『ハワイアンブルース』木村紅美

前作が割と面白かったので読んでみたが、確かによく書けている。
群れて行動するのが好きでないOLという読者が感情移入しやすそうな人物を主人公にし、ハワイに社員旅行して沖縄に関する施設を訪ねて帰ってくる話。いつもは社内で中心的な位置にいてどちらかというと余り関わりたくない年下同僚と相部屋になるのだが、社員旅行という日常から離れた場所であるがゆえにそれとなく一緒に行動する気になり、彼女もそう見下げた人物でもなかったというふうになる。それでも旅行から帰ってみれば以前より深く付き合うという事もない相変わらず淡い関係、という所まで含めてありがちな話。
ありがちではあるが、こうして読ませる作品にまで仕上げるのはそう簡単ではないだろう。そういう指摘はほとんど無いと思うが、私のなかではテイスト的には青山七恵に近く、読むべき作品かという位置づけでいえば芥川賞作家の一人と殆ど変わらないくらいのものだ。
そして他の作家にはない木村紅美らしさといえば、ある種の楽天性を感じるところ。これは日本以外の場所、異国の風景や出来事などがテーマに近接するような形で度々描かれるという趣向性と無縁ではないだろう。といっても主に南国なんだが、その南国の暖かさと乾いた湿り気、そういうものが登場人物の関係や性格にも現れて(しまって)いる。だから暴力とか貧困とかいうものを突き詰めるような作品では、迫れていないな、という感想を抱くことにもなる。
この作品でも、日本人観光客に花を押し売りする人の悪意は描かれているが、その裏にある階級性(日本人は世界史的には完全に支配民族になっている)はその片鱗も描かないし、沖縄人の苦労もそれほど掘り下げられる事はない。無論この作品に必要ではないし、木村らしさを捨ててまで今それを書くべきというほどでもないだろう。『すばる』を読んでいる読者にはこういう作品は大いにフィットするだろうし。
私は『すばる』を定期的に買うつもりはないのだが。