておく。まず、戦後と震災後(原発事故後)は何かが決定的に違うのではないか、という点については、賛意を覚える。とくに、同じ11日に起きたから…

『土産』松井周

最初はとうもろこしかなんかの擬人化かと思ったけど、とにかく何が書きたいのか最後までさっぱり掴めない。私の読解力と感受性では歯が立ちません。 このわけの分からない生物が二体いて、ふらふらあてどなく歩くだけの話で、二体の間で交わされる会話の内容…

『今宵ダンスとともに』墨谷渉

この号の群像でいちばんの読み応え。もっと注目されていいのになあ、この作家。 すばるでデビューしたときにはどちらかといえば肉体的にがっしりした女性がでてきたりして、フィジカルなマゾヒズムを追い求める感じだったし、一方の要素では、数値化という要…

『ハリケーン』エナ・ルシーア・ポルテラ 久野量一訳

キューバというアメリカに滅茶苦茶近いのに社会主義国である国の置かれた状況、CNN見ていたりとか、亡命人から送られてくるお金だけで働かずにやっていける人もいるのだ、とかいうことがある程度わかるが、それ以上の感想はない。

『赤いリボン』ジョージ・ソーンダーズ 岸本佐知子訳

「正しさ」、とくに社会的な運動のそれ、の恐ろしさを教えてくれる小説。この小説のなかに、いま現実にあちらこちらで起こっていること、あるいは過去におこってきたことが凝縮されて描かれている。これを止めるのは容易ではない。なぜというならば、正しさ…

『二年前のこと』中村文則

読んだそばから忘却だったので今めくりかえしてみたら、ある作家の感傷が書いてあるだけのようだ。

『テンモウカイカイソニシテモラサズ』長野まゆみ

善悪の区別もまだつかないのに知恵だけは大人以上に働く、天才型の特異少年を描いたはなし。なんかありがち。でも、読みやすいし上手い。ただ、あえていうなら、こういうこなれたものは群像以外の方がしっくりくる。

『街宣車のある風景』高村薫

この特徴的な文体!私はこれだけで嬉しくなる。そして、この空疎な「戦後日本」の光景をいまふたたび描いたということは、間違いなく震災後の小説なのだ、と思う。

『問題の解決』岡田利規

以前に載った短編の別テイクのようなものだ、という注釈が最後になされているが、今回の作品のより洗練されて読めるのは、読む私が変わったせいなんだろうか。「私」が一人称視点で自分自身をかたるごく普通の小説の部分と、その視点がいきなり神視点になっ…

『エイを探しに』稲葉真弓

半島の別荘地であれこれする例のアレ。さぞやいい所なんだろうが、なんの興味もないし、どうも生きている人間の欲望がぎらついていているせいなのか、昔栄えた頃のその地方について語っていても、不思議と何かの感慨を呼び起こすこともない。こういうのもあ…

『大聖堂』池澤夏樹

あの日(3月11日)できなかったことをやり直す話。死者をただしく弔うはなしで、そつなくまとまっているがこれといった感想がない。あまり良くないことだとは思うが、あの日いらい、私たちの多くが弔うことの出来ない死者にばかりこだわってしまっている…

『群像』 2011.12 読切作品

最近もっとも悲しかったのは、バイクで家に帰る途中で、スーパーの惣菜コーナーで買ったジャンボメンチカツを落としたことです。 少し前からネットのニュースとかブログで、「いいね」というボタンがあったりしますが、良いも悪いも示しようがない単なるニュ…

『批評時空間』佐々木敦

すべてを読んだわけではないが、途中、2000年に入って音楽がなぜ詰まらなくなったかについて正直に語っているところがなかなか興味深い。自分の側ではなく音楽の側にその責があるとするところなど、批評家としては潔い内容だ。 だがその原因については、…

『泣く男』黒川創

今回はむかしから核に疑問をもってきた人物という、事故が起こったあとに描くにしてはやや都合が良い人物がでてきて、やや退屈気味。かといって、むろんこういう人物が実際に皆無だったわけではないし、日本への原爆投下が実験という側面があったことも否定…

『天気』辻原登

電車の切符に記載された時間の取り違えハプニングを導入部にもってきて、読者を引っ張り込む手腕はさすがとしかいいようがない。

『ダウンタウンへ繰り出そう』高橋源一郎

震災を期に、というか、原発事故を期に「新潮」に高橋が書いたもののなかでは一番何かを感じさせ、考えさせるものだった。 たとえば事故以前にだって「事故」はあったのに見ようとしてこなかったことについて。あるいは、いまの汚染をめぐる「分断」状況につ…

