『団地の女学生』伏見憲明

団地にひとり暮らしをする老女が、ゲイの中年男性をお供にして戦中戦後のころ自分の事を好きだった男性を何十年ぶりかに訪ねに故郷に行く話。
題名からして主人公である筈の老女よりも、お供に過ぎないゲイの方がよく描けてるなあという感想を最初抱いたときは、やはり男性作家だからだろうかと思っていたのだが、何の事はない作者自身がゲイだった(さっき初めて知った)。
このゲイの男性の行動が挿入される(しかも一人称視点で)おかげで、最後まですんなり読めたが、逆に言えば、肝心の老女の内面がいまいち物足りなく、老女の話だけでは作品にならなかっただろう。いや、物足りないという事はないか。老女の過去の辛い出来事なんかじつに上手く描写されていると思う。だが、なんか唐突な感じがするのだ。子猫を殺してしまったとか、弟夫婦だか兄夫婦だかと同居したときの辛さとかを経ている人間のわりには、なんか現在が軽すぎるような気がしたのだ。
ゲイ男性をどうせ何もしてないみたいだからとアシに使ったり、過去に辛い思いをさせくせにその男性に気まぐれで厚かましくも会いに行ったり、しかもその男性がボケているのに自分の勝手な解釈でまだ自分を好きみたいとイイ気持ちになったりと、軽さだけでなく性格の悪ささえせっかく感じられるのだから、そこを生かしても面白かったと思う。つまり結末が少々纏まりすぎていて、猫を新たに引き取るなんていう性格の良さを見せないほうが良かったかもしれない。
しかしこの作品のどことない明るさもなんか『すばる』らしい。