『Geronimo-E, KIA』阿部和重

読んで暫くして、ああこれはあのひとを殺した事件についてのことだなとすぐに気づく。裁判もなにもせず、いや裁判どころか、他国の領土内でというあからさまな主権侵害をしつつ処刑するという、狂っているとしか言いようのないあの出来事。それほど国際的に異議が噴出しなかったのはどう考えてもおかしいとしか思えないのだが、阿部はここで、その事件を子供たちがシミュレーションとして競技として行っている世界を描き、あの狂った出来事の狂気性をより際立たせる。モータウンを頭で刻みながらというのはやややりすぎかもしれないが、こういう過剰さもいい。
ちなみに最初はディテールの細やかさで読ませるもののように思わせるが、若干とってつけたようなそこよりも、中盤以降の競技者の内面をあれこれ描く想像力の方により圧倒される。