『かけら』青山七恵

日頃接点のない父娘が、日帰りバス旅行に行くことになって、主人公の娘が今まで見たことが無いような父の姿をみる、というはなし。といっても、自己主張のない寡黙で大人しい父という事には変わりなく、いってみれば、現代のどこにでも転がっていそうな父である。まあ、今更「腕に時計があると便利だぞ」なんて言う中高年がいるかどうか怪しく、ジェネレーションギャップを表現するにおいてやりすぎの所もあるけど、破綻しているほどじゃなくて、中篇としてそれなりに読ませはする。兄とその嫁のキャラも面白い。それとなく兄の性格も淡白でそっけなく、おそらくそれは父親譲りでもあって、その似たもの同士ゆえの過去の衝突というふうに整合性も確かだ。
ただ今回は、主人公の娘の内省の深さと、父への接し方の淡白さとのギャップをちょっと感じてしまった。これほど深く内省して語れるのであれば、もっと父親との間で会話があってもよいと思うのだ。極端にいうと、思考は一昔前の文学少女、が行動は現代っ子、そんな不自然さを感じた。
とはいえ、父・息子の確執や、母への娘の反発をテーマにする純文学が多い中、青山の書く距離感のある家族像もまた現代の一端を捉えている部分は確実にある。こんな平凡な小説にも彼女なりの独特なものは出ている。