『小説二題』莫言

共産主義まっただなかの時代と、成功者と敗者の落差があまりに大きくなった現代の、そのあまりの落差のなかを、それでも淡々と渡ってきた人々のたくましさが読みながら感じられて、そういう意味での(例えばドキュメンタリーを見るような意味での)興味深さはあった。こういう人間理解を大陸的なおおらかさなんて表現するとステロタイプになっちゃうのかもしれないが、この小説がそういう理解から大きく逸脱する部分がないのも残念ながら確かだと思う。ただし、今の時代のほうがマシだし絶対昔に戻りたくないとわかっていても、党の人間ばかりがおおいばりでワイロが横行していた昔の中国が、それでもいくばくかの郷愁をもって語られるところについては、これは面白さを感じる。あのころプロレタリア同志であった東欧の映画がこっちでも流通していたんだなあ、とか。