『南寺』チョン・ミギョン

2000年代に入ってからの先進国はどこも似たり寄ったりの経済状況(好況といわれても職はなし、不況ではさらになし。それと、新聞雑誌、本やCDなどのメデイア不況)だと思うけど、もはや韓国らしさは殆ど感じられない、そのまま日本の中小企業の話とし…

『ある法会』金仁順

なぜかしら心に残る小説。現代中国で、仏教にすがるようにして生きる、一定以上の所得のある人々を描いた小説なのだが、短い小説でたいした筋があるわけでもないのに、おなじ人間の息吹をいちばんに感じた。 さまざまな光景の処理のしかたが現代の日本の小説…

『Geronimo-E, KIA』阿部和重

読んで暫くして、ああこれはあのひとを殺した事件についてのことだなとすぐに気づく。裁判もなにもせず、いや裁判どころか、他国の領土内でというあからさまな主権侵害をしつつ処刑するという、狂っているとしか言いようのないあの出来事。それほど国際的に…

『餌』キム・イソル

たんなる釣り名人が女性を何人も監禁していてひょっとしたら釣りの餌にも?という強烈な内容の小説で、こういう内容で途中でウンザリさせずに読ませるんだから技術はあるんだろうけれど・・・・・・。この手の悪は、これはもう"近い過去はより遠い"、そのものでは…

『小説二題』莫言

共産主義まっただなかの時代と、成功者と敗者の落差があまりに大きくなった現代の、そのあまりの落差のなかを、それでも淡々と渡ってきた人々のたくましさが読みながら感じられて、そういう意味での(例えばドキュメンタリーを見るような意味での)興味深さ…

『ヒグマの静かな海』津島佑子

今回の震災でTVに映し出されたある被害者の映像から、主人公は、自分が若い頃になくなった「ヒグマ」というあだ名の年上の男性のことを思い出す。その男性は自ら命を絶ったのだが、なぜそうしたのかが分からないこと、どうあがいても手が届きそうもないも…

『文學アジア3×2×4 第四回「喪失」篇』

今回は阿部和重のが出色で、これだけで面白く、もとがとれた感じ。外国勢は平均的に良かった感じかな。いつも韓国勢に厳しいみたいだけど、偏見なんて全くありませんからね、言うまでもなく。ハンリュウドラマもケーポップも知らないでしょ興味ないでしょ、…

『新潮』 2011.12 読切作品ほか

先日賞味期限を二年くらい過ぎたシチューの素を使ったら、普通に食べれました。(といっても、主にパスタソースになるのですが。) と書いてふと思ったのですが、野菜をスーパーなどで買うとき、賞味期限なんか表示されていませんね。野菜については、肉や魚…

『生き延びるための思想』上野千鶴子

こんなの載せるのは果たして文學界のやることなんだろうか、と思ってしまうが、図書館で借りている身として文句は言えない。 前半部分いがいは流し読みなので評価は載せないでおくが、原発事故に対するダメな反応の代表と思えるようなところがあるので、記し…

『グンはバスでウプサラへ行く』小谷野敦

評価の難しい作品だが、面白いか面白くないかといえば間違いなく面白い。 なぜ難しいかというと、わたしたちは小説の場外での小谷野敦氏にあまりに親しんでいて、この作品も、読んでいてブログの雑文の延長線上にあるエピソード集的回顧録という感じがして、…

『文學界』 2011.9 読切作品ほか

ヒップアップにいいというので、最近は歩くときは意識して大股で歩いているのですが、変なひとに見えないか心配です。 最近はあまり流れませんが、アイパッドのCMで、あんなこともこんなことも、ってやるのが大嫌いで、いやいやそんなこと何一つやる気にな…

『海の碧さに』三輪太郎

テーマ的にとても意欲的な作品でこういう作品はまず間違いなく少ないだろうからあまり低く見たくないものの、残念ながらあまり面白くない。よってこんな評価である。 まず言っておきたいのは、いくら天皇陛下万歳といって彼らが散っていったからといって、そ…

『まちなか』広小路尚祈

たしか新人賞ではなく佳作デビューだったような覚えがあるのだけど、その後コンスタントに作品を発表し続けている人で、新人賞一作で終わってしまうよりも稀な感じもする。この作家はテーマ性だけでなく、文体そのものに一定の魅力というかスタイルがあるこ…

『文學界』 2011.8 読切作品

ヒップアップにいいというスクワットのやり方があるのを最近知って、新年早々はじめています。 さて正月気分もすっかり消え去って書くような事でもないかもしれませんが、例年とそうたいして違わないクリスマスの街のライトアップを見て、おいおいこれが原発…