『赤いリボン』ジョージ・ソーンダーズ 岸本佐知子訳

「正しさ」、とくに社会的な運動のそれ、の恐ろしさを教えてくれる小説。この小説のなかに、いま現実にあちらこちらで起こっていること、あるいは過去におこってきたことが凝縮されて描かれている。これを止めるのは容易ではない。なぜというならば、正しさに背を向けねばならないからだ。
題名にもなっている赤いリボンがどんどん本物から離れていくのが、なんといっても面白い。主人公のなかにはじつは、リボンにたいして小さな小さな違和が生じているのに、それは他者との協和の大きさにいとも簡単に埋もれる。「仲たがい」を恐れてはならない。そんなことはわかっていても、たぶん、避けるのは繰り返しになるがまったく容易ではないと思う。
たとえば、幼くして不慮の事故でなくなったものたちはいつだって「純真ないい子」として語られて、そこまでで終わるなら害はないしむしろまわりの人の自然な気持ちの発露なのだが、それがスタートであることも確かだし、「自然」だからこそ恐ろしい。